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TBS『プロ野球戦力外通告』プロデューサーが抱えるジレンマ「人生最大の分岐点にここまで密着していいのか?」

 所属球団から戦力外通告を受けたプロ野球選手に密着。再起に向けて奮闘する選手の姿とそれを支える家族の物語を、丁寧かつ真摯に描いたドキュメンタリー『プロ野球戦力外通告』(TBS系)は、今年12月27日の放送で通算20回目を迎える。その間、選手を取り巻く環境は大きく変化してきたが、選手の意識や、視聴者、番組の作り手側はどう変わってきたのか。番組立ち上げから携わってきたプロデューサーの飯田晃嘉氏に話を聞いた。

セカンドキャリア支援充実も「今も昔も野球を辞めたあとのことを考える選手は少ない」

 1999年、スポーツドキュメンタリー『ZONE』の中のひとつの企画としてスタートした同番組。その後2004年から特番化され、毎回高視聴率をマークする人気コンテンツへと成長した。本企画誕生から四半世紀あまり、野球界を取り巻く変化について飯田氏はこう語る。

「一番は、『育成枠』の導入(2005年度)によってプロ野球選手になれる門戸が拡がったことだと思います。契約金ゼロ【※】、年俸250万円程度と、条件面では『支配下選手』には及びませんが、プロ野球選手を目指す若者にとって大変喜ばしいこと。実際、今季から米大リーグでプレーする千賀滉大投手(メッツ)をはじめ、育成出身で華々しい活躍している選手は多い。3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で世界一メンバーもいますしね。その一方で、人数が増えた分、最後まで一軍で活躍できずプロ入りから2年や3年でクビになってしまう選手が大勢いるのも事実です」

 近年は、野球選手の受け皿が広がり、NPB(日本野球機構)のチームを退団しても、独立リーグや社会人野球などで続ける道も拓けてきた。また野球に関係のない企業が元選手のリクルートを行うなど、セカンドキャリアを支援する活動も活発に行われており、一昔前よりも選手自身の意識は高まってきているように思えるが、実際はどうなのだろうか?

「なかにはきちんと考えている人もいるのかもしれないですが、(取材対象として接してきた)大半の人ができる限り長く(NPBで)活躍したいと考えており、野球をやめた後のことを考えながら現役を続けている人は、今も昔も少ない印象があります。それよりも、選手は『なんとしてでも野球選手として活躍したい』と、みんな必死に上を目指しています」

【※】300万円程度の支度金が用意されるケースが多い

四半世紀経っても人気の理由「いつの時代も挫折から立ち上がる姿は人々の心に響く」

 『プロ野球戦力外通告』が取り上げる選手として大切にしているのも、その「野球を続けたいという強い思い」。取り上げる選手の人選は毎回慎重に行っているといい、取材前に必ず選手としっかり話したうえで交渉。それが「番組が『ZONE』から独立し、20年以上続いてきた理由もそこにある」とプロデューサーの飯田氏は分析する。

「子どもの頃、プロ野球選手に憧れて、なれなかった人はたくさんいます。僕もそのひとり。だからプロ野球選手になれた人はそれだけですごいし、華々しく活躍できたならそれでいいじゃないかと番組に携わる前は思っていました」

 そんな飯田氏の考えが覆されたのは、『ZONE』内の一企画として初めて制作された、日本ハムファイターズ(当時)から戦力外通告を受けた石井丈裕氏を取り上げたときのことだった。多くの人が夢やぶれるなか、プロ野球という憧れの世界に身をおき、西武ライオンズ(当時)のエースとして日本シリーズMVPや沢村賞に輝くなど活躍。地位も名誉もお金も手に入れ、なに不自由のないように見える選手が、晩年ケガに苦しみながらも現役にこだわり続け、野球を続けたいと願い続ける姿が印象的だったという。

「石井選手が、現役続行を強く希望し、台湾球界に移籍するまでの姿を描いたものなのですが、正直驚きました。練習中、『クソッ、なんで球が行かねーんだよ』と自分のイメージしている球と、投げた球のギャップに焦り、苦悩する。あそこまで究めた人でも、こんなに葛藤するんだと。この放送は非常に反響を呼び、その後、特番として恒例化するきっかけとなりました。選手生活を満足して終えられる人はほんの一握り。どんなに活躍した野球選手でも、僕らと同じように苦しみ、少なからず挫折も経験し、そして立ち上がる。それはいつの時代も変わらない。その姿が視聴者の心に響き、番組は継続できてきたのだと思います」

