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煌めく耽美と孤高のエモーションが交差する…京本大我のクリエイティブ・プロジェクト「ART-PUT」初のCDアルバム『PROT.30』をレビュー

京本大我

京本大我

 京本大我──その名前を聞いて、舞台やドラマでの繊細な演技を思い浮かべる人も多いだろう。しかし「ART-PUT」という音楽プロジェクトの名のもとに彼が解き放つ音楽世界は、演技者としての彼とはまた違った、むき出しの感情と耽美が融合する“音楽の芸術品”だ。19歳から始めた作詞・作曲や、一眼カメラやフィルムカメラでの撮影を本格的なアート活動として始動させた、京本大我のクリエイティブ・プロジェクト「ART-PUT」。その一環として、初の音源となるCDアルバム『PROT.30(プロトサーティ)』が23日、ついにリリースされる。そこでこの“音楽の芸術品”を一足先にレビュー。思わず口ずさみたくなるそのメロディについて振り返る。

個人YouTubeチャンネルを始動、「Prelude」MVを観たときの衝撃

 2024年9月3日。京本大我のクリエイティブ・プロジェクト「ART-PUT」が始動した。同時に、YouTubeチャンネル「京本大我 from ART-PUT」が立ち上がり、とある曲のMVが公開。それが「Prelude」だ。これを初めて観て、聴いた時の衝撃は今も忘れない。「初ソロでこのクオリティはすごい……これが、京本大我なのか……!?」。

 作詞作曲も京本大我。歌詞に「For you こういう音は如何ですか?」とあるように、これは彼の音楽の世界観の自己開示だ。注目すべきは、彼の声の存在感。ファルセットと地声の行き来が自在で、まるで筆致の異なる絵の具を巧みに使い分ける画家のよう。浮遊感のあるメロディに乗せて、憂いと切なさを孕んだボーカルが響くたび、聴き手は彼の内面世界へと誘われる。彼の歌には、“演じていない”リアルがある。けれど、それは決して生々しすぎず、むしろ幻想的なフィルターを通して届けられるため、リスナーの想像力を刺激してやまない。

「ART-PUT」プロジェクト第一章を象徴する楽曲「Prelude」は、その名の通り、京本大我が自身の音楽表現の第一歩を刻んだ記念碑的ナンバーだ。だがそれは、単なるイントロダクションではない。まるで凍てついた静寂を一閃で切り裂くような、美しくも鋭利な「衝動」を孕んでいる。

 それでいて、耳に残るメロディが多い。ギターは高音気味だが、京本の歌声はやわらかく、そのギャップがいかにも彼らしい。またMVも楽曲と呼応しており、最初に現れる京本は純真無垢な白の衣装で白い部屋で。その後、横断歩道を模したセットなどモノクロな世界で熱唱する蒼の衣装をまとった京本。蒼のペンキに染められていくギター、白の衣装を走る蒼い光……。歌詞の終盤に「蒼に染まってゆけ 鳴り止むなPrelude」とある。我々はこの時から京本大我に染められ始めていた。そしてこの楽曲が『PROT.30』の一曲目を飾るのが印象的で、また京本らしい。

「負けてたまるかよ」の力強さ…「滑稽なFight」で描かれる等身大の叫び

 次に、京本が自身のXで「リード曲は何でしょう?」といたずらっぽく問いかけ、そして発表された「滑稽なFight」(作詞作曲・京本大我)だ。
 人は子どもの頃、夢を描く。大人になってもこの“青”の感情のまま生きていきたい。自分は自分だと言い聞かせながら歩きたい。だが現実はそうは甘くない。周囲からさまざまな“色”を勝手につけられ、染められたことに甘んじながら生きていく……。

 「滑稽なFight」はそんな、どうしようもない現実に「NO」を突きつける。「負けてたまるかよ」と心の底から叫ぶ。自分が自分であろうとするために、あがき叫ぶ。これは誰しもが抱えたことのある“葛藤”なのではないか。

 自分の色のまま生きていくのは難しい。そこからの離脱はときに困難であるゆえ、世間ずれした人からは“滑稽”に映るだろう。でも“滑稽”でもいいじゃないか。嘘で塗り固められた自分の人生、そこから這い出そうと、みっともなくももがいてもいいじゃないか。…筆者はそんなメッセージをこの楽曲から受け取った。

