芝浦の大規模複合開発「BLUE FRONT SHIBAURA」とは? 目指す“水辺の街”東京
野村不動産・内田氏は、今回のプロジェクトが「水辺ならではのライフスタイルを創造し、これを広め、東京のベイエリアを繋いでいくこと」を目標に掲げていることを強調。2025年2月竣工予定のS棟、2030年竣工予定のN棟という二つの複合施設(高層部にラグジュアリーホテルである『フェアモントホテル』及び住宅、中層部にはオフィス、低層部にはショップ&ダイニング)を軸に、「旧芝離宮庭園から浜松町駅を挟んで、アプローチを敷地まで引っ張ってくることで、都心にありながら自然豊かな開発を目指す」とビジョンを述べる。
また、開発後には芝浦に限らず、東京ベイエリア各地と連携していくことを表明。「船着き場を整備し、船の運航を整備していきたい。そうすることで、なかなかアクセスしづらい東京の水辺に対して、山手線からも行きやすくなる」と展望を明かした。
とはいえ、これまでもこうした水辺開発は数多く行われており、埋立地は年々広がっている。ウォーターフロントと言いながら、主に物流機能に重きが置かれていて、“水辺の街”という意識は薄れてきてしまっているのではないか。
そうした状況に対して内田氏が提案するのが、2019年に日の出埠頭に整備した「Hi-NODE」という新しい舟運施設の活用だ。ここでは船着き場とレストランが一体になった親水性のある世界をイメージしており、「2030年に街全体が完成したときには、人と水を隔てるものがないような、これまでのウォーターフロント事業とは異なる親水空間を作っていきたい」という。
鉄道や路線バスなどの交通手段と船上交通のアクセスを強化することで、街と水上は一体化する。芝浦地区だけではなく、日本橋や神田など船着き場を持った複合開発地点と連携し、大きな枠組みで“水辺の街”として魅力的な都市を目指していくとのことだ。
賑わい、水上交通…ニューヨークやシドニーに見る、“水辺の街”の新潮流
1つ目の「賑わい創出・観光の拠点化」については、「ニューヨークでは、パブリックアクセスや景観資源、 歴史的・文化的資源の向上を念頭に置きつつ、街を作っていこうとしている。特に水路へのパブリックアクセスの拡大、コミュニティとの一体化という目的を持つことで、社会課題が解決に向かうというコンセプト」と説明。
2つ目の「水上交通の発達」は、まさに「賑わい創出・観光の拠点化」の開発を支えているという。実際、2018年と2024年のニューヨークを比較すると、フェリー航路が圧倒的に増えており、利用者も90パーセントが通勤・通学に使っている。便利だからという理由以上に、『他の交通手段より乗り心地がいい』という意見が多いそうだ。ニューヨーク同様、シドニーでも通勤・通学の手段としてフェリーが利用されているという事例も挙げた。
そして、3つ目の「イノベーションの集積」については、「ニューヨークやフランスは水辺にイノベーション機能が集まり、空飛ぶ車の開発なども水辺にある事例が非常に多い」と挙げる。「水辺空間での新たなライフスタイルは、都市の活性化、競争力の観点から非常に重要。水辺開発で重視することは、パブリックスペースの存在、イノベーティブな体験であり、それを結ぶのが水上交通ということになる」と語った。
東京都が推奨する『東京ベイeSGまちづくり戦略』においても、「水と緑を生かした調和」「スマート」「イノベーション」という3点に注力していこうと開発が進められている。海外の成功事例をもとに、東京でもそうした取り組みは着々と進められつつあるということだ。
「本当に船が交通手段に?」「富裕層向けでは?」メディアからのストレートな意見に真摯に回答
まず、水上交通の推進ついて。ニューヨークやシドニーでは多くの人が通勤・通学に利用している例が挙げられたが、「日本の電車・バスなどの交通手段は諸外国と比較して非常に便利。わざわざ水路を利用しようという人がどれだけいるのか?」。これに高野氏は同意しつつも、コロナ禍によるライフスタイルの変化に触れ、「以前よりは可能性が増している。また、『ベターライドエクスペリエンス』のように、移動にどこまで付加価値をつけることができるか。そこで得られる経験、感性を高められるか」と、価値観の変化にまで着手していく必要があることを課題に挙げた。
さらに、「BLUE FRONT SHIBAURA自体が富裕層やインバウンドの外国人のためのもののように感じてしまう」という指摘。たしかに、ラグジュアリーホテルを誘致していたり、舟運サービス「BLUE FERRY」(晴海~芝浦・日の出区間)の価格が片道500円(現在はキャンペーン価格で250円)であるなど、正直、我々庶民が日常的に使うイメージはわきにくい。
内田氏も、「“浮世離れした”交通手段と思う方もいるかもしれない」として改善点はあるとしながらも、「ライフスタイルに幅が出てくるなかで、無機質な地下鉄の景観とは違う船の上の景色などに対して、選択肢の一つとしてフェリーを使うことに付加価値を感じてもらえる可能性もある。また、混雑緩和という意味での利用も考えられる。たとえば大江戸線の勝どき駅は、混雑が激しく駅構内に入るのも大変。多少値段が高くても、水上交通を利用してみようという人も増えていくのでは」という期待も口にしていた。