写真左よりレコチョク代表取締役社長・板橋徹氏、NexTone代表取締役CEO・阿南雅浩氏
著作権を保有していない2社だからできること、その可能性
エッグス が運営するインディーズ音楽プラットフォーム「Eggs」は、これまで約3万組以上のアーティスト登録があり、すでに約2700組がメジャーからリリースしている。こうした次世代アーティストへのサポート には、NexTone側にも大きなメリットがある。インディーズで活動し始めたアーティストへの活動支援を早期にすることで、著作権管理やその他サポートが必要なことをレコチョクとNexToneへ相談し、任せてくれるアーティストの増加にもつながるというわけだ。
NexTone・阿南雅浩氏
一方で、NexToneは今の時代に合った著作権管理を目的にし、正確性と公平性、透明性を持った管理で「権利者から選ばれる」管理会社を標榜している。「権利」はあくまでもクリエイターなどの著作権者にあり、NexToneは保有しない。
旧来のシステムと、新たなシステムと…そのどちらにも強みがあり、選択はアーティストに委ねられる。新旧さまざまな業態が生まれ切磋琢磨していくことは、より音楽業界が良い方向へ進むためのエンジンとなり得る。
街から音楽が消えた?「だからこそ権利関係の環境整備をしっかりしていなければならない」
レコチョク・板橋徹氏
続けて「70~80年代のシティポップの再ブームやアーティスト・楽曲の新たなヒット創出など、ビジネスチャンスは非常に増えていると感じます。レコチョクがNexToneとタッグを組むことで、アーティストにとっても音楽市場にとっても新しい可能性が生まれるのではないかと考えています」と展望を明かす。
「レコチョクは個人向けだけではなく、法人向けの音楽配信サービスも展開しています。カラオケや結婚式場、飲食店等の店舗での音楽・動画利用において、権利者への最適な分配と利便性向上を両軸で実現するため、パートナー企業とともに、Win-Winのビジネスモデルを構築し環境を整備してきました。そういったビジネスモデルもNexToneとの資本業務提携により加速度的に展開していくことができると、より音楽市場の活性化に貢献できると考えている」(板橋氏)
さらには、スマホの普及により、ゲーム、SNS、サブスク映画・ドラマの台頭で、人間一人あたりの可処分時間の奪い合いになり、音楽も「エンタメの消費時間の取り合い」に巻き込まれた。
「競合が増えている中で、音楽ってこのままでいいのかと思ったりもします。どんどん新たな音楽体験の在り方を模索しなければならないが、他のエンタメと比べると、変化が遅い気がします。もっと音楽体験の環境整備をしないと、他のエンタメに取って代わられてしまうのではないか、という危機感があります。レコチョクは社員の4割以上がエンジニアで、web3や生成AIなど最新技術を活用しながら新しい音楽体験やサービスの創出を続けています。こういった技術活用で課題解決できることがないかを考えています。たとえば、ブロックチェーンを活用した著作権管理や、AIで作られた楽曲の検知ができないか、など。NexToneとタッグを組むことでできることも増えるので、新規事業の可能性も模索していきたい」(板橋氏)
音楽とAIは共存できる「萎縮させるのではなく、うまく交通整理を」
「というのも音楽は映画にもゲームにアニメにも絶対不可欠なもの。ほかのエンタメが盛り上がれば、音楽は絶対に何らかの形で使われる。そういう意味では、『最強のアート』といえるのではないでしょうか。当社としては、『バリューギャップがあるから創作活動に専念できない』というアーティストが出てこないように、適正な分配の仕組みを作っていくことが大事」
2人の言う「環境整備」「仕組み」は、今回の業務提携でのキーワードとも言える。両社は、楽曲の権利を保有するJASRACとは違い、あくまでも「利用者」と「権利者」の間に立つエージェントに過ぎない。阿南氏は「そういった我々だからこそ、交通整理をするのに最も適していると思う」と話す。
また昨今は、生成AIで声優の偽音声を作り出し、無断利用した動画がSNSで発信され、声優たちに動揺を広げている。音楽業界でもすでに問題になっているが、阿南氏は「規制をかける、法で縛ることで創作や音楽の自由度や流通が阻害されるのではなく、AIでの制作でもしっかりと原権利者に対価を分配する、というルールを作るべき」と語る。
日本はファイル共有ソフト・Winnyを取り締まったことで、世界からIT技術が遅れたと言われている。著作権を無視してコピーされたファイルの送受信などができるからであるが、この技術を適正なルール下で運用できていれば、例えばビットコインをはじめとする電子マネー事業も日本が先行していたのではないか、というのだ。
つまり、「グレーゾーン」であるものは、単に取り締まればすべてがOKというわけではない。AIがWinnyと同じ轍を踏むことを両社は危惧している。
「これまでの著作権管理業務は、作詞作曲家を権利侵害から護り、利益を確保することがほぼ全てでした。もちろん最も大切なことではありますが、現代においてはそれだけでは足りません。楽曲を広く世の中に発信し、楽曲の経済価値の最大化を図るためには、簡単な手続きと適正な使用料で楽曲を利用していただくこと、楽曲の利用を萎縮させないことが重要です。
近年は権利者と利用者の立ち位置がボーダレス化しています。シンガーソングライターや放送局系出版社などがその典型。私たちは“権利者に選ばれ、利用者から支持される著作権管理業者”となるために、作詞作曲家の意見を尊重し、適正で透明性の高い徴収・分配をすることで権利者に選ばれる組織になりたい。利用者にはストレスなく音楽を積極的に利用してもらいたい。そうした管理を行っていくことが、現代では重要であろうと考えます」(阿南氏)
デジタル全盛の時代にあっても、今なおCD売上が過半数を占める世界第2位の音楽市場である日本。そんな特異な音楽市場である日本で組まれた新たなタッグであり、世界でも稀有な組み合わせが、音楽業界にどう影響し、どんな未来を創っていくのか注目したい。
■NexToneコーポレートサイト
https://www.nex-tone.co.jp/
■レコチョクコーポレートサイト
https://recochoku.jp/corporate/
(取材・文/衣輪晋一 写真/片山よしお)
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