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大沢たかおの仕事の流儀「自分にできることを、やっているだけ」

映画『沈黙の艦隊』(公開中)製作・主演の大沢たかお(撮影:松尾夏樹) (C)ORICON NewS inc.

映画『沈黙の艦隊』(公開中)製作・主演の大沢たかお(撮影:松尾夏樹) (C)ORICON NewS inc.

 かわぐちかいじの同名漫画を実写化した『沈黙の艦隊』(公開中)で主人公・海江田四郎を演じる大沢たかお(55)。「核の国際秩序」を題材にした壮大な物語の実写化に、企画段階から関わってきた。「自分にできることを、やっているだけ」と、こともなげに、なかなかまねできないことをやってのける。俳優デビューから30年、彼を突き動かすものとは?

 『沈黙の艦隊』は、日米が極秘に建造した最新鋭の原子力潜水艦「シーバット」の艦長に任命された海江田が、ひそかに核ミサイルを積んで試験航行中に乗員とともに逃亡。海江田たちをテロリストと認定し、撃沈を図る米国。日本は米国より先に捕獲すべく、潜水艦「たつなみ」で海江田を追いかける。いまだかつてない潜水艦戦を圧倒的スケールで描いた意欲作だ。

海江田四郎(大沢たかお)=映画『沈黙の艦隊』(C)かわぐちかいじ/講談社 (C)2023 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.

海江田四郎(大沢たかお)=映画『沈黙の艦隊』(C)かわぐちかいじ/講談社 (C)2023 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.

――大沢さんは主演だけでなく、プロデューサーとして原作者のかわぐちさんへの企画プレゼンを自ら行い、防衛省や海上自衛隊へ協力を求めて各地に足を運ばれたと聞いてます。その経緯というのは?

大沢映画『キングダム』の撮影中に、松橋さん(本作や『キングダム』の制作を担う映像制作会社クレデウスの松橋真三プロデューサー)と移動中の車内で『沈黙の艦隊』を実写化できたら面白いですよね、と話したのがはじまりで。『キングダム』の撮影が終わった後、改めて原作漫画を読んで、30年前の作品だけど、今の方こそ実写化するタイミングなのではないか、と思いました。

 ただ、スケールもバジェットも相当大きなものになるから、こんな映画を作れたらいいよね、という夢のような話でもありました。それから、松橋さんが日本のAmazonスタジオに相談を持ち掛けて、一緒に挑戦したいと言ってくれて。原作者のかわぐち先生からも映画化の許諾をいただいて。たまたま防衛省や自衛隊に伝手があったので僕から連絡して、協力をお願いしに行きました。そうやって1つ、1つ、進んでいって、もしかしたらいけるかも…という感じになっていきました。

――主役級の俳優が作品をプロデュースすること自体、ハリウッドでは珍しいことではないですよね。ブラッド・ピットとか、トム・クルーズとか。

大沢別にそういうのでは全然ないんですよ(笑)。自分にできることがあったので、それをやっているだけで。以前、『風に立つライオン』(2015年)という作品でもプロデューサーのようなことをしたんですね。さだまさしさんの歌を聴いて、ケニアでへき地医療に取り組む日本人医師のことを映画化したしたいと思って、さださんに原作小説の執筆をお願いしたり、映画化する道を模索したり、5年くらい孤軍奮闘しました。ようやく実現しそうになって、プロデュースしたいという人が現れたので、全部委ねて、僕は俳優の仕事に専念した。その時は、製作から名前を外してもらったくらいです。

――えーっ!?苦労して映画化までこぎつけた大切な企画を、他人に譲って良かったのですか?

大沢『風に立つライオン』の時は、自分が貢献できることの一番は俳優として関わることだと思ったし、プロデューサーを兼務していたらほかの役者さんがやりにくいんじゃないかと思って。日本の人は肩書きとか、ポジションを気にするけど、そういうのどうでもいいんですよ。

 今回の『沈黙の艦隊』は、プロデューサーとして僕も名を連ねることで、より関心を持ってもらえるなら、それもまた僕の役目なのかなと思いました。総力戦でいかないと乗り越えられないハードルが多かったので、協力できることは何でもしようと思いました。でも、動き出したら、適切に役割分担していかないとうまくいかない。何でもかんでも僕がやろうとしたら、俳優の仕事ができなくなってしまうし、そうなったら本末転倒。やはり、自分は俳優として頑張ることにプライオリティを置くべきだし、自分の経験上、餅は餅屋じゃないけど、得意な人に任せるのが一番だと思っているんですよ。

映画『沈黙の艦隊』(公開中)製作・主演の大沢たかお(撮影:松尾夏樹) (C)ORICON NewS inc.

映画『沈黙の艦隊』(公開中)製作・主演の大沢たかお(撮影:松尾夏樹) (C)ORICON NewS inc.

――では、脚本も?

