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蚊やゴキブリの遺影を前にお焼香…アース製薬が“虫供養”を行うワケ「感謝と懺悔の気持ちと向き合う大切な日」
「虫は効力試験で使う必要があるのに、なぜ供養するの?」研究員も初参加時は困惑…シュール過ぎる厳格な取り組み
「まず弊社の経営理念に『命と暮らしに寄り添い、地球との共生を実現する』というものがあります。聞くところでは、命の大切さを社員が感じるためにも供養をしたほうがいいだろうというところが始まりだと聞いています」
ここまで本格的に、まるで人の供養と同じように行われるとなると、どこか珍妙な気がするが、実は川口さん初めて虫供養に参加した際には、「すごく違和感があって、はじめはとても厳かな気持ちにはなれませんでしたね」と振り返る。
「虫は効力試験で使う必要があるのに、なぜ供養するの?と。あとは虫の遺影が飾られている景色そのものがちょっとシュールだなと最初は思いましたが、儀式が始まり、焼香、ご住職の説法という一連の流れを体験するなかで、我々の試験に関わる虫たちのおかげで商品開発ができています。虫が媒介する感染症で命を奪われる人も多く、虫に困っている人たちの役にも立っている。この供養を通して、虫たちへの向き合いが変わっていきました」
「彼らのおかげで我々が成り立っている」“虫供養”は1年に1度だけのマインドチェンジ
だが、命と暮らしに寄り添い地球との共生を実現するという同社の経営理念に基づくと、商品開発や改良のために効力試験をしているといえども、虫も人も同じ1つの命なのだということを考えておかなければいけない。また、殺虫剤の名称も虫ケア用品に変更しており、そもそも虫を殺すことが目的ではなく、虫や虫が媒介する感染症から人を守るものが虫ケア用品の役割であることを訴える。
「常日頃から虫に対して申し訳ない気持ちを持つことはありませんが、年に1度の虫供養では、『商品開発のために犠牲にしてしまい、ごめんなさい。おかげで商品開発ができています。貢献してくれてありがとう』という償いや感謝の気持ちとしっかりと向き合う日を作り、マインドチェンジしているところもあります」
「いくら虫を扱う仕事だからといって、家に出てくるゴキブリは嫌なんですけどね」と川口さんは笑う。しかし、消費者のその“嫌”のために、彼らは効力試験を行い、商品開発を担っているのだ。
「虫供養では虫に対して、感謝の気持ちが大きいです。たくさんの虫が効力試験に貢献してくれたおかげで、商品開発ができている。『ありがとうございます』という想いをこめている社員が多いと思います」
昨今のコロナ禍もあり、2020、2021年の虫供養はリモートで行われた。最初は小規模で行う予定だったが、多くの研究員、社員が「どうしても参加したい」ということで住職に相談。住職も快諾し『リモート虫供養』が行われたという。
2019年には千羽鶴ならぬ、千羽蚊も奉納した。これは同社が虫供養を世に広めるための施策で、折り紙が得意な社員が鶴ではなく蚊をオリジナルで作成。それを全国の社員が折り、千頭、折り紙の蚊を作成した。虫供養の精神は、全国の同社社員に伝わっている。