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「女性風呂はハーレムなんかじゃない」トランスジェンダー男性が明かすLGBTQへの偏見
“元女子”といっても身体的な性別が女性だっただけ。心はずっと男性のまま
【奏太】 今でこそ「元女子」とか「元男子」という言葉が広まっていますが、実はそのワードを使い出したのは4〜5年ぐらい前、僕らが最初でした。当時は今と違ってLGBTQと呼ばれるYouTuberの方は数えるほどしかいなかったんですね。ただ、YouTuberの動画コンテンツは溢れかえるほど多く、いくらトランスジェンダーのことを知ってもらいたいと思っても、たくさんの人の目に止まることはなかったんです。だから当時の僕らは皆さんの興味を引くような“引っかかり”が必要だと考えました。
――そこで誕生したのが“元女子”だった。
【奏太】はい。“元々割り当てられた性別が女性だった”というところを短縮して“元女子”。その言葉によって「どういうこと?」って、きっと興味を持ってもらえる。そこを入り口に、自分たちのことについて発信したいと思ったんです。
【奏太】 それはすごくありがたいことだと感じつつも、この“元女子”という言葉がミスリードを誘ってしまう場合が多々あると感じるようになりました。僕は割り当てられた性別がたまたま「女性」だっただけで、最初から心は男性なんです。だからこそ「性別違和/性別不合」という専門用語も生まれた。だけれど“元女子”という言葉によって「心も体も女性から男性に変わったんだよね」という認識が広まりやすくなってしまう可能性があると気付きました。これは、その言葉を生み出した当時には想像もつかないことでした。「元々女性から男性に変わったんだから、女性の気持ちも男性の気持ちも両方わかっていいよね」って言われることも珍しくありません。
確かに、20年以上女性として生活しなければいけなかったので、生理の辛さなどの身体的悩みは、それを経験したことがない人よりかは分かる場合もあります。ですが、身体や心のしんどさは人それぞれ。ジェンダーアイデンティティやセクシュアリティも人それぞれ。「元女子」という言葉で知ってもらった以上、正しい情報を届ける責任があるなと思います。
好きな人に自分の嫌な部分を晒さなきゃいけない女性風呂には入りたくなかった
【奏太】 動画でも質問されたことがあるので見てくださった方もいると思いますが、「性自認が男性だったら、女性風呂はハーレムだった?」みたいなことも聞かれたりします。映画やアニメとかでも、見かけたことがある表現かなと思います。僕自身は、性的な搾取であるあの表現が好きではないですし、それによって受けた誤解もある。僕にとって女性風呂に入るということは、自分の体の嫌いな…違和感を感じる部分、胸や生殖器など、誰にもみられたくないプライベートな部分を晒さなければいけない場所でした。
――自分の体の嫌いな部分、コンプレックスな部分を他人に見られるのは性的なマイノリティ、マジョリティ関係なく嫌ですよね。
【奏太】 たとえば部活の合宿とか修学旅行での入浴の際に、自分の嫌な部分を見せなければいけない状態。そしてなによりも「女性のからだ」として認識されやすい場所であることが苦痛で仕方なかったんです。本当にとても苦しくて…。避けられるものなら避けていました。
【奏太】 あと誤解されやすい面で言えば、「心が男性ってことは恋愛対象は女性なんでしょ?」という質問もよくされます。僕は男性として女性が好きなので、ヘテロセクシュアルですが、同じトランスジェンダー方でも、恋愛対象が同性の方だったり好きになる性はそれぞれです。中には、人に恋愛感情を抱かない方もいるということを、皆さんに知ってほしいなと思います。
――よく考えたら、ジェンダーでのアイデンティティとセクシュアリティはまた別物ですもんね。
【奏太】 そうですね。実は昔、僕もトランスジェンダー男性でゲイの方に初めてお会いしたとき、「FtMで男性が好きってどういうことなんだろう?」って、ちょっと混乱したんです。だけど、よく考えてみたら、そうだよなって。好きになる性は人それぞれなのだから、当たり前なことだなと思いました。僕自身も無意識のうちに男女の二元論かつ異性愛規範に囚われていたなと思います。
こんなふうにLGBTQに対する認識って、当事者でさえわからない、気づいてない部分がまだまだあったりします。抱える問題も違います。だから、僕が発信することでひとりでも多くの方に「世の中にはこういう人たちもいるんだ」と知ってもらったり、「これはどういうことなんだろう」という疑問を解消するきっかけになってもらえたらありがたいなと思っています。
(取材・文/今井洋子)