ORICON NEWS
【電子コミック】出版社の本音は? “無料施策”に海外展開…日本のマンガ人気を支えるのは意外にもアナログな熱量
「紙か、電子か」黎明期は出版社にも葛藤、作家や編集部から懸念も
電子コミック発のヒット作も続々と誕生しており、今や電子書籍ストアと出版社は切っても切れないビジネスパートナーとなっている。とはいえ、かつては「マンガは紙で読むもの」というのが長年の常識だった。黎明期より電子コミックに前向きに取り組んできた出版社・KADOKAWAでも、「紙か、電子か」の葛藤はあったという。
「当時はスマホが登場する前のガラケーの時代。黎明期の電子コミックは小さな画面に1コマずつ切り分けて配信されるスタイルでしたから、やはり見開きによる豊かなマンガ表現にこだわる作家さんには抵抗感があったはずです。またコミック編集部からもセキュリティ面への不安など、さまざまな意見が出ました。しかし、技術の進歩や課題への理解が深まることで、こうしたハードルは超えられるはずだとも考えました」(KADOKAWA デジタル営業局 局長 芦尚文氏)
そうした確信のもと、作家や編集部の調整に奔走。20年前、いち早く「ケータイでマンガを読む」サービスを開始したコミックシーモアに対し、2014年に2万冊を卸すに至った。一方、ラインナップの充実は「ケータイでマンガを読む」層を伸ばすことにも繋がった。まさに出版社と電子書籍ストアがWin-Winの関係を歩み出したわけだ。
「売上はもちろん、“手元で気軽に読める”ことで今までリーチできなかった層に作品を届けられるのは作家さんにとっても大きな魅力だったようです。その後、スマホの登場でより大きい高精細な画面でマンガを読むことが可能になり、電子コミックに前向きな作家さんもどんどん増えていきました」(芦氏)
「お金を出して購入するもの」だったマンガ、“無料”施策への見解は?
「まず、読者の選択肢が増えるのは良いことだと思います。マンガの読み方も以前はコミック雑誌あるいは単行本だけだったのが、話売りや読み放題など多様になったことでマンガへの入り口は確実に広がりました。1つのプラットフォームでは多様化は実現できません。それぞれのストアやアプリが独自のアプローチでマンガの届け方を工夫されており、それによって作品へのリーチが増えるのは、出版社にとってもありがたいことです」(芦氏)
電子コミックの登場によって定着したマンガの届け方が“無料施策”だ。それまでマンガは「お金を出して購入するもの」だっただけに、出版社側として抵抗はないのだろうか。
「無料施策は、読者に未知の作家や作品と出会う機会を提供する販促手法です。その先でファンになり、購入していただければベストですが、まずは導入ハードルを下げるという意味で無料で読んでもらうことには効果があると感じています」(芦氏)
実は出版社より電子ストアのほうが読者に近い? 熱量が生む“手書きポップ”と同じ効果
「たとえば無料施策を行った際に、読者が何話まで読んでどこで離脱したかといったデータまでは出版社は追い切れません。また広告についても、どの絵柄を切り出した時に最もクリックに繋がったかといった分析力は電子書籍ストアならではの知見。ある意味、出版社より“ユーザーに近い”と言えるのかもしれません」(芦氏)
近年はそうしたストアのノウハウが、マンガ作りに生かされることも増えているという。たとえば、『拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます』(KADOKAWA×コミックシーモアの協業作品)という作品では、広告映えするキャラクターの表情など、書店ならではの観点のアドバイスが随所に盛り込まれ、連載開始すぐに総合ランキング1位を記録するヒット作となったという。
「やはり、読者と作品との的確なマッチングに特に長けた電子書籍ストアは強いと感じています。データに基づくマッチングもさることながら、書店員さん自身が作品を読み込んでくださっているストアは心強いですね。たとえば『死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから』という作品は“スタッフ全力推し!!”という特集で魅力的に紹介してくださった結果、売上が9倍以上伸びました。リアル書店でも書店員さんの手書きポップからヒットに繋がる例があるように、作品を届ける側の熱量の高さは、データを超えて読者に響くのだと思います。とくにコミックシーモアさんにはそれを感じます」(芦氏)