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「大人への第一歩」通過儀礼としてのスーツ、いまだ機能? コロナ禍経て“親子3世代”による来店も増加
成長の節目を見る機会が減った反動? 家族が集結する機会に
文化祭、部活動の大会、授業参観など、保護者側としても、見守ることができるはずだった子どもの成長があったのに、その貴重な機会をコロナの人数制限によって逃してしまった人もいたのではないか。祖父母が地方に住んでいる世帯は、なおさらその成長の節目を見る機会が格段に減っている。
だからこそなのか、保護者だけではなく“家族みんな”が集結する機会として、今も昔も変わらずにあるのが「スーツ選び」だという。大学や専門学校などの入学式に着ていくファーストスーツは、祖父母がお金を出してくれるという世帯も多く、地元に帰省して購入するケースがよく見られる。「3世代の家族みんなでスーツ選びをする人も珍しくない」と語るのは、スーツ専門店「洋服の青山」を運営する青山商事の小野一樹さんだ。
「保護者と訪れるのは、私が店頭に立っていた10年ほど前もよく見られた光景です。ちょうど今の時期は忙しく、私も店舗に応援に行くのですが、土日はピンポイントで親子より3世代で来られる方が多かった印象です。コロナで孫にあまり会えなかった反動もあったのか、ようやく解禁されたことで、おじいちゃんやおばあちゃんも一緒にいらっしゃる。孫に久しぶりに会えて、さらに成長したスーツ姿を見られるとなったらついて行きたくなっちゃいますよね」
スーツを試着した息子がフィッティングルームからカーテンを開けて出てきた瞬間、その姿を見た家族が言葉に詰まって泣き出してしまったこともあるほど、その姿は強く印象に残る。「中高生の正装というと、大半の方が制服です。成長を見越して大きめのサイズを注文される方も多かったでしょうから、身体にフィットしているスーツを着た姿を見て、より成長を目の当たりにされるのだと思います。大人の正装服ですからね。そのご家族の光景に、こちらももらい泣きしそうになりました」。
言葉では気恥ずかしくても、スーツ選びを通じて背中を押せる
「今の時期にフレッシャーズスーツを買う方は、きっと様々なことを選択している最中で、不安定な気持ちになる方も多いと思います。新生活への不安、学校の手続き、新居の手続き、地方から東京に出て生活をしていくための準備など、いろいろな思いを抱えている。そこで私は自分が親でもあるからか、親御さん側の気持ちを想像してしまうんです。寂しいし心配だけど、言葉として正直に伝えられない歯がゆさもある。そんなときだからこそ、お互いに信頼関係を確認し合うような空気を感じることもあります。『これで大丈夫!』と肩を叩いて社会に送り出すような思いなのでしょうね」
「没個性」といった意見も…多様性が叫ばれる時代にスーツを着る意義
また、フレッシャーズの場合は“若々しさ”や“フレッシュさ”が求められる傾向にあるため、ルーズなものではなく体に適度にフィットしているものが好まれている。男女でスーツの選び方に大きな変化はないが、女性はパンツスーツを選ぶ人も増えている。
「社会に出る=スーツを着る。それは悪いように捉えるものではなく、一つの覚悟だったり協調性の象徴でもあります。ただ、今はそれが“本当の強制”ではなくなっていますよね。スーツは着てもいいし着なくてもいい。その選択肢の自由があることが、今の時代にとって重要なのだと思います。多様性に富んだ考えがあるなかでも、我々としては正装としてスーツを選んでほしい。就活でも『服装自由』と言われると一見自由に感じますが、選択に悩む不自由さもあります。スーツを着るからこそ、自由であることの不自由さを感じられますし、見られる成長の姿もあります。社会人になる一環として実感していってほしいとこれからも伝えていきたいですね」