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京アニ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』ピアノアレンジアルバム発売、劇伴担当語る「“別次元”で表現するキャラクターの心情」
「どのメロディーを入れるかが重要」、オーケストラ音楽をピアノで表現する難しさ
(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
シリーズを通して劇伴を担当しているEvan Call氏はアニメ作品のほか、近年はNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など実写作品も数多く手がける気鋭の作曲家。Evan氏の特徴は荘厳なシンフォニックサウンドで、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の劇中音楽も、オーケストラで演奏することを前提として作曲されたものだ。
それらの楽曲群をピアノアレンジに全面監修するにあたって、Evan氏は「すべての音を入れるのは不可能なので、どのメロディーを入れるかが重要でした」と振り返る。
同作のメインテーマである「Theme of Violet Evergarden」のサビでは、原曲のダイナミズムや重厚さがそのまま表現されていることが感じられる。たくさんの音が折り重なるオーケストラの音楽が、たった10本の指だけで奏でられることによって、「この劇伴の根幹はどこにあるのか」が明確になるのがピアノアレンジの醍醐味だろう。
さらにオーケストラの楽譜を単にピアノアレンジするにとどまらず、原曲にはない表現が取り入れられた楽曲もある。
たとえばヴァイオレットが命を賭して守ろうとしたギルベルト少佐が、秘めた思いを告げる回想シーン(第9話)など、ファンには忘れられない数々の名場面で使われた「The Ultimate Price」には「何か特別な表現を入れたい」と、後半部分には国内外で活躍する作曲家・ピアニストの酒井麻由佳氏によるアレンジが盛り込まれた。
Evan氏は『鎌倉殿の13人』メインテーマのピアノ編曲も委ねた酒井氏に絶大な信頼を寄せており、「右手がメロディ(主旋律)とカウンターメロディ(対旋律)を同時に弾きながら、左手があちこちに動き回るワイルドな弾き方はかなり高度な技術が必要。ピアニストでない僕には絶対に思いつかなかった酒井さんのアレンジにより、オーケストラとは別次元のサウンドになりました」と、原曲の魅力をさらに広げた酒井氏のスキルと表現力を称賛している。
感動シーンをピアノで再現、セットリストから垣間見える制作者の想い
(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
「Disc1」には、シャルロッテ王女とダミアン王子の政略結婚の顛末(第5話)に使用された「An Admirable Doll」や、病身の母親が自らの死後に娘に届けられる50年分の手紙を綴るエピソード(第10話)に使用された「Always Watching Over You」など、劇中ではたった一度しか使用されていないものの、感動のシーンとともに強い印象を残した楽曲も収録されている。
「Disc2」は、外伝や劇場版の劇伴がメインながら、TVアニメの劇伴や劇場版オリジナルサウンドトラックの特典CDに収録されたイメージ楽曲(劇中では未使用)も随所に散りばめられている。
この構成について、Evan氏は「選曲する際に、全部優しくてエモーショナルな曲ばかりだと物足りなさを感じます。今回は、お酒を飲んでいるシーンの様なテンションでハッピーな曲や、ピアノアレンジとして面白い曲などもアクセント的に入れて、広い世界観が伝わるように整えてみました」と意図を語っている。
こうした構成により、冒頭で盛り上がりを持たせ、中盤には静かな楽曲が中心となり、終盤に向かってフィナーレを迎えるといったアルバムのかたちを貫く流れが生まれている。
シリーズを通して数多くの楽曲を制作してきたEvan氏だが、1枚に再構成された「Disc2」を通して聴くことで、Evan氏が『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の世界観をどのように俯瞰していたのかがうかがえるだろう。
収録は、埼玉・所沢市民文化センターミューズのキューブホールで実施された。空間の奥行きを感じさせるサウンドは、ホールの自然な響きや鳴りをそのまま生かしたもので、リバーブなどのデジタルエフェクトはほとんどかけていないという。コンサートホールで鑑賞しているような臨場感も味わうことができるだろう。
3月30日発売3850円(税込)
ランティス