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ソース焼きそばの発祥=関西はウソ? 実は知られていない定番ストリートフードの成り立ちと危機

 縁日の定番フードにしてご家庭でも簡単に作れるソース焼きそばは、日本人のストリートフードの1つ。近年はご当地焼きそばによる地域おこしも盛んだ。しかし中華麺をウスターソースで味付けしたソース焼きそばがなぜ日本で誕生し、全国に普及していったのか? 2011年から日本全国の焼きそばの食べ歩きをライフワークにしてきた塩崎省吾氏は、膨大な資料と全国1000軒以上の焼きそば食べ歩きを通じて、これまでの通説を覆す発見をしたという。

それまで主流だった〈ソース焼きそば=戦後の闇市発祥説〉高見順の小説で新たな展開へ

 ChatGPTで「ソース焼きそばの起源」について聞いてみると「その起源は戦後の混乱期にさかのぼる可能性があります。特に吹田市(大阪府)は、『ソース焼きそば発祥の地』を自称しています」との回答があった。本業がシステムエンジニアである塩崎省吾氏は「ChatGPTはデータ分析は得意なんですが、知識に関してはあまりあてにならないんですよね」と苦笑いする。

 2011年より焼きそばの食べ歩きブログ「焼きそば名店探訪録」を運営してきた塩崎氏は、このたび長きにわたる研究の成果をまとめた『ソース焼きそばの謎』をハヤカワ新書から刊行したばかりだ。

「たしかに僕がブログを始める前までは〈ソース焼きそば=戦後の闇市発祥説〉が主流でした。しかしどの資料を見ても根拠が曖昧で納得がいかなかった。その後、2012年にあるライターの方が高見順の小説から『昭和10年代には東京・浅草の染太郎(昭和12年創業)が焼きそばを提供していた』ことを突き止めます。とは言え『いつ・どこで発祥したのか』については確定できないままでした」
 塩崎氏は小さな新聞記事や雑誌、マンガ、随筆など手当たり次第に資料をかき集め、また関係者への取材を重ねた。そして共に浅草の老舗である大釜本店(昭和3年創業)、デンキヤホール(明治36年創業)が昭和10年代より前にソース焼きそばを提供していたという証言を得る。

「デンキヤホールさんに至っては大正初期には提供されていたようで、どうやらソース焼きそばのルーツは浅草らしい。でもなぜ浅草なのか? とさらに調べていったところ、明治の後期に『関税自主権からの回復による小麦の安定供給』と『製粉所の集積地・北関東と浅草が東武鉄道で繋がる』という、ソース焼きそばの起源に結びつく2つのパズルのピースに行き着きました」

 このあたりの詳細は本書に譲るとして、ソース焼きそばという大衆食が当時の国際情勢や日本の近代化とダイナミックに絡み合っていくさまは、さながら壮大な歴史ミステリーのようなワクワク感に溢れている。さらに戦後、ソース焼きそばが全国に普及していく足取りもつぶさに追跡。日本食文化史の新たな名著がここに誕生した。

ラーメンが先鋭化する一方で焼きそばがB級グルメの域を超えないワケ「『マルちゃん焼きそば』の完成度」

 本書によるとソース焼きそばは昭和10年前後に浅草の屋台で隆盛を極めたという。同じ中華麺を使ったラーメン(支那そば)も主に屋台で親しまれていたが、やがて店舗化が進んでいく。一方で焼きそばは今もなお縁日などの屋台で供されるイメージが強い。その理由として塩崎氏は「焼きそばがストリートフードとして極めて優秀だから」と考察する。

「屋台飯を提供する上での一番のハードルは水の確保です。その点、焼きそばは主に蒸し麺を使うので茹でる水が不要ですし、スープを用意する必要もありません。また使っているのも蒸し麺・キャベツ・天かすなど、肉を除けば仮に加熱が不十分でも食中毒の心配が少ない食材ばかりで、大量に作っておいたものを温めて提供することもできるので回転率もいい。パッタイやミーゴレンなど、海外でも焼きそば系のストリートフードが多いのはこうした理由でしょう」
 ラーメンとのもう1つの大きな違いは専門店の少なさだ。ラーメンの先鋭化はますます進み、近年ではミシュランの星を獲得する店も現れるほど。一方で焼きそばがB級グルメの域に収まったままなのはなぜか。

「これはあくまで推論なのですが、東洋水産の『マルちゃん焼きそば』の完成度があまりに高いからではないでしょうか。昭和50年から販売されている『マルちゃん焼きそば(3人前)』はあらゆる市販麺の中でも日本で一番売れていて、1日の生産量は富士山3つ分だとか。あの味を簡単にご家庭で出せてしまうとなると……。また消費者のマインドとしてソース焼きそばに出せる値段はせいぜい500円前後。特に都心では家賃や人件費などから商売が成り立ちにくいのだと思われます。」

 もちろん少ないながら焼きそば専門店は全国に存在している。

「本書を書いたモチベーションの1つに、多くの方にぜひお店の焼きそばを食べてほしいという思いがありました。特に2014年頃からは屋台や家庭の味との差別化にチャレンジしたお店が都内でも増えていますので、ぜひ足を運んでいただきたいですね」

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