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ドラッグストアでのお弁当販売はタブー? 挑戦となった『吉野家』参入の背景
半数以上を占める女性客にも人気 「吉野家」を「吉野家」でない場所で買うメリット
「吉野家の牛丼は固定ファンが多いですから、ここでも買えるようになってうれしいという反響を多数いただきました。あと、特徴的だったのは、比較的、高齢のお客様が多く買っていかれたことです。牛丼は吉野家の店舗から直接納入していますので、近くに吉野家がないという地域ではないのですが、それでもわざわざ行くのが億劫だったというお客様が、ドラッグストアで日用品をお買い物がてら、買っていかれるケースが多いようです」(ウエルシアホールディングス広報部長 小沼健一氏/以下同)
高齢者からのそんな反響は、女性客についても同じ。ネットには「吉野家は女性1人だと入りづらいけど、ウエルシアなら買える」という声が上がったが、ドラッグストアの顧客は女性が半数以上を占めるだけに、顧客を取り込みたい両社の狙いは、見事、成功したといえる。
「お手頃価格」に影響しかねない食品はドラッグストアの“タブー”商品?
「コンビニのように惣菜や弁当の商品開発能力があるわけではありませんし、食品スーパーのようにお魚をお店でさばけるわけでもありません。さらに、コンビニは1日3回くらいお弁当などが届きますが、ドラッグストアは、コストの都合上、基本、搬入は1日1回きり。販売できる商品に限りがあるのです」
ウエルシアでは、吉野家の牛丼に先駆け、17年よりオリジン弁当も販売しているが、どちらも既存の物流に頼らず、直接、近所の直営店から搬入することで実現した。しかし、物流問題をクリアしても、弁当や総菜を扱うためには、温度管理や衛生管理などの管理面や人件費など、コストも問題になる。これはドラッグストアの強みである“お手ごろ価格”を阻む要因となり、日用品を1円単位でしのぎを削っている同業他社との競争に、負の影響をもたらしかねない。「その意味では、お惣菜やお弁当は本来、ドラッグストアには不得手な商品なのかもしれません」と小沼氏は語るが、にもかかわらず同社が果敢に挑む背景には、その成り立ちを土台にした経営理念がある。
「ドラッグストアの原点は、薬を扱っていた町の小規模な個人薬局・薬店です。それが近隣のお客様からの日用品も置いてほしいという声を受けて、薬だけでなく他の商品も扱うようになっていきました。ただ、当初から弊社がこだわっていたのは、無秩序に商品を増やすのではなく、お客様のQOLを上げる品揃えにすること。食品であれば「おいしい」ことも大切な要素です。吉野家の牛丼もその一例です。お客様の中食需要に応えるために牛丼を扱うのであれば、吉野家よりももっと取り扱いが簡便なものを選択する方法もありました。でも、牛丼を置くならおいしい商品を取り扱いたい。それが弊社が取り扱う商品すべてにおける特徴です」
アメリカを手本に日本にドラッグストアが誕生したのは70年代。90年代後半には市販の医薬品に加え、生活用品など幅広い品揃えと低価格の便利さからドラッグストアは人気となり、店舗数は激増。株式を上場する企業も現われ、社会的に認知される存在になった。と同時に、業界内の競争も熾烈となり、コンビニやスーパーなど他業態との差別化も図るべく、現在は、各社、生き残りをかけて、独自のカラーを強化する必要に迫られている。
ドラッグストアの役割は“プラットフォーム” 専門性と総合性でコンビニと差別化
「単に幅広い商品を供給するだけでなく、本当に必要な商品やサービスの提供などの専門性も高めて、『専門総合店舗』として、今後も尽力していきたいと思います」
今後、超高齢化社会を迎える日本社会において、コンビニにはない専門性で地域住民の健康や生活を支えるプラットフォームとして、ドラッグストアはますます頼もしい存在に成長していくことだろう。
(取材・文/河上いつ子)