• ORICON MUSIC(オリコンミュージック)
  • ドラマ&映画(by オリコンニュース)
  • アニメ&ゲーム(by オリコンニュース)
  • eltha(エルザ by オリコンニュース)
  • ホーム
  • ライフ
  • 「寿命が縮んでもいいと思ってた」性別適合手術の実情、生殖機能の排除を条件とする戸籍条件への疑問も
ORICON NEWS

「寿命が縮んでもいいと思ってた」性別適合手術の実情、生殖機能の排除を条件とする戸籍条件への疑問も

  • トランスジェンダーのYouTuber、木本奏太さん。

    トランスジェンダーのYouTuber、木本奏太さん。

割り当てられた性別と心の性別の不一致で悩む人々にとって、性別適合手術は自分らしく生きるための手段のひとつだ。トランスジェンダーでYouTuberとして活動する木本奏太さんも、6年前、身体にメスを入れ、戸籍の性別を女性から男性へと変えた。当時は、「手術で寿命が短くなったとしても、男性として生きられる喜びが大きかった」という。手術に後悔はない。ただ、今は「生殖機能を排除しないと性別変更できない」という日本の法律に疑問を感じると話す。LGBTQ当事者が明かす、性的マイノリティを取り巻く課題とは。

30代になりLGBTQが直面する社会的な問題にも向き合えるようになった

――つい先日31歳になられたばかりですが、30代になってご自身に変化はありましたか?

【奏太】 自分自身のジェンダーとセクシュアリティがしっかり言語化できるようになったことで、「女性から男性に戸籍変更して、これからどんなふうに生きていきたいんだろう」という自分の内側だけに向いていた気持ちが、「LGBTQの当事者が直面している社会的な問題にも向き合っていきたい」という外向きな感情に変わってきました。

 例えば今の日本の法律。法律上同性間の婚姻が認められていない現状や、トランスジェンダーの戸籍変更の条件といった、これまで疑いを持たなかったことに対して「これっておかしいのでは?」と疑問を持つようになったことが、僕にとってはすごく大きな変化でした。

大学生までは女性として生きてきた奏太さん。

大学生の頃、周囲にカミングアウトした奏太さん。周りはそのままを受け入れてくれたという。

――先日開催されたトランスジェンダー国会でも、LGBTQの戸籍が生殖機能を永続的に欠く「不妊要件」が必須であることに異議を唱えていらっしゃる方がいました。

【奏太】 戸籍変更のために性別適合手術で体にメスを入れなければいけないという点については、僕も今の年齢になって、疑問視するようになりました。僕もそうでしたが、性自認とは異なる身体的特徴に嫌悪感を感じているトランスジェンダー当事者は少なくありません。だからホルモン注射をしたり、手術してでも外見を自分の望む姿に近づけたいという気持ちはすごく理解できるんです。

 でも割り当てられた性別の上で、必要なホルモンを分泌する体内の生殖器まで排除しないと戸籍変更できないという今の法律には、やはり問題があると思いますし、もっと議論されて然るべきだと思うんです。

――現状では、戸籍を変更したい人には選択の余地がないわけですね。

【奏太】 「体にメスを入れたくないなら、戸籍変更まで望まなければいいじゃん」という声もありますが、そもそもなぜ選択肢が奪われている状態なのか疑問に思います。いまの日本の社会の中では、自分のジェンダーやセクシュアリティを表明したとしても、こうでなければいけない“性別”というものに縛られてしまい生きづらいと感じます。

――奏太さんご自身は2015年に性別適合手術を受けられて、2016年に戸籍を女性から男性に変更されていますが、「不妊要件」を満たさなければいけないことへの抵抗は、どの程度持たれていたのでしょうか。

【奏太】 僕が性別適合手術をして戸籍が変更できるという法律を知ったのは20歳くらいで、割り当てられた性別が女性であることに対する嫌悪感や、「女性として生きていきたくない」という内向きな感情がものすごく強かった時期でした。だから当時の僕は「これでやっと自分らしく生きていける!」という喜びだけが先走ってしまって、抵抗どころか、何の疑いも持たなかったんです。子宮や卵巣をとってしまえば、割り当てられた性別が女性であるという現実を突きつけられることも少なくなる。たとえ手術を受けることで寿命が短くなったとしても、「“男性”として自分らしく生きていけるのであればその方がいい」とすら思っていました。

――当時の奏太さんにとっては、それが最善だったわけですね。

【奏太】 はい。でも今は生殖器を取ることのメリット、デメリットの正しい情報が行き渡った上で、国ではなく、当事者が自分の意思で決められるようにすべきだと思います。

同じトランスジェンダーでもトランス女性の方が差別されやすい

――奏太さんは大学生までトランスジェンダーであることを隠し、学校では女性として過ごされていたわけですが、いわゆる「男性っぽい言動」が原因でいじめにあったりしたことはなかったですか。心が女性で割り当てられた性別が男性だった方の中には、言葉使いや仕草が女の子っぽいといじめられた経験のある方も少なくないようですが。

【奏太】 「ちょっと変わってるな」くらいは思われていたかもしれないけれど、いじめられたことはなかったです。ですが、そのような問題が今もあることが悲しい限りです。同じトランスジェンダーでもFtM(割り当てられた性が女性で、性自認が男性)とMtF(割り当てられた性が男性で、性自認が女性)では、抱える悩みや問題は違うと思います。

――同じトランスジェンダーでも、FtMとMtFではだいぶ違うんですね。

【奏太】 これはあくまでも僕個人の意見ですが、男女の肉体的な力の差や、社会的な差別構造の歪みがトランス女性に向いてしまっているのだと感じています。SNSなどで流れてくるトランスヘイト、いわゆるトランスジェンダーに対しての差別的な発言の対象も、トランス男性よりトランス女性に向けて発信されてるものがすごく多い印象です。

 トランスジェンダーに限らずLGBTQに対する偏見や差別は、個人の問題に見えても、実は社会の根っこにある問題と無関係じゃないと思います。僕も30代になってやっとそのことに気づいたんですよね。
――LGBTQに対する理解は年々深まっているように見えますが、まだまだ課題は多くありますね。

【奏太】 そうですね。だからこそ僕は、LGBTQの当事者はもちろんのこと、何かしらの悩みを抱えている人たちが1つでも多くの選択肢が増えていくことの願いを込めて、前向きな気持ちになれるコンテンツをこれからも発信していけたらなと思ってます。

 大学でも映像学科で学んでいますが、チャンスがあれば映画作りに挑戦してみたいです。幼少期、映画を見ている時間だけは現実から少し離れられるような気持ちになっていました。また、作品によっていろんな人たちがいることを知って、僕はとても救われてきました。映像を通して誰かの何かのきっかけになるような、そんな作品を作ってみたいです。

(取材・文/今井洋子)
木本奏太 INFORMATION
▼YouTube
「かなたいむ。」
▼twitter
@kanata_kimoto
▼Instagram
@kanata_1023

あなたにおすすめの記事

 を検索