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芥川賞候補・鈴木涼美、異色の経歴や愛煙家へのレッテルと現実「世界は自分の快感だけで構成されていない」
元AV女優で喫煙者、風当たり感じる「批判されがちなマイノリティー属性」
「私はwriterです、以上。って感じなんですけど、過去の経歴が経歴を超えて肩書きのようになる事象はどうしてもありますよね」
過去の経歴が特徴的であればあるほどそこに話題が集中し、その人を形容する枕詞になることはよくある。ただ、それはプラスに働くだけではなく、偏見やレッテルといった、マイナスな効果を生むこともしばしば。鈴木さんの場合、経歴だけでなく、「女性喫煙者という、批判されがちなマイノリティー属性」としても、風当たりを感じているそうだ。
SNSに喫煙シーンを載せたところ、「ファンをやめます」というメッセージが来たことがあるという鈴木さん。改正健康増進法の全面施行やコロナ禍で喫煙規制は年々厳しくなっており、特に成人の7.6%(2019年/厚生労働省国民健康・栄養調査)というマイノリティー中のマイノリティーである女性喫煙者の肩身は狭い。
「私の本を読んでも特に副流煙のような害はないはずなんですけど(苦笑)。ただやはり嫌煙という“思想”は根強く、女性芸能人でも隠す人は多いですよね。私の友人でも、健康だけではなく、“モテ”に重きを置くとみんなやめていきます(笑)。たしかにやめたほうが、モテのパイは広がるでしょう。だけど私は“思想”を押し付けてくる人がイヤなんです」
かつて嫌煙家の男性と付き合ったこともあるという鈴木さんは、「たばこの煙やにおいがイヤだという人の前では吸わない」という明確な分煙家。しかしその男性と長続きはしなかったという。
「においや煙以上に、たばこを吸っていること自体が許せないという男性だったんです。彼が吸う吸わないはもちろん彼の思想だし、たばこのにおいが嫌だとか家や車で吸われるのが嫌だと感じるのはもちろん彼の自由ですが、たばこを吸う女性自体に嫌悪感があるのは一つの“思想”であって、それを私に共有しろという圧力は嫌でした。許せないのであればどうして私と付き合ったのか。おそらく懐柔できると思ったのでしょうが、一方向の正しさを押し付けてこられるのは苦手です」
喫煙者は「大っぴらに批判できる数少ない対象」、“ズルい”は強烈に人を動かす
「男性の喫煙率が50%を超えていた時代の名残りから、たばこは男性のもの、不良のものというイメージ。『女性は清楚であるべき』という、古典的な思想から来るものなのかなと思いますね。ただ男性の喫煙者が激減した一方で、女性の喫煙者は少ないながらにほぼ横這い傾向。ということは、いつの時代も一定数の女性はたばこを吸ってきたんだと思います。ちなみに、女性は男性に比べて加熱式派より紙巻派が多い印象。女性喫煙者のほうが日和っていないというか、腹が座っているのかもしれないです(笑)」
いずれにせよ、喫煙者全般への風当たりが強いのは確か。その批判の裏側にあるものを、鈴木さんは客観的な視点から分析する。
「ストレスフルな社会で、みんな誰かを批判したがっている。ネットニュースのコメントを見ても、それは明らかです。ただ実社会ではコンプライアンスが厳しく、ヘイトはいけないものとされています。そうした中で喫煙者は『人の健康を害する可能性がある』という大義名分から、大っぴらに批判できる数少ない対象と見なされています。もっと言えば、ストレスが溜まっているのは何かしらを我慢しているから。なのに喫煙者は快楽を貪っていてズルい。この『ズルい』という感情は日本社会において強烈に人を動かす力を持ち、相次ぐ炎上やキャンセルカルチャーなどを生んでいます」
『AV新法』に疑問、「自分にとって不快なものが誰かにとって大切なもの」
「昔よく行っていたお店が喫煙可だったのですが、必ず隣の人に確認するのがルールでした。要は、『コミュニケーションを取りましょう』ということ。日本人は基本的に知らない人に話しかけるのは苦手とされていますが、『吸ってもいいですか?』『ここではやめてください』といった会話を、喧嘩腰にならずに互いに感じ良くできるくらいのコミュニケーションは必要だと思うんですよ」
「世界は自分が快感だと思うものだけで構成されているわけではない」と、鈴木さんは強調する。
「それこそ『AV新法』が現場の声をまったくすくい上げることなく、大雑把に施行されてしまうことにも危機感を覚えます。自分にとって不快なものが誰かにとって大切なものだったりすることはあるわけで、それを一方の『不快』の声だけで法律で縛るようになったら、これから失われる文化はもっと出てくる。そのほうが怖いなと思います。自分の考えを表明することは素晴らしいことですが、それによって誰かが傷つけられるという可能性をどこかで意識してほしいとは思います」