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『焼肉きんぐ』、後発ながら業界No.1に躍進のワケ “食べ放題=質が悪い”の払拭と“エンタメ”の創出
「あくまで焼肉店であることが大事」焼肉食べ放題が“何でも屋”になることを危惧
『焼肉きんぐ』が創業したのは2007年。当時から期間限定のフェアを行ってきた。常に新たなメニューがあることで、来店者を飽きさせないこと、定期的な来店数を増やすねらいもある。当初は「焼肉」でいかに「季節感」を出すか模索。2018年の激辛ブームをきっかけに、“しび辛”の辛口メニューや「韓国フェア」などが始まり、季節だけではなく、昨今のトレンド性も意識したサイドメニューが検討されていった。
「我々が意識しなければいけないことは、焼肉屋としての専門性を損なわないメニュー設定です。焼肉から連想しやすい親和性の高いフェアメニューにしなければ、先に述べた通り“何でも屋”になってしまうわけです。例えば、人気の高いサイドメニューの『冷麺』も、韓国焼肉の流れを汲んでいます。北海道フェアではジンギスカンを出したのも、焼肉の枠組みのなかで考えられたものです。肉以外のサイドメニューについても、デザートメニューやキムチなど、それらを食べてお口直しをしていただき、また肉を食べてもらえるよう工夫しています。普段は頼まないサイドメニューでも、焼肉きんぐに行ったから頼める。これこそが、“食べ放題”ならではの“楽しみ”だとわたくしどもは考えております」
同社のキャッチコピーに「焼肉は自由だ」ともある。これらが単品メニューであれば、焼肉を食べに来た客は頼まないだろう。だが“食べ放題”であれば払うお金は一緒。ならば様々な楽しみ方をしてもらおうと多くのサイドメニューが登場したわけである。だがどうしても『ペヤング』などの意外なメニューなどが話題になった例をとっても、メニューの開発は“何でも屋”と紙一重の位置にある。同店はそうならないよう、“焼肉を扱う専門店ならではの視点”を常に研鑽してきたという。
ビュッフェ形式&ドリンクバーの廃止で客は「食を楽しむ」ことのみに集中、“質の低下”を払拭する服地効果も
これが功を奏した。業績は右肩上がりとなり、やがてドリンクバーも廃止。完全注文制にして、誰かが肉やドリンクを取りに行ってその場から欠けてしまうことをなくした。そんな“楽しみ方”をする場であるから、出店もメインターゲットのファミリー層向けに郊外へ。コース価格も小学生半額、幼児無料など打ち出し、他店との差別化を図ってきた。
またこれには副次的効果もある。バイキング形式だと陳列された商品がしっかり管理されていないのではないか、長く放置されていることもあり、商品のクオリティが低いのではないかという懸念が払拭できたのだ。
そして当然のこと、肉にもこだわった。まず肉の仕入先との関係強化を重視した。取引先との関係性があっての商売だと考えているからだ。だが輸入牛も取り扱っているため、これは為替によっては限界がある。そのためまずはチェーン店というスケールメリットを生かして大量仕入れを行った。そうしてWin-Winの関係を築き、良い肉を取引先が困ることないよう安く仕入れ、さらには調理にもこだわりを。味付けはもちろん、スリットを入れて食感を変えるなどの研究をし、現在の“円安”も乗り切っているのだ。ただそれでも「国産牛も扱っていますがメインの“きんぐコース”は輸入牛ですので厳しいことには間違いない」と嘆息する。焼肉個人店がどんどん潰れているのもこの背景があるからだ。
人気店ゆえの苦悩…行列待ちに疲れる客への対応は?
現在、大人気店ゆえに、「行っても満席で、結構な時間待たなければいけない」と、通りすがりにふらっと入れるお店ではなくなってしまっていることだ。これが続くと客離れにもつながる恐れがある。ゆえに同店は、web予約のほか、店の前で待たなくてもよく、席が空いたらお知らせが来る順番待ちwebシステムを導入した。これにより店頭で待つストレスからは解放されたが、来店者にとっては同店で食べること自体が一種のレジャーとなっており、“待ってでも楽しみたい”と思ってもらえる商品を提供できるのか、店に寄せられる期待値がさらに上がってしまう現状が皮肉にも垣間見えている。入れ替わりが激しく、盛者必衰の理を体現する飲食業界において、『焼肉きんぐ』はどこまでその勢いを持続できるか。
(取材・文/衣輪晋一)