大沢最初にチームのみんなでよく話し合って、僕自身の思いというのもしっかり伝えさせていただいて、あとはプロの脚本家に任せる以上、余計な口出しはするべきではないと思っていました。「キャスティングもしたんですか?」とよく聞かれるのですが、それもプロがやればよくて。海江田役は僕じゃなくても良かったし、僕が深町(海江田を追う「たつなみ」の艦長、本作では玉木宏)を演じても良かった。最終的に自分が思い描いていたものと違ったものが出来上がったとしても、僕はいいと思っているんです。

――自分で演じたいキャラクター、描きたいストーリーがあるから、裏でいろいろ手を尽くしているのでは?

大沢そもそも自分はきっかけでいいと思っているんです。25歳の頃、俳優に転向してから30年近くこの仕事やってきましたが、日々、ふとした時に、こういう映画が日本にもあったらいいなとか、この小説が実写化されたら面白いだろうなとか、こういうテーマの作品を作るべきだよな、といったことを思うわけですよ。別に、プロデューサーの仕事を生業にしていなくても、ちょっとしたきっかけで人から話を聞いたり、何かを目にしたりして。その中で、何かを確信する時があるんですよね。自分のためになんて気持ちは1ミリもなく、これはやるべきだって。成功するかどうかは、また別の話になるのですが、言い出すのも勇気がいることだから。でも、誰かが言い出さないと始まらない。だから、自分にできることから動き出せばいいんですよ。

――なんというか、無私の心ですね。

大沢そんな、人のために生きるとか綺麗事を言うつもりはないんですけど、なんか面白い作品があった方がみんな楽しいし、わくわくするし、それで日本映画界が盛り上がってくれたらいいし。そのために僕らはいるわけで、エンターテインメントの世界で仕事を続けていく限り、人さまに楽しんでもらえる、わくわくしてもらえる、ドキドキしてもらえるようなものを出し続けていかなければいけない、と思うんです。

――『キングダム』シリーズの王騎将軍が出てくるだけでわくわくしますし、『沈黙の艦隊』では全然動かないからドキドキしました。

大沢今回、演じた海江田は本当に動きが少ないんですけど、それは監督に「動かないでくれ」と言われたからで、僕はもう少し動きのある海江田をイメージしていました(笑)。でも衣装合わせの時に監督が、「『沈黙の艦隊』は海江田の周りにいる人たちの成長物語」とおっしゃっていて、ちゃんと本質を理解してくださっていることがわかったし、主軸となる海江田は視覚的にも動かない方がいいんだろうな、と理解しました。

――原潜を奪って逃亡した海江田の計画性と実行力、カリスマ性を、『風に立つライオン』や『沈黙の艦隊』を実現させるために行動し、まわりの人の協力を獲得してきた大沢さんにも感じます。

大沢そうでもないと思いますけどね(笑)。寝ても覚めても芝居が好き、という俳優さんはたくさんいらっしゃるけど、そういう方はある種の天職だと思うのですが、僕はそういうタイプではない。だから、自分にできることを探して、一生懸命やるしかない。そのやり方、考え方は俳優になってから30年、変わっていないと思います。

 この仕事ってどこか行き当たりばったりなところがあって、いつ、どんな作品や役と出会うかわからないし、出会った作品や役によって、次の出会いが変わってくる。こんなふうになりたい、と思っても、なれることはほとんどなくて、むしろみんなが求めている方へ流されていってしまう。ある時、振り返ってみたら、自分の道筋ができていた。それが俳優業だと思うんですよね。

――裏でも頑張る大沢さんのモチベーションというのは、人に「楽しんでもらいたい、わくわくしてもらいたい、ドキドキしてもらいたい」と思う気持ちなのですか?

大沢そうですね。自分もそうやって育ってきましたからね。父親がサスペンスや探偵ものが好きな読書家で、江戸川乱歩、横溝正史、松本清張の本が家にあったので、その影響もあって、比較的子どもの頃から本を読むのが好きでしたし、映画館にもよく連れていってもらっていました。

 映画を観て、笑ったり、驚いたり、俳優さんに憧れたり、監督について調べたり。『スター・ウォーズ』や(スタンリー・)キューブリックの映画を観て、なんだこれは!?という衝撃を受けながら、自分のアイデンティティが作られていった。大人になって幸いにも映画製作に携われる仕事に就けたのだから、自分が子どもの頃、スクリーンに釘付けになったような世界を作り出す側の一員として、自分にできることで貢献していきたいと思っているんです。

『沈黙の艦隊』2023年9月29日公開

大沢たかお
玉木宏 上戸彩
ユースケ・サンタマリア 中村倫也
中村蒼 松岡広大 前原滉
水川あさみ
岡本多緒 手塚とおる 酒向芳 笹野高史
アレクス・ポーノヴィッチ リック・アムスバリー
橋爪功 夏川結衣
江口洋介

原作:かわぐちかいじ「沈黙の艦隊」(講談社「モーニング」)
監督:吉野耕平
脚本:高井光(※「高」表記は はしごだか になります)
音楽:池頼広
主題歌:Ado「DIGNITY」(ユニバーサル ミュージック) /楽曲提供:B’z

(C)かわぐちかいじ/講談社
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公式サイト:https://silent-service.jp/

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