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『アイマス』総合P・坂上氏 長寿コンテンツのキモは、時代に合わせたアイドル育成と炎上理由の究明

(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

 2005年、AKB48が活動を開始したこの年に、もうひとつのアイドル文化が誕生していた。アイドル育成ゲームの金字塔『アイドルマスター』シリーズだ。アーケードゲームから始まり、家庭用ゲームやスマホゲームに発展、さらにはアニメ、声優たちによるライブなど、多角的な展開で今や市場規模は年間600億円にものぼる。その最大の立役者が総合プロデューサーの坂上陽三氏だ。その仕事術を公開した初のビジネス書『主人公思考』を上梓したばかりの坂上氏に、15年を経てもなおファンを増やし続ける『アイマス』の今とこれからについて聞いた。

時代に合わせた“センターポジション”を作ってきたことが長続きの秘訣

  • 『アイドルマスター』シリーズ 総合プロデューサー坂上陽三氏

    『アイドルマスター』シリーズ 総合プロデューサー坂上陽三氏

──昨年、生誕15周年を迎えた『アイドルマスター』。実在のアイドルでも長きにわたってトップを走り続けるのは難しいこと。実現している秘訣はどこにあるのでしょう?

坂上陽三 『アイドルマスター』シリーズには爆発した瞬間ってなくて、1歩1歩進んでいるのが長く続けられた秘訣だと思います。また、最近はアイドルの多様化と言われていて、ファンの好みも人それぞれなんですけど、その多様なシーンの中でも"時代の主人公"を張るアイドルというのは必ず存在しています。アイドルグループでいう“センターポジション”ですね。たとえば『アイドルマスター』が初登場した2005年頃は、明るくて天真爛漫な子が多くの人の心を掴んでいたと思うんです。

──いわゆる"正統派アイドル"ですね。

坂上陽三 ただ、そうした時代の好みというのは変化するもので、たとえば『アイドルマスター シャイニーカラーズ』(2018年4月サービス開始)のメインキャラは、おっとりしていてどちらかいえば控え目で柔らかい印象を与えるキャラクターです。そういった時代に合わせた変遷も、必要なことではないかなと思ています。

──『アイドルマスター』という1つの世界観がありつつ、『シンデレラガールズ』や『ミリオンライブ!』、『シャイニーカラーズ』とブランド展開することで、時代のアイドル像を映し出してきた。これまで何人のアイドルが登場したのでしょうか?

坂上陽三 延べ300人以上ですね。オリジナル楽曲も1000曲を超えました。また最近は各ブランドごとのファンも増えています。ただいずれも別々の世界で起こっていることではなく、『アイドルマスター』という1つの世界観の中に存在していることを改めてお伝えしたくて、新作『スターリットシーズン』では4ブランドの垣根を越えたアイドルたちが登場するという初の試みをしています。

ファンの“好き”を共有できる場として生まれたライブから、メディアミックスがはじまった

  • 『アイドルマスター』シリーズ 総合プロデューサー坂上陽三氏

    『アイドルマスター』シリーズ 総合プロデューサー坂上陽三氏

──ゲームクリエイターでありながら、ファンからは「ガミP」の愛称で親しまれている坂上さん。これだけ大きな作品でありながら、ファンとの関係性が近いように感じます。

坂上陽三 もともと『アイマス』は小さなプロジェクトから始まったもので、初期はプロモーション費用がなかったんです。なので、新作発表イベントなども僕が自ら登壇することがたびたびあったんですね。今思うと直接みなさんと会って話すことが良かったのかなあと思います。ファンもすごくフレンドリーに迎え入れてくれて、『ガミP』と呼ばれるようになったのもわりと初期の頃からでした。

──『アイマス』はプレイヤーがプロデューサーとなってアイドルを育成するゲームなので、“名前+P”はファンの愛称でもありますもんね。

坂上陽三 そうそう、そういう親和性もあったんだと思います。2005年当時というのは今のようにSNSもなく、ファン同士が集まれる場も極めて少なかった。“Pたちのコミュニティのような場“の提供という意味で始まったのが『アイマス』のライブなんです。オリジナル楽曲をそれぞれ楽しんでくれていたのは知っていましたし、”好き“を共有できる場所になればいいなと。そういった自然な流れでメディアミックスが始まっていったんですよね。

──ファンにとっては「集まれる場を作ってくれたガミP、ありがとう」といった感謝も大きかったのでは?

