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濃縮飲料に追い風、物価高でも支持される“自分好み”という体験価値 「多少の手間があるからこそ、チャンスがある」
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炭酸水が“身近になった”コロナ禍、濃縮市場の拡大を後押し
「炭酸水がより一般の人にも受け入れられる土台ができたことで、“割る前提”の商品が成立する土壌ができました。これまでコーヒーやお茶などの濃縮飲料は、“自分の好きな濃さで割ることができる”や“コスパがいい”など、便利な商品である点が特に際立っていましたが、そこに“アレンジできる楽しさ”といった情緒面が加わったのが今の状況だととらえています」(サントリー食品インターナショナル 宮内優洋氏)
思い起こされるのは、自分好みに飲み物を作った濃縮飲料や希釈飲料の原体験だ。子どもの頃にカルピスを「こっそり濃くして怒られた」エピソードや、放課後にドリンクバーでいくつもの炭酸飲料を混ぜて“謎ドリンク”を作ったというエピソードも。「これだけ原液を入れると、こんなに濃くできるんだ」と自分で作るからこそ生まれる“ちょっとした背徳感”や、“自分だけのために作る一杯”の楽しさがあった。
また外食のドリンクバーは、味そのもの以上に“空間ごと楽しい”という記憶を持つ人も。子どもがワイワイ混ぜる、友達とふざける、家族で非日常を楽しむ…そうした感情の記憶を呼び起こすスイッチとして機能している。
「様々な側面から、アレンジできる価値が今は受け入れられています。炭酸水で割る多少の手間がある商品でも「チャンスがある」と思えたので、『おうちドリンクバー』として濃縮飲料を展開していきました」
「めんどくさい」「コスパよくない」を超える鍵は、家族の情緒
サントリー食品インターナショナル 宮内優洋氏
「普通の炭酸飲料なら、ペットボトルを開ければすぐ飲めます。そこをあえて濃縮で提案するには、それなりのメリットがなければなりません。『おうちドリンクバー』の売りは、コスパというよりは、“作る体験”や“自分好みにできる”ことにあります。だからこそ、価格以上の価値に対する納得感を生む“体験”を前面に置く戦略を採りました」
商品開発段階では、「炭酸水で割ってCCレモンなどが飲める」と言っても「炭酸水を用意したり、割ったりするのがめんどくさい」といった声が多かったというが、お店で美味しいたこ焼きを買える中で、あえて手間をかけて家でワイワイ作る“タコパ(たこ焼きパーティー)”をヒントに、誰かと楽しむ、作ること自体が楽しいという情緒的価値を重視した。
2024年の発売当時、主なターゲットに据えたのは「子育て世代」。家族で共有できる飲み方、子どもが喜ぶ体験を想起しやすい提案を丁寧に作り、「ただ飲める」ではなく「家でドリンクバー気分を味わう」ことを訴求。機能性ばかりが目立つ飲料のコミュニケーションに、情緒が際立つ商品が登場したことは、発売当時から大きな印象を残し、24年は数量ベースで想定の約2倍の販売水準と、好調に推移したという。
「情緒面を押し出しましたが、結果的に「濃さを調節できる」という機能面は健康志向とも相性が良かったと言えます。甘い炭酸飲料を以前ほど飲めなくなった人が「ちょっとだけ甘いものを飲みたい」「さっぱり薄めにしたい」と感じたとき、ペットボトル炭酸飲料とは違う選択肢になり得る。“炭酸飲料から離れた層”にも刺さったのではないかと思います」
炭酸の強さを左右する“割り方” 開発は試行錯誤の連続
「どのような割り方でも美味しくできるようにするために、想像以上の工数がかかりました。基本の希釈比率を設定し、単品だけではなくシリーズ全体で割っておいしいバランスを探っていきました。普通のペットボトルではできない楽しみ方として、ホットアレンジや牛乳割りなどのレシピもパッケージに提示する工夫を凝らし、「普通の炭酸飲料でいいかも」と言われかねないからこそ、アレンジの広がりの部分まで支えていかなければならないと考えました」
アレンジ文化を押し上げているのがSNSだ。ユーザーが独自の飲み方を投稿し、公式もそれを見ながらレシピ開発や発信を行う。飲料だけではなく、グミ、琥珀糖、シャーベットづくりなど“飲む”を超えた活用も生まれており、投稿には「私が見つけたアレンジ」という発見の喜びも。「開発した自分も驚くようなレシピが出てきます。例えば社内では、「ペプシコーラ」フレーバーをケチャップと混ぜてディップソースにすると、バーベキューソースのようでおいしいという情報が入ってきて…(笑)。そんな“飛び道具”的なレシピも、話題づくりの一環としてSNS投稿していきました。お客様と互いに刺激し合うことで、カテゴリー自体の楽しさも増幅していると感じます」。
それぞれの好みに合わせられる”全方位型ドリンク”「子どもから大人まで満足できる一本を作りたい」
「開発当時から、子どもから大人まで満足できる一本を作りたいということは考えていました。世帯人数が減り、炭酸を開けても飲み切れずガスが抜けてしまう。そんな“今の生活”に合わなくなった炭酸飲料の課題に対し、「飲みたい量だけ作れる」「家族それぞれの好みに合わせられる」という価値をより提示していきたいと考えています」
濃縮飲料はこれまで、コーヒーやお茶など“日常の便利”を目的としたものが中心だった。しかし炭酸を経由して、「自分で作る楽しさ」「アレンジする面白さ」を本格的に持ち込んだことで、カテゴリーの価値は広がり始めている。
物価高の時代、飲料は価格比較されやすい。それでも支持される鍵は、機能と情緒の両立だ。便利だから買う、だけではなく、ちょっとワクワクするから買う。家族で選べる、自分好みにできるから買う。そうした“出口”を増やしていくことが、飲料市場の次なる成長をも左右するのではないか。