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[Alexandros] ウマ娘主題歌で見せた“矜持”、新作アルバムに込めた“覚悟“「自分はこれをやりたかったんだ」
「バンドを表す上でこれ以上の言葉はない」、“PROVOKE”に込められた意図
[Alexandros](左から、磯部寛之・リアド偉武・白井眞輝・川上洋平) 撮影/田中達晃(Pash)(C)oricon ME inc.
川上洋平 撮影/田中達晃(Pash)(C)oricon ME inc.
川上洋平 前作アルバム『But wait. Cats?』のレコーディング終盤くらいから構想していました。次の作品はアルバム曲もボリューミーに、1曲1曲しっかり時間をかけて作り込みたい。かつ自分たちが満足するまでは表に出さないようにしたいと、スタッフさんたちにもお願いして。ありがたいことにタイアップの話もわりと来ていたんですけど、一旦ストップするなど調整をしてもらっていました。
──昨年リリースしたシングル三部作には複数のタイアップ曲も収録。アルバムの全像が見えたタイミングだったのでしょうか。
川上洋平 この3年間ものすごい数の曲を作ってきて、ボツにしたものもたくさんあったんです。その過程でアルバムの方向性も見えてきたことから、シングルも出すことができて。そこからさらに研ぎ澄ました15曲をアルバムに収録したという感じです。
──アルバムタイトルの『PROVOKE』(=挑発的)にはどのような意図が込められているのでしょうか。
川上洋平 [Alexandros]というバンドを表す上で、これ以上の言葉はないと満場一致で決まりました。4年前にリアドが加入したタイミングは、バンドとしてもリスナーとしても大きな転換点だったと思います。それでも変わらないものは何か? と考えた時に、やっぱり[Alexandros]はリスナーを温かく迎え入れるタイプのバンドじゃない。むしろ食ってかかったり、ケツを蹴り飛ばしたり、映画のジャンルで言うならホラーに近い楽曲を作ってきたと自覚してるし、そうありたいと思ってるところもあるんです。
──ホラー映画といえば、アルバム収録の『Boy Fearless』は映画『Cloud クラウド』のインスパイアソングでもありました。
川上洋平 ホラー映画の中でも黒沢清監督の作品に惹かれるのは、観終わってもどこか腑に落ちない謎が残るからなんです。それって一番恐怖じゃないですか。同様に[Alexandros]も、答えや手の内を完全に明かさないものを作っていきたいんですよね。
──まさにリスナーを挑発している感じ?
川上洋平 だから[Alexandros]のリスナーってすごくセンスがいいと思うんです。わかりやすく提示してないにも関わらず、余白の部分を自分たちでクリエイトして解釈してくれるわけですから。与えられたものだけで完結しないリスナーが多いからこそ、こっちも信頼して挑発できるところはありますね。
ウマ娘主題歌で見せた“矜持” 「声優が歌ったほうが…と思わせたくなかった」
磯部寛之 撮影/田中達晃(Pash)(C)oricon ME inc.
川上洋平 まず大前提としてその作品をしっかり理解して、そこから吸収したものを [Alexandros]の楽曲として昇華することですね。タイアップだとしても楽曲はずっと残っていくものだし、ライブでも胸を張って演奏できるくらい自分たちの血を通わせたい。そのためには先方と最後まで戦うつもりでいます。
──そこで衝突が起きたことは?
川上洋平 それがありがたいことに、結果的に戦う必要があったことは一度もなくて。たぶん先方もロックバンドにオファーするとはそういうことだと覚悟の上なんだと思います。むしろアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』の主題歌の時は、先方から「[Alexandros]らしさを存分に出してください」と釘を刺されたくらいでした。
──アニメ『ウマ娘』シリーズの歴代主題歌は声優が担当。アーティストが起用されたのは「超える」が初でした。
川上洋平 中でも「うまぴょい伝説」が僕はめちゃくちゃ名曲だなと思ってて、これを作れということか? よし任せろ! というつもりでいたんです。そうしたら先方から「そうじゃなくて」と言われて、変に合わせようとした自分が恥ずかしくなったくらいでした。こうなったらウマ娘ファンのみなさんにも、「声優が歌ったほうがよかった」と思わせないくらいの名曲を作ろうとめちゃくちゃ真剣に取り組んで。ウマ娘ファンのみなさんが温かく受け止めてくれたことが、何より嬉しかったですね。
──アニメに寄り添ったワードも含む「超える」ですが、MVは完全に[Alexandros]の作品に。バンドが過去から現在へ、そして未来へ向かっていく様子が描かれています。
磯部寛之 今回は一日中演奏し倒しましたけど、加えて過去のライブ映像もふんだんに使われていて、あれだけで1本のMVが成り立つんじゃないかってくらいカッコいい繋ぎ方をしてくれました。
成長か、安定か──岐路に立った[Alexandros]が選んだ道は
白井眞輝 撮影/田中達晃(Pash)(C)oricon ME inc.
