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脚本・配役・曲…すべてに関わった原作者・浅野いにお、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』に込めた想いとは
3.11を投影、“当事者じゃない”浅野が見ていた人間の動き…それが『デデデデ』のすべて
2014〜2022年に連載された『デデデデ』もまた、東京上空に突如として襲来した宇宙船(通称・母艦)や、侵略者と自衛隊の攻防戦、刻一刻と近づく世界の終わり──といった本格SFの様相を呈しながら、全編を通して描かれるのは非日常が日常に溶け込んだ世界で、青春を謳歌する女子高生たちの友情だ。
「いろいろと深読みされた作品ではあったんですが、僕が描きたかったのは他愛もないことで。『友だちと一緒にいる時くらいは、最後の日まで冗談を言い合っててもいいよね』という、僕にとっては普遍的なテーマを通底させたかったんです」
「何か異常事態が起こると、特にネットやSNSでは批判的な言説が溢れがちですよね。何もなかったように過ごしている人に対して『正常化バイアスだ』とか、それこそ冗談を言うと『不謹慎だ』とか」
3.11当時、東京に住んでいた浅野氏は「当事者じゃない自分ができるのは、普通に過ごすことだけだった」と振り返る。
「社会で起きていることすべてに無自覚でいるのは、無責任な態度かもしれない。だけどそんな不感症的な振る舞いが、大袈裟かもしれないけれど周囲を安定させる軸になるのも事実だと思うんです。かと言って、3.11を境とする急激な価値観の変化に警鐘を鳴らしたかったわけでもなくて。あの頃、僕が見ていた"人間の動き"をなるべくそのまま漫画でトレースしたかった。それがデデデデという作品のすべてなんです」
原作・劇場版・アニメシリーズすべてでまったく異なる結末に、その意図は
「映像化に際しての原作者の距離感はさまざまで、僕の周りでも『映像と漫画は別アプローチであるべき』という意見もあります。僕自身はなるべく"改変"はないほうがいいと思っていますが、尺の都合もあって最適解はないんですよね。ただできれば最も高いクオリティの状態で世に出したいという欲求もあったので、デデデデについては『原作者にできることはこれ以上ない』というくらい深く関わらせてもらいました」
何より原作ファンを驚かせたのが、劇場版、アニメシリーズともに原作とはまったく異なる結末が描かれたことだ。
「全12巻の原作の要素すべてをアニメに盛り込むのは不可能です。どうしたって取捨選択は必要で、アニメとして成立させるために主人公2人にフォーカスさせたのは1つの正解だったと思っています。その上でアニメシリーズは劇場版よりは長尺で描けるわけですが、要素を足しただけで『こちらが完全版です』というのは劇場版を観てくれた人に申し訳が立たない。パラレルワールドというデデデデの特性を利用して、まったく異なる世界線のエンディングを提示するのが、受け手に対して最も誠実な態度ではないかと考えたんです」
「2人ともきちんとミュージシャンとして成立されている方で、なんなら主題歌もアニメを観ていない方にも届いているんじゃないかと思います。ただやはり2人が声優として全面に立ってくれたおかげで、アニメとしてのデデデデの質が正しい方向にブーストされたのはたしかで、アニメの成功は2人の功績がかなり大きかったですね」
ano × 幾田りらが歌い上げた『SHINSEKAIより』に、浅野氏が込めた想いとは
「作詞はともかく、作曲まで原作者がやるのは異例だったと思います。ただやはり確実なイメージソースを持っているのは原作者だし、僕は作曲もできるのでプロデューサーに『デモ曲を作ってみてもいいですか?』とお願いしたというのが経緯です。もちろん『クオリティ的にダメだったらちゃんと言ってくださいね』と一言添えて」
アニメシリーズで描かれるのは"母艦"が爆発した16年後の世界。主題歌には青春謳歌していた時代からは少し大人になってしまった主人公2人のほろ苦さと、それでも変わらない絶対的な友情が疾走感のあるギターサウンドに乗せて綴られる。
「曲調についてはキャッチーさとその裏腹にある切なさといった、『アニメのオープニングはこうあって欲しい』という僕の理想を反映させました。歌詞にはストーリーの要素も織り込んでいるのですが、できればアニメと切り離した楽曲単体でも何かを感じてもらいたいという思いもあります」
歌は劇場版に続いて、anoと幾田りらが担当。
「当初はクレジットをキャラクター名にするという案もありました。ただそれは僕の好みとは違うし、何より2人に歌ってもらった時の"実存感"がいわゆるキャラソンを超えるものだったんです。門出とおんたんのキャラクターがしっかり乗っかっている上に、2人のアーティスト性もしっかりとそこには表出していて。もともとデモ曲はボカロで作っていたんですが、生歌の情報量の多さというものに改めて圧倒されましたね」
「基本的にはプロデューサーにお任せしたのですが、たとえば冒頭の母艦の襲来するシーンの音楽は壮大なオーケストラの生音よりも、テクノっぽい無機質な音のほうがいいのでは? という提言はさせてもらいました。異常事態が発生しているのに、どこか当事者意識が薄い登場人物たちのリアリティが、そうしたサウンド感でも表現できるんじゃないかなと思ったんです」
ASIANKUNG-FUGENERATIONが重要なモチーフとなった『ソラニン』に代表されるように、浅野いにお氏の作風と音楽との関連性は深い。
「作品にもよりますが、漫画を描きながら『ここにテーマソングをつけるなら』とイメージすることは、わりとあります。特にデデデデは連載初期の頃から明確なイメージがあって、それをブラさないために10年くらい前に作詞したのが、でんぱ組.incの『明日地球がこなごなになっても』という曲でした(劇場版『デデデデ』後章挿入歌)。結果的に僕は漫画を描いていますけど、基本的に自分の思っていることを形にしたいだけなんです。
しかも今は漫画も音楽も映像もパソコン1台あれば完結するわけで、創作欲の強い人間にとってはいい時代ですよね。ただアニメは規模にもよりますけど、制作現場がだいぶしんどいことも今回痛感しました(苦笑)」
「アニメは幾田りらさん、あのさんという今最もキャッチーな方たちのおかげで、かなり間口が広いものとなりました。言い換えれば表現はだいぶマイルドになっているわけで、原作にはデデデデの本来のソリッドさや、僕の性格の悪さがかなり滲み出ています(笑)。むしろそっちのほうが面白がれると思った方は、原作を手に取ってもらえたらうれしいですね」
(C)浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee
取材・文/児玉澄子 撮影/草刈雅之
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』Information
アニメシリーズ『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』オープニングテーマ 好評配信中ano × 幾田りら 『SHINSEKAIより』作詞・作曲:浅野いにお
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』オリジナル・サウンドトラック(外部サイト)
音楽:梅林太郎、yuma yamaguchi、清竹真奈美、犬養奏、ano × 幾田りら
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』コロムビア特設サイト(外部サイト)
浅野いにおInformation
小学館「ビッグコミックスペリオール」にて『MUJINA INTO THE DEEP』を連載中。
公式SNS X(@asano_inio) Instagram(@asano_inio) YouTube(@InioAsano3)
アニメシリーズ『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』オープニングテーマ 好評配信中ano × 幾田りら 『SHINSEKAIより』作詞・作曲:浅野いにお
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』オリジナル・サウンドトラック(外部サイト)
音楽:梅林太郎、yuma yamaguchi、清竹真奈美、犬養奏、ano × 幾田りら
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』コロムビア特設サイト(外部サイト)
浅野いにおInformation
小学館「ビッグコミックスペリオール」にて『MUJINA INTO THE DEEP』を連載中。
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