 実際、ファンからの「歌詞が刺さる」「飾らない、自然体な歌詞とメロディが好き」などのコメントが見られた。ちょうど新生活をスタートさせているこの季節。「つらい時、負けそうになった時、考え方一つで変わるんだと教えてもらった。頑張れそうだ」といった声もあった。

 京本は、この曲を「30歳の今の感情を全て詰め込んだ曲です。」と語っている。これがフィクションなのかノンフィクションなのか、それは本人にしかわからない。だが、こうして広く多くの人の心に刺さる感情をリリックに込める京本のセンスがすごい。京本大我の音楽家としての才能と情熱が詰まった作品。彼の繊細なボーカル、芸術的な映像、そしてファンとの共鳴が一体となり、唯一無二の世界観を創り上げている。

「酒と映画とナッツ」は中毒性がありリピート不可避 没入するART-PUTの世界観

 そのほかの楽曲も見逃せない。「WONDER LAND」はスピード感のあるロックチューン。心の叫びを表した歌詞にも注目だ。「KOYOI」は、ファンキーさもありながらどこか切なさのある楽曲。ラップの格好良さも是非確認してもらいたい。「RAY」はこの世界を歩み続けながら光を求める勇気を振り絞りたい時に聞いてもらいたい逸品。「孤言」は、これまでとひと味違った京本の囁きが胸にしみてくる。
 「Blue night」は再び“青”が登場。相手の刹那的なぬくもりに救いを求めるセクシーなラブソング。「酒と映画とナッツ」はジャズ・ロックにロカビリーの入った筆者個人的にもおすすめの楽曲。中毒性がありリピート不可避だ。「灯り」は美しいピアノから導入する癒やしのメロディ。京本のあたたかで繊細な歌声を存分に味わえる。「ヒペリカム」は独特で京本らしいポップソング。色気のある裏声にもしびれてほしい。「Die another day」は英詞の異色作。ミドルテンポながらに迫力のあるシャウトに鳥肌が立つ。「-27-」は壮大さと、息遣い、がなり、さまざまな京本の世界観が見られる。
 同アルバムは初回盤A、初回盤B、通常盤の3タイプで発表される。

【初回盤A】CDにはボーナストラックとしてデビュー前のコンサートツアーで披露し、これまで音源化されていなかった「癒えない」を収録。特典映像にはこれまで公開されてきた「Prelude」「WONDER LAND」「Blue night」のミュージックビデオに加え、リード曲「滑稽なFight」のミュージックビデオも収録。さらに企画ミーティングからレコーディング、MVメイキングまでアルバム制作の裏側を見ることができる「Documentary of “PROT.30”」を収録。
【初回盤B】CDにはボーナストラックとして新曲「margarine」を収録。特典映像には昨年12月3日の京本大我の誕生日に行われたアニバーサリーイベント「TAIGA KYOMOTO Anniversary Event『30 -THI"ART"Y-』」の昼公演からシンガーソングライター・佐伯ユウスケとのゲストコーナーとQ&Aコーナーを、夜公演からシンガーソングライター・崎山蒼志とのゲストコーナーとQ&Aコーナー、そしてライブコーナーをノーカットで収録。
【通常盤】にはボーナストラックとして新曲「Over Dub」「Desire」「終わらせぬ世界」の3曲を収録。「Over Dub」は京本のファルセットが存分に楽しめる。「Desire」はドラマ性の高いリリックに期待。「終わらせぬ世界」は非常に耳心地の良いロックチューン。優しい歌詞と京本の歌声の融合が楽しい。また初回仕様としてスリーブケースと20Pフォトブックが付属。

 ファンはもちろん、ファンならずとも聞いてほしいアルバム。京本大我の魅力は、その“孤高さ”にある。あえて大衆性に寄りすぎない、どこか儚く、触れたら壊れてしまいそうな危うさ。それでいて、歌詞に込められた感情は誰しもの胸の内にあるもの。このアンビバレントな感覚こそが、京本というアーティストの核なのだろう。万人に媚びることなく、しかし確かに「誰か」の心に届く。そんな矛盾を美しさに変えるのが、彼の音楽だ。

文・衣輪晋一
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