坂上陽三 『アイマス』のアイドルたちはゲームキャラクターですので、どれだけ応援しても手が届かない存在なんですよね。そこを音楽で繋いでくれるのが声優さんだとしたら、僕はそのもっと前段階で虚構の世界を現実に変換するコンバーターの役割を担っていると自覚しています。ただユーザーがアイドルを育成するという形で深く関わる性質のゲームですので、近しい同僚みたいな感覚で見ているファンもけっこういるのかな、と感じたりはします。

炎上はさまざまな意見に見えて、共通する原因がある

  • 『アイドルマスター』シリーズ 総合プロデューサー坂上陽三氏

    『アイドルマスター』シリーズ 総合プロデューサー坂上陽三氏

──ファンの熱量が高いコンテンツは、それだけ批判に晒されることも。坂上さんも多くの矢面に立ってきたのでは?

坂上陽三 苦労はたぶん僕より現場のスタッフのほうが大きいと思うんですが、何かしら起こった事象に対して慌てて対応するよりも、まずは一度冷静になって、何が本当の問題なのかを突き詰めることって大事だと思うんです。そういう意味ではダメージ耐性はわりと強いほうかもしれない。もちろん、時にはダメージパラメータが振り切れることもありますけど(笑)。

──推しの登場シーンが少ないとか、アイドル同士の関係性についてとか、ファンから上がってくる声は、もはやゲームのプロデューサーよりもアイドルのプロデューサーに近かったりするのでは?

坂上陽三 そういう部分もあるかもしれないですね(笑)。たしかにファンの不満はいろいろな言葉や形になって現れますが、その根底にあるものをよくよく探ってみると意外と原因が共通していることが多いんです。それをまとめて課題と対策を洗い出す作業は常にしていますね。

──共通する原因とは?

坂上陽三 原因のひとつは、ユーザーとのコミュニケーションのズレです。ゲームというのは開発に時間がかかるため、発売よりもずいぶん前に情報発表することが多いんです。ですから、その後も開発を進めていくんですが、その情報の出し方によっては、ユーザーに「えっ、そんな内容になっちゃうの!?」「思っていたのと違う!」「裏切られた!」と思わせてしまうこともある。そして認識がズレたまま妄想が膨らみ、憶測が憶測を呼んでゆく、というのが炎上の構造だと思うんですが──。

──たしかにゲームに限らず、炎上の背景には「思い入れの深さ」と「誤解や思い込み」がありますね。

坂上陽三 そうですね。ただやっぱり、ミスリードを生んでしまった原因はこちらにあるわけで、そうならないようにコンセプトの段階でしっかりと整理をしていく作業というのは、近年はものすごく意識しています。それでも起こるときは起こりますし、15年経った今も試行錯誤の繰り返しですね。

──15周年の先に歩み出した『アイマス』ですが、今後もブレてはいけない軸はありますか?

坂上陽三 あくまで主人公はプロデューサー役のプレイヤーであること。そこの視点をブラさず、かつプレイヤーが何を求めているかをどこまでも深く考え続けることですね。一方で、アニメに関してはアイドル同士の友情と成長物語を重視して主人公はアイドルたち。そうした横展開コンテンツとゲームとの整合性をいかに取るかも重要だと思っています。

──『アイマス』の理想の未来像はどんなふうに描いていますか?


坂上陽三 最初に言ったように、1つは時代に合わせて変化していくこと。それは登場するアイドルもそうだし、あとはメディアもですね。『アイマス』ってアーケードから家庭用ゲーム機、自社プラットフォーム、スマホと、時代ごとに登場した技術をきちんと採用してきているんです。これからもユーザーの導線に常に『アイマス』がいられるように、何年かに1本はブランドを立ち上げていければと考えています。

──この15年間、数々の人気ゲームやコンテンツが登場してきましたが、「強力なライバル出現!」と危機感を覚えたことはありますか?

坂上陽三 僕自身は意外とないんです。"隣の芝生は青い"というか、周りにはけっこうやいのやいの言われるんですけど(笑)。ただその青い芝生も、気が付いたら枯れてた…なんてこともあるので。今は本当にコンテンツのサイクルが早いですからね。そういう意味では短距離走を突っ走るよりも、長距離マラソンを息切れしないように走り続けたいです。


取材・文/児玉澄子

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ゲームソフト
■アイドルマスター スターリットシーズン
https://starlit-season.idolmaster.jp/(外部サイト)
スマホゲーム
■アイドルマスター SideM GROWING STARS
https://sidem-gs.idolmaster-official.jp/(外部サイト)
著書
■主人公思考 /坂上 陽三
https://www.kadokawa.co.jp/product/322105000648/(外部サイト)
  • (C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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