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音楽家としての才覚を発揮したソロアルバムから紐解くROSEの魅力 専門家に聞くヒットの要因
音楽テクニカルライターが、ROSEの魅力を考察
ヒット曲「APT.」にはピコ太郎との共通点も…計算し尽くされた作詞家としてのROSEの才覚を発揮
「まず冒頭のキャッチーな言葉と強烈なインパクトのリズムが耳に残り、歌詞として意味を持たない言葉の連発は、若年層が好む要素でもあります。それをさらに聴き進めると、メロディの良さがコントラストとして浮かび上がります。80〜90年代を感じさせるシンプルなリズムに、ロック・ポップスのギターが印象的に入る。若年層には新鮮に聴こえ、往年の音楽ファンにとっては懐かしいレトロポップ/ロック感があり、それが世代を超えて引き付けられた要因です」
また、「細部に渡り秀逸。かなりの上等テクニックを使って作り込まれている楽曲」だと言う。
「最初こそコミカルに聴こえる『あーぱつあぱつ♪』ですが、ROSEとブルーノ・マーズの歌の後には、『あーぱつあぱつ♪』のフレーズの裏にコード(和音)が重なり、さらにラストにはコーラスまで加わることで、いつの間にか洗練された楽曲として聴こえる音楽的なマジックが仕込まれています」
TikTokのUGC(ユーザー生成コンテンツ)は2860万件を超え、435億回再生。ヒットの背景には、SNSでの人気も大きく、「1曲の中でいろいろな魅力のブロックがあり、曲の切り取られる箇所がまちまち」とサビ以外もバズる要素が多々ある。そして英語ではなく、あえて韓国語の発音で表現された「アパトゥ(=アパート)」には、歌詞の魅せ方まで計算し尽くされた作詞家としての才覚を発揮している。
「『なんだかわからない言葉だけどおもしろい』というのは非常に大事。だからこそブルーノ・マーズも、デモの段階でこの曲に引っかかったんだと思います。そういうチョイスができる感性も彼女の魅力です」
さらに、この曲がバズった背景にはピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」(2016年)と共通する点があると分析する。
「ピコ太郎の楽曲をネイティブの人が発音したら、特におもしろおかしい言葉ではない。でも、その言葉をおかしな抑揚とリズムで日本人が言うことにおもしろさがありました。加えて、パピプペポの音は、世界中どの国でもハマる発音で、特に子どもが喜びます。それを韓国語の発音で選んでいることも、バズった要因でしょう」
たくさんの音楽を耳にし、研鑽を積んできたことが、ソロアルバムから感じ取れる
「自分の声を一番活かせるメロディの流れであり、彼女自身の魅力を一番届けられる歌い方から、どの曲を聴いても、これがROSEなんだという印象を受けます。また、HIP HOP調のトラックもありますが、殆どの曲でアコースティックギターのパートがあり、これは自分で楽器を演奏していないと思いつかない発想です。もしかしたら、レコーディングでROSE自身がギターを弾いたのかなと想起できるところも、セルフプロデュースならではの魅力を感じます」
また、アルバム全体を通して感じたことは、「楽器を弾きながら曲を作る人」だと言う。
「自分の好きなコード進行があり、それにどういうメロディを乗せるかという作り方をしていて、サビで耳に残るフレーズを入れるのが上手い。ちょっとした遊び心もあり、その背景には、たくさんの音楽を耳にし、研鑽を積んできたことが、このアルバムから感じ取れます」
ROSEは「最もパーソナルで、率直なありのままの自分を表現した」と話しているが、「このアルバムが彼女のすべてという気がする」と布施さんは力を込める。
「歌詞に“私”という言葉がよく出てきますが、私とあなたという1対1の世界を歌っている曲が多い。自身が主人公になるわけで、それがフィクション、ノンフィクションにかかわらず、ROSE自身が考えていること、感じていることが伝わります」
「一般的にダンスパフォーマンスが魅力になる曲は、どうしてもビートが強調されたリズム主体の曲になります。一見するとこの曲も、トラックの作り方は同じようにも聴こえますが、メロディの活かし方がきちんと考えられています。そのバランスがすごく優れており、K-POPの枠を超えてよりワールドワイドに広げている印象です」
そんな彼女の音楽性は、ニュージーランド生まれ、オーストラリア育ちというバックボーンも影響しているのかもしれない。
「彼女の音楽からは、カントリーミュージックや70年代アメリカのポップスのニュアンスに加え、ゴスペルのようなブラックミュージックの雰囲気を体感として持っているようにも感じます」
シーンの区分けを超えたROSEの楽曲、言葉の壁を感じさせない魅力も
「音程やリズムなどベーシックなところはしっかりと押さえつつ、歌の表現力が群を抜いている。エッジボイスの使い方は、相当研究していると思います。ノイズ成分を交えた声にリアル感というか、人間味が宿っている。人の声には情報量が多くありますが、声でその人がどう思い、何を感じているかが伝わります。その表現力が豊かな上に、使い方をしっかりと理解しているようです」
アルバムを通して「ROSEが伝えたいこと」を、布施さんはどう感じたのか。
「いま世の中のトレンドはダンスミュージックが主流でビートが基本にあり、ラップの強い言葉であったり、インパクト重視の楽曲が多い。それに対して彼女のアルバムは、メロディの美しさがあり、聴いていて純粋に心が安らいだり、心地よくなれる曲ばかり。メロディを重視したいという強い意志を感じました」
一方、K-POPや洋楽といった枠にカテゴライズされる世間へのアンチテーゼもあるようにも感じる。しかし、布施さんは「その意識を超えた“自己表現”の1つ」としてこの曲があると語る。
「K-POPを背負う意識や、ワールドワイドでチャートインを狙う気持ちではない気がします。『私はこういう人間です』という自己表現の1つであり、だからこそジャンルやカテゴリーをあまり意識していないのではないでしょうか。極端な言い方をすれば、誰が作ったアルバムかわからなくても、いろいろな人に届く作品になっています。彼女の音楽は、シーンの区分けを超えている印象です」
最後に布施さんは、「ROSEの楽曲には、言葉の壁を感じさせない魅力がある」と言う。
「歌詞の意味がわからなくても、音楽としての力強さや抑揚、感動できるポイントが伝わると思います。それが全曲に詰まっています。曲を聴いてから、歌詞の和訳を読めば、彼女の内面により近づけるという二段階の楽しみもあるでしょう。歌が好きな人、歌うことを志している人にぜひ聴いてみてほしい声色の表現力ですし、世界中の人を感動させる本物の音楽のすばらしさを、ぜひ感じてほしいです」
(文/武井保之)