川上洋平 僕は「JULIUS」がとにかく好きですね。完成した瞬間に「ああ、自分はこれをやりたかったんだ」というアルバムの全体像から、これから[Alexandros]が向かっていく方向まで見えた。それくらい自分の中では大きな存在の曲になりました。
磯部寛之 個人的に1曲目の「PROVOKE」は最高のアルバムの導入になったと思っています。実はこの曲のベースは打ち込みで、僕は弾いてない。それだけに今後どうやってこの曲と付き合っていくべきか、ちょっと考えてしまったところがありました。ところが最終的にめちゃくちゃ愛情を感じる曲になったんです。
──楽曲とはどんな関わりを?
磯部寛之 出揃った音の素材をパソコンで編集してデモの形にするという作業に、自分の持てる知識を総動員しました。最終的に海外のエンジニアさんにミックスしてもらったんですが、その完成音源にかなり僕のアイデアが採用されていたんです。言葉じゃない、音で「通じた!」みたいな嬉しさもあったし、これまでの楽曲とは違う関わり方をしたという意味でも愛着が生まれましたね。
白井眞輝 『FABRIC YOUTH』では12弦ギターを使ってるんですけど、実はこのギター、専門学校時代の先生から「名曲には必ず12弦ギターが入ってる。弾け」と押し付けられたものなんです。デビューしてからの話ですけど。「いや、まず曲ができてからですよ」とか言いながら、ずっと弾かずに借りっぱなしで。その先生がコロナ禍に亡くなってしまって、それもあって数年前に親族にお返ししました。「FABRIC YOUTH」ができて、改めてそのギターを借りに伺ったんです。
川上洋平 えっ、そうだったの!? 買ったのかと思ってた。
白井眞輝 特にメンバーにも言ってなかったんですけど。アルバムの中でも最後に録った曲で、これでようやく師匠に「名曲で弾けましたよ」と報告できたなと思っています。
リアド偉武 僕は「金字塔」を挙げたいです。「ワタリドリ」なんかもそうですけど、[Alexandros]の四つ打ちの楽曲は加入前からすごく思い入れがあって。最近はエイトビートの楽曲が多めですけど、「金字塔」を録った時に、ようやく自分のドラムで大切に思ってきたものを表現できたという達成感がありましたね。
リアド偉武 撮影/田中達晃(Pash)(C)oricon ME inc.
川上洋平 これでもかというくらいロックンロールを浴びに来てほしいですね。アルバム曲はもちろん、[Alexandros]はけっこう過去曲のリアレンジもするバンドなので、あの曲がこう生まれ変わったのか! という驚きを毎回ご用意して、チケット代の5倍は楽しませます。
──最後に"最高に挑戦的なアルバム"が完成した今、[Alexandros]はバンドとしてどんなタイミングに来ていると思いますか?
川上洋平ここから上に行けるかどうかという岐路に立っていると思います。10年、15年とやっていると、自分たちもリスナーも「[Alexandros]ってこういう音をやるバンドだよね」とある種、安定した捉え方をするようになることもあると思っていて。だけどそれを当たり前に受け入れていたら、そこ止まりになってしまう。やはり[Alexandros]は世界中どこでもやれるバンドになりたいし、そこへ向かう上での恐れは何もない。そうした岐路に立った[Alexandros]がどっちの道を選んだかは、このアルバムがすべて証明しています。
取材・文/児玉澄子 撮影/田中達晃(Pash)
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