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「がん罹患者を救えない…」元大手生保社員が明かす“がん保険”の実態と今後のニーズ
これまでのがん保険は「健康なうちに入るもの」であった。未加入のまま、一度でもがんを経験すると、加入条件が厳しく、持病がある人向けの「引受基準緩和型の保険」でもすぐに加入できるものはなかった。がんに罹患する人が増えている一方で、医療の進歩により、がんを患っても長生きできる人、治る人も増えている。「がんに罹患した人を支える保険を作りたい」――。長年勤めた会社を辞め、新たな道を模索する伊藤さんに、がん保険の実態と選ぶ際のポイントについて聞いた。
「たとえ貯蓄があっても、子どもの学費として貯めていたお金を使えるのか…」
(公)生命保険文化センターが18歳から79歳までの4,844人を調査した「2022(令和4)年度生活保障に関する調査」によると、民間の生命保険会社やJA(農協)、県民共済・生協等で取り扱っているがん保険・がん特約の加入率は39.1%。生命保険の加入率は68.8%だ。
「もちろん十分な貯蓄があればがん保険は必要ないかもしれません。ですが、50代前までは、大半の方が、家のローンや子育てのために、貯蓄がしづらい状態です。また、たとえ貯蓄があったとしても、自分の治療のために子どもの学費として貯めていたお金を使えるか。私も子どもがいるのでわかりますが、なかなか決断しづらいのではないでしょうか」
実際、マイシン少短が扱う乳がん・子宮がん・卵巣がん(いずれもステージIIまで)を経験した女性に向けた『がんを経験した女性を支えるがん保険』に対して、「こういう商品を待っていた」「探してもなかったのに、あってビックリしました」という声が毎日寄せられているという。
一方で、がん保険の必要性については、2人に1人ががんに罹患するといわれる今も、「不要」の声が根強くある。その最大の理由は、「健康保険や高額療養費制度によって、医療費の自己負担額は抑えられるから」というものだ。しかし、実父をはじめ、がん患者が直面する問題と向き合ってきた伊藤さんは、その論に異を唱える。
「がんは予想以上にお金がかかり、それがまた、精神的負担を増大させる原因に」
がんによる経済負担は出費だけではない、収入そのものが減少することもある。手術や治療のための通院や体調不良などで、これまでと同じように働くことが難しいケースもあるからだ。
しかし、ではなぜ、これまで、がん経験者が術後早い時期から入れる保険が存在しなかったのだろう。
つまり、例えば死亡保険なら自分の会社の支払い実績から経験データが積み上がり、膨大な統計データもあるので、精緻な計算ができる。ところが、がん経験者の治療中の再発等に関しては、十分な量のデータがないために、不確定要素が多すぎて、保険料を組み立てることが難しい。それほどリスクの高い商品というわけだ。
「その点、弊社は、親会社がオンライン医療事業や臨床開発デジタルソリューション事業などを展開する医療系のスタートアップですので、様々な医療的知見を活かして保険を作ることができています。ただ保障面などでは、やはり大手のがん保険も優れています。大手でカバーできない部分を弊社でサポートする、それぞれが得意なところに注力して保険を必要とする方に広く行き届く世界にする、そんな気持ちで商品開発をしています」
「がん保険の見直しを」給付が1度だけ、または通院治療は保障外の場合も
「今は、病院に行って専門の検査をしなければ、がんかどうかは判断できません。たとえば乳がんの場合、胸にしこりがあることは自分でなんとなくわかっても、それががんなのかどうかは専門の病院へ行かなければ判断できません。手軽に早く調べられれば命を落とすことは少なくなるのですから、そういうことに貢献できないか。弊社の保険は再発に備えて加入いただくものですが、再発自体を防げるのが一番ですから、保険はおまけくらいに考えて、再発を防ぐ支援ができるようなサービスや仕組みを開発できたらと考えています」
「がん保険には、がんになったことによって、1回限りの支払いで保障が終了するものがあります。また2回目以降が保障されていても、給付が減るとか、1回目から一定の期間が空いていないと給付されないものもありますので、確認していただきたいと思います。あと、最近は、がん治療を通院で行うケースが増えています。医療保険は、入院や手術に対する保障がメインですので注意が必要です。がんの三大治療は、手術と抗がん剤などの薬物療法、放射線治療です。入院せずに外来治療を受けたときも保障されるかは重要なポイントです。診断で給付金が出る診断給付型の保障があれば、診断が下りれば支払われ、そのお金を休職中の費用や自分の身体のケア、家族のためなど何にでも使えますので、一番オールマイティではないかと思います」
今や国民の2人にひとりが罹ると言われるがん。罹らなければ分からないがん治療とお金の問題について、一度じっくり検討してみる必要がありそうだ。
(取材・文/河上いつ子 撮影/徳永徹)