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蛭子能収、認知症を機に“ギャンブル無し”生活に変化「女房に怒られないから気楽」
オレが貧乏になったら…「悲しむ人と喜ぶ人、どっちが多いかな」
新刊『おぼえていても、いなくても』は、『サンデー毎日』で現在も続く連載『蛭子能収のニンゲン画報』と、以前に毎日新聞で連載していた『蛭子さんの自由が一番』を中心にまとめられた一冊。そうした日々の変化や、献身的に彼を支える妻の姿なども、どこまでも蛭子能収の流儀で描かれている。マンガやイラストが大量に掲載された内容で、2015年から2021年5月までの彼の暮らしの記録でもある。
認知症になっても仕事をやめない最大の理由とは、どのようなものなのだろうか。
「本当はね、仕事をせずにのんびり絵を描いて暮らしたい。でも難しいでしょう。食うためにはお金が必要で、お金のためには仕事をしなければいけない。だから、仕事をやめないというだけなんですよ」
では蛭子が描く、理想の生活とは何か。
「女房がいて、ごはんを食べられて、ときどき公園で小さい子どもたちが遊んでる様子を眺めたりしたいんです。こんなこと言ったら、誰かに怒られるかな…。遊んでる様子をスケッチ? いやそれはやらない。公園まで道具を持ってくのが面倒だから。それにお金にもならないでしょ?」
なんともマイペースで、変わらない“蛭子節”はむしろ頼もしいほど。その肝心のお金の管理は、現在は妻の悠加さんに任せているとのことだ。献身的に介護をしてくれる悠加さんに、感謝の想いも語る。
「女房も絵心がある人で、描く仕事にはすごく理解があるんですよ。そこらへんも助けになってます。感謝してます。最近はよくありがとうって伝えてくれるようになったね、と女房からは言われてます」
気になる“お金とギャンブル”事情については?
「今は入ってくるお金は女房に全部渡して、オレはお金ナシの生活です。もうギャンブルで使っちゃって怒られることがないから、気楽でしょ(笑)。堂々と胸をはって歩いてます。認知症と診断されたときは、慌てふためくという感じでもなかったかな。オレの仕事がなくなって貧乏になったら、悲しむ人と喜ぶ人ってどっちが多いか数えたりしましたけど…(笑)」
仲間から励ましの提案も…「ちょっとイヤだなと思っちゃったんです(笑)」
「もっと大きい絵を描かないとダメだよ、って励ましてくれたりするんですよ。また一緒に合作しようって声かけてくれて、嬉しかったですね。でも、断っちゃったんですけどね。あはは(笑)」
少し後悔があるというものの、誰かと一緒に絵を描くと気を使ってしまう性格だ。
「ひとりで自由に適当に描いた方がいいんですよね。ちょっとイヤだなと思っても、はっきりとはいえなかったりする感じも苦手だし…」
少し長めのいわゆるストーリーものでの新作マンガを描く予定はないのだろうか。テレビ番組で見せる自由な蛭子の姿もまだまだ見ていたい。
「今は4コマばっかりになっちゃってます。ストーリーものも描いてみたい、いや描かなきゃいけない、とも思うんですが、そういう気持ちで取り組むと、また力がうまく出ない感じもするので、なんともいえません。けどね…。ちゃんとお金になるものが描けそうなら、描くかもしれないかな。依頼があってつらくない内容だったら、テレビの仕事もやりたいです。つまり、同じ拘束時間だったらもらえるお金が多い方を選びます」
鈴木慶一率いる音楽集団ムーンライダーズが1986年に発表した傑作アルバム『DON'T TRUST OVER THIRTY』収録の脱力ソング『だるい人』は、蛭子能収が作詞。お金や自由がほしい、何もしたくないという、人間本来の欲望に忠実な“ザ・蛭子能収エッセンス”を凝縮したような言葉が並ぶ名曲だ。
認知症をカミングアウトしても、彼はそうした蛭子能収が持つイメージとの違和感はまったくなく、変わらず『だるい人』のままであり、決してブレない。たとえ歌詞を書いたこと自体を忘れてしまっても、新刊の内容を覚えていなくても、それは些細なことなのだ。
「何を描いたか忘れちゃっても、まあべつにいいかなって。本にまとまってると便利ですよね、だってもうそこに描いてあるからね」
(取材・文/及川望)