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“お尻を洗う”を根付かせ約40年 “トイレ=不潔”脱却にも成功したTOTOの革命とさらなる進化
ウォシュレット定着のきっかけとなった戸川純出演CMの功績
「もともと温水洗浄便座はアメリカで医療用に開発され、TOTOでは1960年代から主に病院向けに輸入販売していました。その後、清潔を好む日本人に広く受け入れられる可能性があるのでは、という考えから一般家庭向けに独自開発した経緯があります」(TOTO広報・松竹博文さん/以下同)
とは言え、当時は一般家庭に和式トイレも多く、そもそも「お尻を洗う」という概念自体がなかった。そのメッセンジャーを担ったのが、近年TikTokで再ブレイクしているニューウェーブの歌姫・戸川純だ。1982年に戸川純を起用したCMの「お尻だって、洗って欲しい」というキャッチコピーは鮮烈だった。お茶の間に入ってきた突然の「お尻」というワードにドキッとした視聴者も多かったが、戸川のキュートで不思議な存在性も相まって妙な説得力があったのもたしかだ。
「戸川さんの果たしてくださった功績はとても大きかったです。とは言え、すぐに『じゃあ洗ってみよう』とはならなかったのも事実。まずは体験しないとその快適さはわかっていただけないだろうと、ウォシュレットをいち早く設置した飲食店のマップを配布するなどして、地道な普及活動を行いました」
発祥はアメリカだったものの…海外でウォシュレット普及が伸び悩むワケ
また訪日外国人もその快適性を絶賛。2005年に来日したマドンナが「ウォシュレットに会いに来た」とコメントしたり、レオナルド・ディカプリオやウィル・スミスらもTOTO製品の愛用を公言するなどしたことから、世界的な知名度も増していった。
とは言え、海外での普及が伸びたのはごく最近のこと。その理由はトイレに電源がないことや、硬水でノズルが詰まりやすいことなどが挙げられる。
「ただ一番の理由は、やはり『お尻を洗う』という概念がなかったことだと考えられます。東南アジアでは、昔からお尻を洗う習慣がありましたが、欧米にはそのような習慣はございませんでした。東南アジアの暑い国では温水を使う必要がなく、また安価な商品が求められるため、当地では通常のウォシュレットのほか、電気を使わず手動レバーでノズルと水が出るタイプの製品も販売しています」
このように国柄ごとにローカライズした開発の成果から、2015年以降はヨーロッパで2倍、中国大陸で2倍、アメリカでは4倍と出荷が伸びているという。なお2015年からコロナ前まではインバウンドが飛躍的に伸びた時期でもあり、日本で快適なトイレを経験した外国人が「一度使ったら手放せない」となったことは容易に推察される。
「ニューヨークタイムズ紙の製品レビューでは、2016年から今年まで7年連続1位の高評価をいただきました。レビューによるとトイレットペーパーの使用が抑えられることから、コロナ禍に普及が拡大したことも指摘されています。近年は高級レジデンスやホテルでもウォシュレットを標準搭載する物件が増えています」
「もはや、ただ排泄するだけの場所ではない」海外がトイレに求められる点とは
「今はデザイン性を求められています。特にヨーロッパでは、いくら機能が良くても、見た目がいまいちだと、選んでもらえません。やはりデザインとテクノロジーを融合させて、より美しく、かつ使いやすいものが求められているのを感じます。もはやトイレはただ排泄するだけの場所ではない。ですので、TOTOも機能性だけでなく、デザイン性、より追求していきたいと考えています」
「ショッピングモールなどでもトイレをきれいにしただけでお客さまが増えたという声をよく聞きます。『清潔で快適な日本のトイレ文化』を実現し、世界に発信していきます。今後も空港や観光地など、さまざまな用途に対して、お客様のニーズに合わせた取り組みを進めていきたいと考えています」
トイレという狭い空間が日本=衛生観念の高い清潔な国というイメージアップに果たした功績は大きい。海外旅行で「トイレが汚かった」「ウォシュレットがなくて困った」といった経験はあるあるだが、日本のトイレ文化が遠からず世界に波及していくことに期待したい。
(取材・文/児玉澄子)