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煌めく耽美と孤高のエモーションが交差する…京本大我のクリエイティブ・プロジェクト「ART-PUT」初のCDアルバム『PROT.30』をレビュー
京本大我
個人YouTubeチャンネルを始動、「Prelude」MVを観たときの衝撃
作詞作曲も京本大我。歌詞に「For you こういう音は如何ですか?」とあるように、これは彼の音楽の世界観の自己開示だ。注目すべきは、彼の声の存在感。ファルセットと地声の行き来が自在で、まるで筆致の異なる絵の具を巧みに使い分ける画家のよう。浮遊感のあるメロディに乗せて、憂いと切なさを孕んだボーカルが響くたび、聴き手は彼の内面世界へと誘われる。彼の歌には、“演じていない”リアルがある。けれど、それは決して生々しすぎず、むしろ幻想的なフィルターを通して届けられるため、リスナーの想像力を刺激してやまない。
「ART-PUT」プロジェクト第一章を象徴する楽曲「Prelude」は、その名の通り、京本大我が自身の音楽表現の第一歩を刻んだ記念碑的ナンバーだ。だがそれは、単なるイントロダクションではない。まるで凍てついた静寂を一閃で切り裂くような、美しくも鋭利な「衝動」を孕んでいる。
それでいて、耳に残るメロディが多い。ギターは高音気味だが、京本の歌声はやわらかく、そのギャップがいかにも彼らしい。またMVも楽曲と呼応しており、最初に現れる京本は純真無垢な白の衣装で白い部屋で。その後、横断歩道を模したセットなどモノクロな世界で熱唱する蒼の衣装をまとった京本。蒼のペンキに染められていくギター、白の衣装を走る蒼い光……。歌詞の終盤に「蒼に染まってゆけ 鳴り止むなPrelude」とある。我々はこの時から京本大我に染められ始めていた。そしてこの楽曲が『PROT.30』の一曲目を飾るのが印象的で、また京本らしい。
「負けてたまるかよ」の力強さ…「滑稽なFight」で描かれる等身大の叫び
「滑稽なFight」はそんな、どうしようもない現実に「NO」を突きつける。「負けてたまるかよ」と心の底から叫ぶ。自分が自分であろうとするために、あがき叫ぶ。これは誰しもが抱えたことのある“葛藤”なのではないか。
自分の色のまま生きていくのは難しい。そこからの離脱はときに困難であるゆえ、世間ずれした人からは“滑稽”に映るだろう。でも“滑稽”でもいいじゃないか。嘘で塗り固められた自分の人生、そこから這い出そうと、みっともなくももがいてもいいじゃないか。…筆者はそんなメッセージをこの楽曲から受け取った。
実際、ファンからの「歌詞が刺さる」「飾らない、自然体な歌詞とメロディが好き」などのコメントが見られた。ちょうど新生活をスタートさせているこの季節。「つらい時、負けそうになった時、考え方一つで変わるんだと教えてもらった。頑張れそうだ」といった声もあった。
京本は、この曲を「30歳の今の感情を全て詰め込んだ曲です。」と語っている。これがフィクションなのかノンフィクションなのか、それは本人にしかわからない。だが、こうして広く多くの人の心に刺さる感情をリリックに込める京本のセンスがすごい。京本大我の音楽家としての才能と情熱が詰まった作品。彼の繊細なボーカル、芸術的な映像、そしてファンとの共鳴が一体となり、唯一無二の世界観を創り上げている。
「酒と映画とナッツ」は中毒性がありリピート不可避 没入するART-PUTの世界観
【初回盤A】CDにはボーナストラックとしてデビュー前のコンサートツアーで披露し、これまで音源化されていなかった「癒えない」を収録。特典映像にはこれまで公開されてきた「Prelude」「WONDER LAND」「Blue night」のミュージックビデオに加え、リード曲「滑稽なFight」のミュージックビデオも収録。さらに企画ミーティングからレコーディング、MVメイキングまでアルバム制作の裏側を見ることができる「Documentary of “PROT.30”」を収録。
ファンはもちろん、ファンならずとも聞いてほしいアルバム。京本大我の魅力は、その“孤高さ”にある。あえて大衆性に寄りすぎない、どこか儚く、触れたら壊れてしまいそうな危うさ。それでいて、歌詞に込められた感情は誰しもの胸の内にあるもの。このアンビバレントな感覚こそが、京本というアーティストの核なのだろう。万人に媚びることなく、しかし確かに「誰か」の心に届く。そんな矛盾を美しさに変えるのが、彼の音楽だ。
文・衣輪晋一
Sponsored by Sony Music Labels Inc.