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サンリオ創業60年、時代と共に変化してきた“カワイイ”の変遷と変わらない本質
当初は水森亜土らを起用 オリジナルキャラ開発で作家に左右されない絶対的人気を確立
「サンリオの前身である『山梨シルクセンター』は山梨の特産品を扱う中で、カワイイ小物がよく売れるところに着目しました。当時は生活が豊かになるにつれて、女性の地位が向上していった時代だったので、新しい”女性市場”を狙うべく『カワイイ』という価値観に注目したようです」(サンリオ・高桑秀樹氏)
「サンリオ独自のカワイイ市場を開拓した結果、芸術性や作家性から離れることで、1人の作家がいなくなっても長く愛されるキャラクターを創出することができました。また、ハローキティに口が描かれていないように、サンリオキャラクターは総じてシンプルで表情が少なく、アイコンとしての汎用性が高い点も、多くの方に親しんでいただけた理由だと思います」
1970年代以降、キティをはじめとした人気キャラクターが次々と誕生するが、時代ごとに受け入れられる“カワイイ”は変化しているという。サンリオは世相を読み取り、時代に即したキャラクターを生み出すとともに、次第に市場を作り上げる存在になっていく。
キティブームが起こした“カワイイ”革命 年齢、性別、国境を超えた世界共通言語に
「時代の変化をうまく取り入れることが出来たからだと思います。初期キャラクターのパティ&ジミー、ハローキティ、キキ&ララ、マイメロディは、キャラ乱立時代となった80年代に突入すると大きな壁にぶち当たり、それぞれ違った方向性を図りました。パティ&ジミーは世界観が作り込まれていたがゆえにあまり変化をつけられず、キキ&ララとマイメロディは子ども向けにデザインを広げていった結果、70年代に小学生だった従来ファンが少し大人になってきて、敬遠されるようになってしまいました。そんな中、キティだけはファッション流行を取り入れ、スタイル変更させていった結果、ファンが大人になってからも長く愛されるキャラクターに成長していったのです」
「リボンだけでもキティとわかるシンプルさから、大人向けのバッグやポーチが多く開発され、それらが一大ブームになったことから、大人も“カワイイ”を身に着けることが“カッコイイ”という風潮に変化していきました。さらに海外セレブが愛用してくれたことで、世界に“Kawaii”が広まり、アメリカでは、それまで子どもに対してのみ使われた“cute”が“大人がcuteでもいいじゃないか”と捉え方が変化していったようです」
「近年は男の子もカワイイものを持つようになりましたよね。昔から潜在的にみんなが好きだったのかもしれないですが、『僕カワイイの好きなんだよね』ってオープンに言える世の中に変わってきているのではないでしょうか」
時代の変化とともに世相を反映してきた“カワイイ”ブーム、その不変的な本質とは
「世相とともに“カワイイ”の見た目は変化していると思いますが、“カワイイ”ものを見ることで優しい気持ちになって、人に思いやりを与えたり、自分自身に癒しを与えられるという本質は変わらないと思います。例えばアグレッシブ烈子も、烈子が最後に暴れることによって『あーすっきりした』と癒しを感じる人も多いのではないかなと。バッドばつ丸、クロミなど、ヒールに見えるキャラクターも、人を傷つけることは決してしません」
「“カッコイイ”、“キレイ”の基準は国や時代によってそれぞれあると思いますが、例えば動物や人間の赤ちゃんに称されるような“カワイイ”という感覚は世界で共通しています。そして、昔は子どもや小さいものに対してでしたが、おばあちゃんや男性にも使われるようになり、最近ではおじさんに対しても“カワイイ”と表現したりしますよね。そういった表面上は変化しても、“カワイイ”がときめきや癒し、優しい気持ちを生み出すという本質は今後も変わらないのかなと思っています」
キティの“リボン”は、世界中の人たちを結ぶシンボルだと言われている。サンリオ創業者は、すべての人たちが仲良くなるように、「1番大切なのは、コミュニケーションのきっかけになるような、ちょっとした可愛らしいものを贈り合うことではないか」との思いで同社を作った。その平和への願いは、形を変えながらも、“カワイイ”という世界共通の概念を介してこれからも受け継がれていくだろう。
(取材・文=鈴木ゆかり)