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「今までありがとう」猫たちの最期の挨拶、飼い主が経験した“不思議体験”に涙が止まらない

 動物を飼っていて、一番つらいのが別れのときだ。可愛がり、愛を注げば注ぐほど悲しく苦しいが、そのときは必ずやってくる。だが、そんな飼い主の思いはきっと動物たちに伝わっている…そう思えるようなエピソードも数多い。今回は病気で旅立ってしまった白茶猫「ぬし」にまつわる不思議体験について、NPO法人『ねこけん』の代表理事・溝上奈緒子氏に聞いた。

“猫出会い系体質”の女性と「ぬし」、穏やかな日々の終わりは不思議な体験

 「ぬし」は、『ねこけん』ボランティアメンバーのATさんが公園で出会った猫。“猫出会い系体質”と言われていたATさんは、偶然訪れた場所でさまざまな猫たちを保護してきた女性だ。「彼女は普段は車移動なんですが、たまに徒歩で外出すると、頻繁に猫に出会っちゃうという不思議な体質なんです」とのこと。

 そんなATさは、人懐っこい「ぬし」が公園のベンチでゴロゴロしているところを保護。晴れて“公園の主”から、保護猫の「ぬし」となり、シャンプーされてイケメン猫へと変貌した。ほかの猫たちとの共同生活も、思いのほか気に入った様子。しかし、保護したときから高齢で貧血気味だった「ぬし」の保護猫生活は、そう長くはなかった。

 鼻からの出血があり、急いで病院で駆け込んだところ、鼻の中に腫瘍のようなものを発見。高齢の「ぬし」が腫瘍の摘出手術に耐えられるのか? 摘出できたとしても、その後の検査の日々を耐えられるのか? 悩んだあげく、ATさんは病院を怖がる「ぬし」の性格を考え、投薬での治療を選んだ。そして、最期まで寄り添う覚悟を決める。

 残りはわずかな時間であったが、「ぬし」はATさんのもとで幸せな生活を送り、そして虹の橋を渡っていった。不思議なことが起こったのは、「ぬし」が旅立った日のことである。

 危険な状態に陥り、急いで動物病院で応急処置をしてもらったものの、病院を出たあたりで息を引き取ったという「ぬし」。ATさんは家へ連れて帰ろうと、車に乗り、自宅までの道順をナビで設定してから出発したという。すると、ナビはいつもと違う道を案内し、気がつくと、着いたのは「ぬし」と出会った公園だった。

 人懐っこい「ぬし」が公園でどんな生活をしていたのか、もはや知ることはできない。もしかしたら、元は飼い猫だったかもしれない。それでも公園は「ぬし」にとって、忘れることのできない場所だったのであろう。そんな公園に別れを告げたかったのかもしれないと、ATさんは思った。

火葬場で聞こえた鳴き声、足音…、どんな形でも伝わる猫との愛と絆

 このエピソードを『ねこけん』ブログに投稿すると、同じような猫との不思議体験をしたという人のコメントが多く寄せられた。

 火葬場で飼い猫に別れを告げると、まるで「今までありがとう」と伝えるかのように、スマホから「ニャー」という音が勝手に鳴り響いたという話。亡くなった時、愛猫の鈴の音や足音が聞こえたという話。海外にいた飼い主の夢枕に立ち、知らせをしていった猫の話。そして、離れて暮らす飼い主が自分のもとに到着するまで待っていてくれて、わずかな最期のときをともに過ごしてから亡くなった猫の話――。

 溝上氏も、不思議なことに、世話をした猫たちを看取れなかったことがないという。

 「今まで、100%の確率で看取ってきました。私がどうしても会いにいけないときは、絶対に旅立つことはないという変な自信もあるくらいです。きっと、猫ちゃんたちも待っていてくれるんだ、と思うようになりました」

 だが一方で、世話をしていた猫たちの旅立つ瞬間に、どうしても立ち会えないメンバーもいるという。

 「決して愛情がない、絆がないというわけではありません。猫は苦しむ姿を見せたくなかったのかもしれませんし、そういう巡り合わせの人がいるというだけ。動物たちと心が通じ合っているということは、何も変わりないと思います」

 お世話になった飼い主に、何かしらの形で別れや感謝を告げようとする猫。また、最期の姿を見せまいとして、旅立っていく猫。どちらにしても、きっと愛の大きさは同じ。

 「ぬし」にとって、公園がどういう場所だったのかは今となってはわからない。しかし、ATさんのもとで幸せな生活をしていたからこそ、長らく暮らしていた公園にふらりと立ち寄ってみたくなったのだろう。ATさんをそこへ連れていきたかったのかもしれないし、ATさんなら付き合ってくれると思ったのかもしれない。

 愛猫や愛犬との別れを経験した飼い主の間では、「毛皮を着替えて戻ってくる」という言葉がある。亡くなった動物が再びこの世に生を受け、また同じ飼い主のもとへ戻ってくるという表現だ。もしかしたら「ぬし」も天国に立ち寄ったあと、「毛皮を着替えて」ATさんのもとへ帰ってくるかもしれない。“猫出会い系”と言われるほどのATさんだ。その日は、そう遠くないような気がする。

(文:今 泉)

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