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ソース焼きそばの発祥=関西はウソ? 実は知られていない定番ストリートフードの成り立ちと危機
それまで主流だった〈ソース焼きそば=戦後の闇市発祥説〉高見順の小説で新たな展開へ
2011年より焼きそばの食べ歩きブログ「焼きそば名店探訪録」を運営してきた塩崎氏は、このたび長きにわたる研究の成果をまとめた『ソース焼きそばの謎』をハヤカワ新書から刊行したばかりだ。
「たしかに僕がブログを始める前までは〈ソース焼きそば=戦後の闇市発祥説〉が主流でした。しかしどの資料を見ても根拠が曖昧で納得がいかなかった。その後、2012年にあるライターの方が高見順の小説から『昭和10年代には東京・浅草の染太郎(昭和12年創業)が焼きそばを提供していた』ことを突き止めます。とは言え『いつ・どこで発祥したのか』については確定できないままでした」
「デンキヤホールさんに至っては大正初期には提供されていたようで、どうやらソース焼きそばのルーツは浅草らしい。でもなぜ浅草なのか? とさらに調べていったところ、明治の後期に『関税自主権からの回復による小麦の安定供給』と『製粉所の集積地・北関東と浅草が東武鉄道で繋がる』という、ソース焼きそばの起源に結びつく2つのパズルのピースに行き着きました」
このあたりの詳細は本書に譲るとして、ソース焼きそばという大衆食が当時の国際情勢や日本の近代化とダイナミックに絡み合っていくさまは、さながら壮大な歴史ミステリーのようなワクワク感に溢れている。さらに戦後、ソース焼きそばが全国に普及していく足取りもつぶさに追跡。日本食文化史の新たな名著がここに誕生した。
ラーメンが先鋭化する一方で焼きそばがB級グルメの域を超えないワケ「『マルちゃん焼きそば』の完成度」
「屋台飯を提供する上での一番のハードルは水の確保です。その点、焼きそばは主に蒸し麺を使うので茹でる水が不要ですし、スープを用意する必要もありません。また使っているのも蒸し麺・キャベツ・天かすなど、肉を除けば仮に加熱が不十分でも食中毒の心配が少ない食材ばかりで、大量に作っておいたものを温めて提供することもできるので回転率もいい。パッタイやミーゴレンなど、海外でも焼きそば系のストリートフードが多いのはこうした理由でしょう」
「これはあくまで推論なのですが、東洋水産の『マルちゃん焼きそば』の完成度があまりに高いからではないでしょうか。昭和50年から販売されている『マルちゃん焼きそば(3人前)』はあらゆる市販麺の中でも日本で一番売れていて、1日の生産量は富士山3つ分だとか。あの味を簡単にご家庭で出せてしまうとなると……。また消費者のマインドとしてソース焼きそばに出せる値段はせいぜい500円前後。特に都心では家賃や人件費などから商売が成り立ちにくいのだと思われます。」
もちろん少ないながら焼きそば専門店は全国に存在している。
「本書を書いたモチベーションの1つに、多くの方にぜひお店の焼きそばを食べてほしいという思いがありました。特に2014年頃からは屋台や家庭の味との差別化にチャレンジしたお店が都内でも増えていますので、ぜひ足を運んでいただきたいですね」