ORICON NEWS
がらり、1stアルバム『手のひら望遠鏡』に込めたストーリー性「これまでの楽曲はすべてアルバムのピースを作っている感覚」
「アルバムはアーティストが提供する最も価値のあるもの」“タイパ重視”のトレンドを気にしない楽曲制作
がらり僕にとって初めて書き下ろしたタイアップ曲です。ちょうどお声がけいただいたのがアルバムの構成をしていたタイミングで、「最後はハッピーエンド的に締めたいな」と考えていたので、ドラマの内容ともしっくりリンクしました。アルバム1曲目に入れた「さよならは真夜中に」では孤独に絶望し、その先のドアを開けてしまいそうな人を描いているんですが、人生それだけで終わるはずはないし、最後に「パーティーチューン」を持ってくることで、色々あったけど孤独も受け入れて楽しめるようになったストーリーを1枚のアルバムを通して提示するという構成にしたかったんです。
──1stシングル「さよならは真夜中に」と「パーティーチューン」は、SNSで「イントロがいい」というコメントも多く、タイパ重視の昨今には稀有な受け入れられ方をしているのが印象的でした。
がらりたしかに"ヒットの方程式=イントロなしor短め"みたいな言説もありますね。ただアルバムには「砂の歌」や「エスケープ」といった歌始まりの曲も入っていますし、別に逆張りをしているわけではないんです。曲作りで僕が大切にしているのは「この曲の世界に入るにはどんな導入が必要か?」ということで、そうすると自ずとイントロの要不要も決まってくるんです。ある意味ではトレンドを無視した作り方かもしれないですが、今のところそんな贅沢な楽曲制作をさせてもらっています。
──冒頭でおっしゃったアルバムの構成へのこだわりも、楽曲単位で聴かれがちな今の時代には貴重に感じました。アルバム制作はどのように進められましたか?
がらりこれまで7曲を配信リリースしてきましたが、それもすべてはアルバムのピースを作っている感覚でした。楽曲ごとに作風を"がらり"と変えてきたのも、アルバムとしてまとまった時に「なるほど、こういうストーリーを描く上で起伏のある楽曲たちが必要だったのか」と答え合わせをしてもらえたらうれしいな、という思いもあって。僕にとってアルバムを通した視聴体験は、アーティストが提供する最も価値のあるものですし、アーティストを名乗る以上はそこのこだわりは絶対に外せないところでしたね。
自らの手ですべてを行う創作活動から生まれたタイトル『手のひら望遠鏡』
がらりもともと僕はTikTokの楽曲投稿から活動を始めたのですが、今はアートワークやアニメーションのMV、SNSコンテンツなどほぼすべての創作を手掛けています。そんな自分の手が生み出してきた小さな1つ1つが、やがて想像もしていなかった世界に広がっていったのを自覚した時に、望遠鏡で宇宙を覗いているような感覚になったんです。「ミクロとマクロの循環性」というか、ある現象って微小なものと巨大なものが影響し合って生まれるんだなって。
──なんだかとても哲学的な……。
がらり聴いてくださる方には、14曲それぞれで描いた人生の一場面一場面を覗き見する望遠鏡のように機能するアルバムになっていたらいいな、という思いもありました。いいことばかりじゃないけど「そうだよな、人生にはこんな瞬間もあるよな」と噛み締めてもらって、最終的にはちょっと希望のある明日を迎えられるような、そんな現象が誰かの中で起きたらうれしいですね。
──ジャケットデザインも自らご担当されたとのことですが、もともとデザインなど、音楽以外の創作活動などもされていたんですか?
がらり全然です。それこそビジュアル周りは楽曲を発表しようと思い立ってからソフトを揃えたり、勉強したりしました。"文学的な歌詞"と言われるのも、図書館に行くのは好きですが、基本的には自分の中の心象風景や情緒を表現したものばかりで。だから自分でも(創作活動を)全部自分でやるという、この業態でなんとか成り立っていることに驚いています。
創作活動は社会人になってから「自分の心の中にある風景を表現したい」
がらり3、4歳の頃からピアノを習っていて、高校時代に軽音学部でギターを始めました。そして、大学でジャズサークルに。即興演奏をやる必要があったので、音楽理論的なこともなんとなく頭に入りましたね。ただ基本的にはずっとカバーでしたし、創作を始めたのは社会人になってからです。ちょうどコロナ禍で家にいる時間も長かったこともあって、フラストレーションが溜まっていたというか。自分の心の中にある風景を表現したいと、ある種、逃避みたいな形で楽曲を作り始めたのが最初でした。
──アーティストとして独り立ちを決意したきっかけはあったのでしょうか。
がらり実はがらり名義になる前にSNSに発表した楽曲がきっかけで、結果的にあるアイドルさんに楽曲提供をすることになったんです。もともと僕はヒット曲分析が好きで、「なぜこの曲は感情を揺さぶられるのか?」みたいなことを考えながら聴く方なんです。かといっていい曲が書けるかどうかは別ですが、そんな僕の作った曲に市場価値を見出してくださる方がいた。ということは、僕にも多くの人に伝わる「何か」があるんじゃないかと朧げに思ったのがきっかけでした。
──がらりとして活動をスタートして以降は、森崎ウィンさんへの楽曲提供もされています。作曲家とシンガーソングライター、どちらの志向が強いですか?
がらりどっちだろう……。少なくとも「U」という楽曲は、完全に森崎さんが歌う前提で作りました。僕には絶対に歌えない甘い歌詞も森崎さんの持つ世界観にはしっくりハマって、作っていて純粋に楽しかったです。シンガーソングライターとしては、僕はわかりやすい歌唱テクニックもないですし、楽曲制作を始めるまでほぼ歌ったこともなかったので、本当に手探りですね。ただ、自分が作った曲なのでどんなアプローチで歌えばいいかは理解している。その1点のみで勝負しています。
音楽が大量消費されるSNSの世界に捉われない「楽曲制作は常にスタンダードを意識」
がらりすごくシビアに言ってしまうと、今、SNSは流行の発信地というよりも、そこが人気の指標の大部分を占めていて、いいね数や再生回数が多いことが正義という風潮があると思います。必然的に、そこにくらいついていかなければいけないと思っているのですが、大量生産・消費されるからこそ、バズる曲も生まれにくい状況はあると思います。ただ僕はそんなに悲観的に捉えていなくて。質の高いコンテンツであれば、SNS上に置き続けることで聴いてくれる人も増えるはずだという希望がありますし、願わくば、僕の楽曲もそうあれたらと思っています。
──SNS発信のがらりさんの楽曲が多くの方に受け入れられた理由をご自身ではどのように捉えられていますか?
がらり僕は楽曲を作る上で、常にスタンダードを意識しています。なんとなく今っぽいとか、ムードがいいとかじゃなくて、それはアレンジでそう聞こえるかもしれないんですが、楽曲の骨子であるコードやメロディの部分では誰でも口ずさめるような普遍性を外していないつもりです。一番重要な骨組みの部分のクオリティを大切にしていることが受け入れられている理由かなと自分では考えています。願望もありますが(笑)。
──今後アーティスト活動をしていくにあたって、どんな目標がありますか?
がらりライブはいつかやれたらと思っています。ただ、まだまだ“がらり”としてバズりきれていない部分もあると思うので、ライブをするためにも、より生々しい視聴体験を感じていただけるような楽曲制作をこれからも続けていきたいです。
取材・文/児玉澄子