“戦力外コンテンツ”巨大化の弊害「取材を受けてもらえないことも増えた」

 本企画がスタートして四半世紀あまりだが、野球界同様、「戦力外通告」を取り巻く環境は大きく変わった。毎年秋口になると、SNSやYouTubeでは各球団の「戦力外」を予想するコンテンツが増え、「戦力外通告」を受けた選手が各球団の編成にアピールする最後の場「プロ野球12球団合同トライアウト」の一般入場券は即完売。一般視聴者の注目が高まり、この番組をきっかけに“コンテンツ”として巨大化が進んだといっても過言ではないだろう。

 その影響もあってか、プライベートを撮影されることを懸念して、番組名を告げただけで拒否されることも増えたという。だからこそ「立ち上げ当初から変わらず、取材を受けてくれた選手とその家族に対して、真摯に向き合う姿勢を大切にしている」と飯田氏は言う。

「人生の岐路、大変な時期であるターニングポイントに密着して、家の中にまで入り込んで撮影。最終的にNPBで野球を続けられないケースも多いのですから、『人生最大の分岐点にここまで密着していいのか?』というジレンマを未だに感じています。ただし、これを見て『プロ野球選手も僕らと同じなんだ』と思って、勇気づけられる視聴者はたくさんいる。だからこそ、我々は受けてくださった選手の一番の応援団として、『出てよかった』と言ってもらえるドキュメンタリーになるよう、真摯に選手や家族に向き合わなければならないと肝に銘じています」

 密着取材は、戦力外通告を言い渡された直後の選手に対して「初めまして」の状態で声をかけることから始まり、そこから日々を一緒に過ごして選手の苦悩や葛藤、家族との関係を赤裸々にとらえ続ける。緊迫かつ濃密な時間を共有することで、選手や家族とスタッフの間には信頼関係が生まれ、取材後も交流が続く人もいるという。そういった交流や、視聴者からの「あの選手は今どうしているのか」といった問い合わせを受け、第二の人生の展開を描いたスピンオフドキュメンタリーも生まれている。

「僕が一番印象に残っているひとりに、元巨人の條辺剛選手がいます。2005年に引退を決意されましたが、その後香川県のうどん屋で修行を積み、現在は奥様と一緒に埼玉県でうどん店を開店されました。充実した第二の人生を歩まれている姿を見て、スピンオフドキュメンタリーの『俺たちはプロ野球選手だった』という番組を立ち上げ、これまで4回放送しました。また、現在も『バース・デイ』で“その後”を取り上げたりしています」

 「戦力外通告」を受けた選手を、瞬間的に“点”として切り取るのではなく、その後の人生にもフォーカスを当て、“線”として濃厚な人間ドラマを見せていく。「ここまで密着していいのか?」と話しながらも、元プロ野球選手の人生を伝えるということへの責任と覚悟が、他のコンテンツとの大きな違いであり、この番組がスピンオフなどに派生しながら20年以上も続く大きな要因と言えるだろう。

「この番組を見た企業などから、『紹介してほしい』という連絡を受ける機会も増えました。やはり、プロ野球選手まで上り詰めた人には、何か魅力を感じるのだと思います」

 20回目を迎える12月27日の放送では、元侍ジャパンの先発投手で今年戦力外通告を受けた広島東洋カープの薮田和樹。昨年東京ヤクルトスワローズから戦力外通告を受け、今季は九州アジアリーグに所属する火の国サラマンダーズでプレーした中山翔太。高校野球の名門・大阪桐蔭高校時代に150km/h以上の速球を投げる天才投手と呼ばれ、北海道日本ハムファイターズ入団し、昨年戦力外通告を受け一時は現役引退を決断したものの妻の後押しで一念発起した高山優希を取り上げる。

「支えているご家族との人間ドラマとともに、感動の結末となっています。今年は特にドラマチックですので、ご期待ください」

取材・文/河上いつ子
『プロ野球戦力外通告』
TBS系 12月27日(水)23:00〜0:30
【出演】薮田和樹(元広島東洋カープ)、中山翔太(元東京ヤクルトスワローズ)、高山優希(元北海道日本ハムファイターズ)
【プロデューサー】高橋秀光、飯田晃嘉
【総合演出】川上浩史

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