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【医師に聞く】たばこ依存は病気…根性や会社命令ではやめられない、禁煙治療の現在地と課題

 昨今、たばこを取り巻く状況は大きく変化。街から喫煙所がなくなり、企業などでも禁煙を推奨するところが増えた。吸わない人にとっては喜ばしいこと…と思いきや、吸う場所を失った喫煙者が集中して喫煙所に押し寄せたり、路上喫煙をしてしまうなどの問題も起こるように。マナーの悪い喫煙者のおかげで吸う人はますます肩身が狭くなっているだろうが、その影響か、禁煙外来に受診する人も増えているという。オンライン診療の禁煙外来を担当する医師(クリニックフォア(外部サイト))に、実情を聞いた。

保険が適用される禁煙治療、「ニコチン依存が『病気』であるということ」

 喫煙は個人の自由ではあるかもしれないが、気をつけなければならないのが周囲の人への影響だ。こうしたことから国も喫煙の害についての啓蒙を進め、2006年には禁煙治療に保険が適用されるようになった。「保険が適用されるということは、つまりニコチン依存が『病気』であるということです。それをしっかり意識していただく必要があります」と、禁煙外来の担当医師は警鐘を鳴らす。

 「すごく強い言い方をしてしまうと、薬物中毒、薬物依存症と言えます。ご存知の通り、たばこにはニコチンが含まれており、脳に快楽を与えるドーパミンというホルモンの分泌を促します。これを精神的、あるいは肉体的に常に必要としてしまうというのが、いわゆる“たばこがやめられない状態”。禁煙外来では、薬を使ってその症状を抑えていきます」

 ドーパミンがどのような幸福感を与えるか。例えば人は、美味しいものを食べているとき、何かを達成したとき、人から褒められたとき、恋をしているとき、好きな音楽を聴いているときなどに、このホルモンが分泌される。

 簡単に言えば、たばこは心を安定させる作用を持つ。しかしこれに依存してしまうと、長時間吸わなければ離脱症状が起き、それを抑えるためにまた吸ってしまう…という悪循環に陥る。実際、厚生労働省(e-ヘルスネット)には、ニコチンは「化学物質としては毒物として指定されている。たばこの葉に含まれ、強い依存性がある」と記載。この症状に陥った人が「たばこをやめたい」と訪れるのが、禁煙外来だ。

「会社に禁煙しろと言われた」が理由? “外的要因”くらいではやめられない

 最近では、「私たちのグループ全体で見ても、禁煙外来を受診する人の数は以前より増えた印象があります。年齢も20〜30代の方から60代まで幅広いです」とのこと。きっかけはやはり、「吸う場所がない」「会社に禁煙しろと言われた」といった社会的な“肩身の狭さ”のような、外的要因からなのだろうか。

 「というよりも、ライフステージやライフイベントを機に、禁煙を志す方が大多数です。結婚したのをきっかけに、またはお子さんができたことをきっかけに…という方が多いですね。社会や企業の禁煙志向は強まっていますが、そうした外的要因はそこまで強くありません。それより、プライベートな理由で、強い意思を持って診察を受ける方がほとんどです」

 つまり、外的要因くらいではたばこをやめようと思わないということ。そして、それだけ強く依存しているものであるがゆえ、自分や家族に関わる「強い意思」があっても禁煙はなかなか難しい。それを助けるのが禁煙外来であるわけだが、実際はどのような治療を行うのだろうか。

 「以前は通院がメインでしたが、数年前からオンライン診療が普及してきました。これにより、通院だと敷居が高い、面倒くさいと挫折する人が多かったところ、自宅で気軽に診療できるように。ただし、オンラインによる禁煙治療には保険が適用されません。保険を適用するためには、月に1回の通院が必須となっており、患者さんによっては通院の手間と費用を天秤にかけて、自由診療でもオンライン診療を選択するケースも見られます」

ニコチンパッチだけじゃない、禁煙成功率65%超の「画期的な薬」とは?

 禁煙補助薬には、おもに「ニコチネルTTS」と「バレニクリン(チャンピックス海外後発品)」の2種類がある。「ニコチネルTTS」は貼付薬で、いわゆるニコチンパッチなどと呼ばれるもの。「バレニクリン」は内服薬となる。以下が、それぞれのメカニズムや治療法だが、医師は「『バレニクリン』という画期的な薬をぜひ知ってほしい」と語る。

●「ニコチネルTTS」
ニコチンパッチを1日1回貼ることで、たばこを吸わずにニコチンを摂取し、喫煙時より低いニコチン濃度を長時間維持し、離脱症状を和らげる。治療スケジュールに沿って、徐々にニコチン含有量を減らしていくことで、禁煙達成を目指す薬。いわば、たばこをニコチンパッチに置き換える治療であるため、治療中に喫煙するとニコチンのとりすぎになる。
■貼付薬
■禁煙成功率:約53%
■副作用:不眠、接触性皮膚炎(心配するほどではない)。
■治療期間:12週間
■金額:対面診療の場合/12週で2万円程度(保険適用、3割自己負担の場合)
オンライン診療の場合/8週で5〜6万円程度(自由診療)

●「バレニクリン」(チャンピックス海外後発品)
脳内のニコチン受容体に作用することで、「快楽」と「離脱症状」のネガティブなサイクルを抑え、禁煙達成を目指す薬。たとえ治療中にたばこを吸ってもドーパミンが分泌されにくくなるため、吸う快楽が減る。
■内服薬
■禁煙成功率:約65.4%
■副作用:吐き気(飲み続けるうちに慣れることが多い)。
■治療期間:12〜24週間
■金額:オンライン診療のみ/12週で約4〜5万円程度(自由診療)

 「『ニコチネルTTS』は対面診療で、規定の要件を満たした場合に保険が適用されますが、ニコチンの摂取をたばこ→パッチに置換するだけではやや力不足。それが禁煙成功率の低さにも表れています。一方で『バレニクリン』は、ニコチンではない成分で、ニコチン摂取時と同じ脳の状態を擬似的に再現することができる。つまり、『たばこを吸っていなかった状態に体を戻せる』ということです。65%を超える禁煙成功率の高さからもわかるように、画期的な薬と言えますね。ニコチン受容体に働きかけ、ドーパミンの分泌を調節してくれるので離脱症状が出にくく、もしたばこを吸っても、あまり気持ちよくない、吸わなくてもいいという気持ちにさせてくれます」

 受容体に働きかけるという意味では、いわゆる抗うつ薬のSSRIなどと同じような仕組みだ。ちなみにアルコール依存症を治す嫌酒薬は仕組みが違い、体がアルコールを分解できなくして、いわゆる“下戸”の状態にさせるというものだ。

※なお、「バレニクリン」は「チャンピックス」という薬の一般名に当たる。ファイザー社が開発した「チャンピックス」は製造ラインに基準値を超える発がん性物質が確認され2022年に出荷停止になってしまったため、クリニックフォアでは発がん性物質を含まない海外後発品を自由診療での処方に限定して取り扱っている。

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