ORICON NEWS
濱津隆之、『カメ止め』ヒット後の苦悩…芸人・DJを経て辿り着いた“俳優業”成功の鍵は「目的がないこと」
チョコプラ&シソンヌと同期でNSCに入所、好スタートを切るも芸人からDJに転身
「ひたすらバイトしながらの芸人生活でした。一応、吉本の若手お笑いライブで1位を獲るなどもしましたが、“本当にこのままでいいのか”と思い始めたのです」
「良いスタートを切っていたし、相方もいたのに、そんな自分勝手で1年足らずで辞めてしまって…。でも僕は、昔からやりたいことをやらずにいるということが出来ない性格で、とりあえずやってみなければ、というところがあったのです。そこで行き着いたのが、DJという仕事でした」
「新しいことに次々挑戦するのは不安しかない。でも、それよりも、自分の中に大きくある興味を気にしたまま、やらずに死んでいくのが嫌だったんです。やらないより、やった方がいい。もちろん、自分に合う・合わないはあると思います。よく“自分で自分の限界を決めるな”という言葉を聞きますが、僕は“限界はある”と思っている。合わない方で自分を信じて執着するより、見極めた方が良い。ゴールは1つでも、そこへ至る道はたくさんある。そんな多くの選択肢の中で、僕は身の丈に合った選択をしてきた結果、今に至ります」
『カメ止め』は“身の丈に合わない”ヒット?「流れ着いた」役者業で再びぶち当たった壁
「そんな時は、それが本当にやりたいことなのかどうか、自分に問います。重要なのは、どう生きて、どう死ぬか。自分の筋が通っていれば、その道を諦めても、あるべき場所へ流れ着くと僕は思うんです」
かくして役者の世界へ「流れ着いた」と表現する濱津。そんな彼を一躍スターに押し上げたのが、インディーズ映画『カメラを止めるな!』だ。この頃、濱津はさまざまな小劇場の作品に出演していたが、結果的に、自分の人間味を面白がってくれる人たちと仕事をするのが、最も自分に合っていると解を得ていた。まさに上田慎一郎監督も、その1人だ。
それぞれの個性を理解し、最大限に引き出してくれる上田監督の力量により、『カメ止め』は大ヒット。主演俳優である濱津のもとには、様々なオファーが殺到した。しかし、世間の注目を集めるスポットライトの裏で、彼は再び苦悩に襲われていた。
「それまでの人生の中で、自分にやれること・やれないことを見極め、身の丈に合った舞台の世界に行き着いたつもりでした。しかし、そうして辿り着いた役者業で、ありがたいことに様々なオファーを頂くようになり、どうしても僕の人間味とは合わないお仕事も頂いてしまう。それは役者としては命取りとなる“自分を意識しすぎること”と似ていて、正直、2年ほど苦戦しました」
「僕にとって売れる・売れないは重要ではない」多くの挫折を経て、辿り着いた境地とは
連ドラ初主演となった本作で、もう一度自身と重なる役に出会った濱津は、自然体の演技を取り戻した。それからいかなる役のオファーが来ようと、「自分は自分のままで行こう」と仕切り直すことができたという。
そんな濱津の自然な演技、料理に懸ける情熱が視聴者にも伝わったのか、ドラマの放送後、実際にお店に足を運ぶ人や続編を求める声が続出し、season2が制作された。
「Season2も渋いお店、味のある店主もたくさん出てくるので、是非お楽しみに。……僕の見どころですか? それはないですね(笑)。なんとなく流れている風景を楽しむ作品ですし、僕の見どころがないのが、本作のまた良いところではないかと思います」と飄々と語る。
「目的がないことも良かったのかもしれないですね。芸人時代は売れようと肩に力が入っていましたが、多くの挫折を経て、自分にできないことが沢山あると知った。今の僕にとって重要なのは、売れる・売れないではない。単純にものづくりが好き、それだけです」
濱津にとって、芸人・DJを目指した時間は決して遠回りではなく、「自分のできないこと」を知る貴重な過程だったのかもしれない――。
(取材・文=衣輪晋一)