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山路和弘と朴ロ美が語る、声優夫婦のメリットデメリット「役柄が僕たちの関係を取り持っている」
「とても2人一緒にリハできない」作品で描かれる心をえぐるようなリアルさ
――この作品をご夫婦で演じるという依頼が来た時、どう思われましたか?
山路和弘(以下、山路) 夫婦を演じるのは2回目。でもね。自宅で初めて映像と脚本を見た時、「これどうしようか」と思いました。
朴ロ美(以下、朴) ちょっとやってしまったな感がありましたね(笑)。
山路 夫婦でやるにしてはすごくディープな話なんですよ。一緒に生活していると相手に引っかかることがあるじゃないですか。演じていると自分の反省になる部分もあるけれど、ミラのこの出方はちょっと俺は許せないかなとか。この役を互いにやっていると離婚の原因にもなるんじゃないかと思いましたよ(笑)。
朴 ちょっと、妻を前に「離婚」ってワードやめてほしい(笑)。とはいえ、私たちも互いに過去があるわけで、過去の自分を役柄に見てしまいますし、そういうリアルな生っぽさがこの作品にはありますね。私たちはよく同じテーブルで、真向かいで全然違う作品の仕事のVチェックをしているんですけど、今回に関しては彼は、違う部屋へ行ってリハーサルをしていて「俺はもうあと一回リハをやったら耐えられない」と言ったりするぐらい(笑)。
山路 どんどん気持ちが重くなってくるから。最初は夫婦役だしお互い家でリハするし、一緒に合わせてやればいいと思っていました。でも口を開けてみたらとても2人一緒でやれるもんじゃない。演じているジェシカとオスカーも、2人が夫婦だったら出来なかった役柄だと思うよ。夫婦でインタビューを受けるシーンもあるんだけど、そこで見え隠れする夫婦のすれ違いや不協和音…。僕も妻の顔を見て、そしてミラの表情の変化を見ると、どんどんしっちゃかめっちゃかに(笑)。そもそも演じている2人が、その微妙な部分のお芝居がうますぎなんだよ。舌を巻いちゃって、ここに声を載せるのは「お手上げ」という感じもありました(笑)。
朴 正直すぎる!(笑)。
(取材陣一同爆笑)
同業者夫婦だからこそのメリットとデメリット
山路 部分的にはあるかもしれないですけど。
朴 彼にそんなつもりはないんでしょうけど、日常生活を送っていても無意識的なところで「あ、入った」と感じることはありますね。だから今回の役柄でも、アフレコの前日から私を使ってジョナサンモードに没入しようとしてくるんです(笑)。1日に数時間は役モードに入っていて、いきなり私を役作りに使われるので、正直戸惑いますね(笑)。
山路 そんなことないよ(笑)。でも、僕が演じているジョナサンって、本当に妻をよく観察しようとしているんです。だから僕が今、妻に言い返したりしないのはジョナサンのおかげかもしれませんね(笑)。役柄が僕たちの関係を取り持っている面もあるかもしれません。
――そのような表現者同士の夫婦ということで、メリット、デメリットがあるというわけですね。
朴 メリットで言えば、この仕事にはいくつになっても新たなチャレンジは付き物なので、目の前の壁にぶち当たってどうしていいかわからなくなった時、今そういうスイッチが入ってるんだって見守ってもらえることですね。多分同業者じゃなかったらその感覚って理解してもらえないかな。
山路 僕は…。例えばアニメというジャンルでは妻の方が先輩なので、この作品はこういう会社が作っているとか、僕が全然分からないことを教えてもらえるのは本当にありがたい。
朴 私も全然詳しくないし、寧ろ疎いのですが、彼は、私の100倍、輪をかけて情報に疎いというか、興味がないというか、よく今までやってこられてるな。と、感心さえしてしまうくらいです。役者以外では、生きていけない人だなと。
山路 そんなことない。俺だって出来るよ(笑)。
朴 確かに料理も上手なんです。役者として心底尊敬しています。でも本当に、社交性の面がちょっとね…。お友達少ないもんね(笑)?
山路 ええ(笑)。
朴 何か物事に接する時、本当にピュアな人で(笑)。この年齢にして、色々汚れる部分もあるだろうに、物作りに関して、すごく純粋。
山路 いや、でも「友達少ない」って言うのはひどいよ(笑)。
朴 でもそのピュアなところ本当に尊敬してます。
古い夫婦像をひっくり返すことで見えてくる現代的な夫婦のチリつき
――この作品では、ステレオタイプの古い夫婦像が覆されています。すれ違いの描写に関しても、ミラが“女性”ではなく一人の“人間”として描かれているのが印象的でした。
朴 そうですね。私が新しいなって思うのは、オリジナル版の男女の立場をひっくり返したことで、すごく今っぽい男性と女性が描かれていることです。それだけ女性が人権を持てるようになったということでしょうね。浮気をするのもオリジナルとは逆の性だし。
山路 昔のは逆だったんだ!
朴 そうみたい。すごくミラに共感しましたね。自分は冷静だと言いながら、いきなりスイッチが入ってしまったり、相手が一瞬心の隙をみせた瞬間に、今度は真逆の感情が沸き起こって、ジョナサンにその気持ちをぶつけてみたり。自分の嫌だと思っている癖を相手にしてしまって、自分に腹を立てて、腹が立ってすべてを終わらせようとしてしまうところか。ザッツ『女』なんです。そういった“生の感覚”がエグいです、この作品。2人だけでしゃべっているシーンが殆どで、こんな作品これまでにやったことがないですね。
山路 微妙なところで我々夫婦の匂いが出たらうれしいし、でも感じ取られたら恥ずかしいしで裏腹なんだよね。だからちょっと覗き見感覚で見てもらえれば。
朴 今の「覗き見感覚」ってナイスだね! この作品で描かれる夫婦関係のチリつきの後に訪れる何かしらの理解と矛盾は今すごく大事な感覚だと思います。夫婦って、皆さん色々抱えていることがある。そういう部分を作品を観てくれた方とざっくばらんに語り合いたいですね(笑)。
取材・文:衣輪晋一 撮影:田中達晃(Pash) ヘアメイク:藤原リカ(Three PEACE)
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ベルイマン監督のオリジナル版『ある結婚の風景』視聴はこちら
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