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ヒグチアイ、ドラマ主題歌「雨が満ちれば」タイアップ曲を制作する面白み「深く考察するのが好きなので、その餌をいっぱいもらっている感じ」
「私が書くべきでしょう!」望んでいた暗いドロドロした曲、『地獄の果てまで連れていく』主題歌「雨が満ちれば」
ヒグチアイ「雨が満ちれば」
ヒグチアイ「めちゃくちゃ私じゃないですか! 私が書くべきでしょう!」と言いました(笑)。というのも、最近タイアップでは、作品を観た後に、ちょっとフワッとした気持ちになれるような明るいエンディング曲を依頼されることが多かったんです。でも、私はもともと暗い曲を書くほうが得意。なので、暗いドロドロした曲を書ける作品もやってみたいなとちょうど思っていたところでした。
──世界的ヒットを記録した「悪魔の子」では、人間の心と行動の矛盾や葛藤を鋭い言葉で描写し、作品の世界観を見事に表現した“アニソン神曲”として話題となりましたが、人間の深層心理を表現するほうがお好きということ?
ヒグチアイ小さい頃から、日々、自分の感情や行動について、なぜこう思うんだろうとか、人にこう思われているんじゃないかとか、自分の中にある感情や思いをこねくり回して、とことん深く考えるタイプでした。考えていくと、暗いところに行きつくことが多いんです。
──今回は、その特性をいかんなく発揮できたというわけですね。
ヒグチアイ実は私も過去にこの人に絶対復讐してやるっていう気持ちになったことがありまして。最終的には、復讐したいという気持ちも、相手の存在そのものもどうでもよくなってしまったんですけど、もう一度、当時のことを考えながら書きました。
──「雨が満ちれば」というタイトルにはどのような思いが込められているのですか?
ヒグチアイこちらが何も悪くなくても、人からいきなり何か言われたり、相手の機嫌が悪くなったり、どうしても避けられない利己的な行動に遭遇することって何かしら起きますよね。その状況って、突然、雨に降られる感じと似ているなと思うんです。しかも、最初は、濡れちゃうな、でも傘がないなと思っても、濡れ続けているうちにもうどうでもよくなってしまう。かつて私自身が復讐したいと考えていたときも、最初は復讐心が自分のちょっとしたアイデンティティみたいになっていた時期があったけれど、最終的にはその気持ちを手放せて、復讐も相手のこともどうでもよくなっていましたから。タイトルの「満ちれば」には、「悪意が満ちた」という意味も考えられるし、もう復讐なんてしなくていいという「自分の心が満たされた」という意味も考えられる。そんな思いを元に、ドラマの進行や聞く人によって捉え方が変わることを想定して歌詞を書きました。
「深く考察するための餌をいっぱいもらっている感じ」タイアップ曲を書く面白さ
ヒグチアイ
ヒグチアイ全然違いますね。年齢を重ねるにつれて話が長くなるっていいますけど、それと同じように、オリジナルだと、最近はいろいろなことを全部説明しようとするから複雑な歌になりがちなんです。でも、誰かがエンタメとしてパッケージングしてくれたものから抽出して曲を書く場合は、その枠から出ることはないので、分かりやすさがちゃんと曲に出ます。それがタイアップ曲を書く面白さだなと思います。
──与えられた枠の中で自分の感性を発揮されているんですね。
ヒグチアイ枠の中とはいえ、実は裏では主人公はこう思っているのではないかとか、いち視聴者であればこんなに一つの作品に向き合うことはないというくらい深く作品を考察しているので、いろいろなことを考えるのが好きな私にとっては、その餌をいっぱいもらっている感じもあって、楽しいです(笑)。
──近年は香取慎吾、のんなど有名アーティストへの楽曲提供も増えています。
ヒグチアイアーティストさんへの楽曲提供では、相手がどういうことを思っているのかを聞いて、どんな曲を歌いたいか考えて書いています。最近は、VTuberの方に楽曲提供する機会があって、ご本人にお会いすることなく、打ち合わせを進めました。その方々のYouTubeを観て、キャラクターを捉えたり、ご本人たちは観ている人たちになんて言われたら嬉しいのか、どんな歌を歌ったら観ている人は喜ぶのかと、いろいろ考えながら書きました。それはそれで勝手な想像が膨らむので面白かったですね。
──多方面から楽曲依頼を受けていることについて、求められているヒグチアイらしさをどのように捉えられていますか?
ヒグチアイなんとなくですが、「みんな受け止めてほしい」と思っているのかなと。例えば、私自身もそうですが、人に対して厳しく当たってしまうのは、自分が怖がりで弱いから、責められたくないという気持ちが出てくるからだと思うんです。そういう自分の弱さや葛藤について、アドバイスはいらないし、背中を押してほしいわけでもなく、ただ聞いて、理解してほしいと思っている。そして、他人は何も言ってくれるなと思っているから、誰にも相談できなくなってしまう。そういった自分の中にある思いや状況の受け皿に私の歌はなれているのかもなと。本当に、歌が作れる人になれて良かったと思います。曲が書けなかったら、おそらく私は詩人になっていたと思うんですけど、それだと提供依頼はもらえないだろうし(笑)。
今年は原点回帰「今の自分を見せらせる曲をお届けできるよう頑張りたい」
ヒグチアイ
ヒグチアイ日本だとライブでは、自分の思っていることや考えていることをどういう言葉で表現したら伝えられるかとかいろいろ考えてしまうんですけど、海外では、「I LOVE YOU」くらいしか言えなくて(笑)。でも、言葉が通じないことは、むしろ分かり合えることにもつながるのだと体感しました。ただただあなたに会えて嬉しいですという思いと、あとは音楽さえあればそれでいいのだと。そういうキャッチーなステージ作りを勉強できました。
──日本では昨年末のインディーズデビュー10周年を記念したスペシャルライブを皮切りとして、全国ツアー『HIGUCHIAI ALL TIME BEST TOUR “元気じゃなくてもまた会いましょう”』を1月より開催予定。スペシャルライブでは、初期曲も多く歌われていましたね。
ヒグチアイライブの準備のために、自分の過去曲をいっぱい聞く中で、歌い方に拙さを感じることも多かったのですが、反面、今まで、歌詞やメロディーしか考えてこなかったけれど、歌い方やピアノなどにも目を向けたら面白さが広がるのではないかと、今回のライブでは新たな発見もできました。あと、ずっとやってみたかった6人のコーラスを実現して、やっぱりやりたいと思ったことは諦めないでちゃんと実現させる努力を続けるべきだなと改めて思いました。
──来年はメジャーデビュー10周年を迎えられます。そこに向かう2025年はどのような年にしたいですか?
ヒグチアイ自分はどういうことがやりたかったのか、この先、どういうことを歌いたくて、どういうふうになりたいのかを考える1年になると感じているので、すごく楽しみです。とりあえず、曲を書き溜めなければと思っているんですけど、私は人に会わない期間を長く持たないとオリジナルが書けないことがわかったので、ひとりでじっくり籠って、曲を作る時間を作ろうと考えています。今年は年女なので、脱皮して元の姿に戻るみたいなことができたらいいなと。原点回帰じゃないですけど、今、前進だけでなく、そちらのほうにも興味があるので、この1年は、皆さまにしっかり今の自分を見せられる曲をお届けできるように頑張りたいと思います。
(取材・文/河上いつ子)
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