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ヒーロー像は“憧れ”から“共感”へ…時代が求める究極の<モブ革命> ありえないほど“いい人”が世界を救う?映画『フリー・ガイ』公開
ヒーローに求めるものが変化…”共感”を求める時代
そんなヒーロー像に近年、変化が表れている。これまでのような超人的存在ではなく、平凡な日々を送っている普通の人が、身近な人を守るべく、あるいは、世の中を脅かす悪を退治するべく立ち上がるケースが増え、それらがヒットしているのだ。
元オトナファミ/エンタミクス編集長でエンタメに精通する小澤繁夫氏は、この要因を次のように分析する。
「ヒーローの存在、定義そのものというより、ヒーローに”求めるもの”が変化してきたのだと思います。一般的にエンタメコンテンツにおけるヒーローは、”憧れ”+”共感性”で構成されているケースが多いですよね。20世紀のスーパーマン映画的な往年のヒーローを”憧れ8:共感2”と仮定すると、今は”共感5:憧れ5”を求める時代。ネットカルチャーの一般化により、特殊能力がなくても少しの勇気があれば誰もが救世主になれる。ヒーローの助けを待つのでなく、誰かがヒーローにならなきゃと思える時代だからこそ、人々はピンチの際に空を見上げるよりも周囲を見回し、SNSに呼びかける。どこにでもいる普通の人は、最大級の”共感性”という武器を携えた今日のヒーロー予備軍なのだと思います」
“想い”で戦うヒロイズム…消費層の目線とシンクロ率が高い
日本映画史の興収記録を塗り替え、社会現象をも巻き起こした大ヒット作『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎もその代表的な例だろう。炭治郎は「鬼と戦うなんて無理」と思ってしまうほど、素直で優しく思いやりがある性格。だが、大切な人たちを守るため、炭治郎は強くなる努力を重ね続け、人間を襲う鬼を倒すために闘うようになっていく。
同様に大ヒット作『呪術廻戦』の主人公・虎杖悠仁にも、いい人すぎる一面が。不良っぽい外見とは裏腹に、他人に対して人一倍「共感」することができて、性格は心優しく繊細。仲間や周囲の人々を守りたいという一心で、敵である“呪霊”との壮絶な戦いに身を投じていく。
「2000年代のヒーローバトルは、チーム戦が主流になってきています。そんな傾向と共に『鬼滅の刃』の炭治郎や『呪術廻戦』の虎杖などの優しすぎる主人公も目立ってきました。彼らは強いリーダーシップでチームを牽引するタイプではなく、いい味出しているクールな2番手タイプでもなく、むしろ周囲にサポートされるタイプ。しかし人間性が全てを補ってくれます。『いい奴だから助けたい』『いい奴だから信じたい』という仲間からの支援、それに応える形で主人公も命を賭しても仲間を護る。その関係性と誠実さが勝利を引き寄せる。善意というより“想い”で戦うヒロイズムは、消費層の目線とシンクロ率が高いですよね」(小澤氏)
これ以上にない適役 ガイを演じるハリウッドきっての“いい人”ライアン・レイノルズ
そんなガイを演じるライアン・レイノルズもまた、ハリウッドでは“ありえないほどいい人”として知られる存在。ヒーローらしからぬ自由奔放なスタイルとクールで過激なアクションで世界中を魅了した代表作『デッドプール』の印象から、ちょっと破天荒でジョーク好きのお茶目な性格をイメージする人も多いだろうが、彼のいい人エピソードは上げればきりがない。
女優のブレイク・ライヴリーが妻であり、二児の父でもあるライアン。盟友のヒュー・ジャックマンとは頻繁にSNSで痛快な“イジり合い”を展開しており、ハリウッドの大物俳優でありながら、親しみやすい人柄を発揮し“愛されキャラ”として日々ファンを楽しませている。
また最近では、そんなヒューとのイジり合いを“停戦”し、新型コロナウイルスの影響で苦しむ人々を支援するプロジェクトへの参加を表明。他にも、余命僅かと宣告された男の子に『デッドプール2』の撮影現場からテレビ電話をかけ勇気づけたり、ライアンの母国・カナダで立ち上げられた先住民族女性の指導者育成プログラムに寄付をしたり…と、人々をおふざけで楽しませるだけでなく、数多くの慈善活動にも積極的に取り組んできた、文字通り“いい人”だ。
今回演じるガイは、本来のライアンの人柄に合ったキャラクター。ライアンからにじみ出る雰囲気はまさにこれ以上ない適役で、“いい人”すぎるガイに、より説得力を与えていると言えるだろう。
時代が求めるヒーロー=ガイは大切なものを守れるのか?
ある日、モロトフ・ガール(演:ジョディ・カマー)と呼ばれるキャラと出会ったガイは、自分がゲームのモブキャラだという衝撃の事実を知り、ゲーム内のプログラムや設定を完全に無視して、自分勝手に行動を開始。常日頃、やりたい放題のプレイヤーからの乱暴な扱いを受けていたガイは、自分と同じような立場のモブキャラを助けることで、自らもレベルアップし、理不尽な世界を変えるためにヒーローを目指していく。そんなありえないほど“いい人”すぎるガイの行動は、ゲームの世界だけでなく、現実世界でも話題に。「フリー・シティ」を運営するゲーム会社の社長アントワン(演:タイカ・ワイティティ)やプログラマーのキーズ(演:ジョー・キーリー)らは、ガイの予想外の行動を止めるべく、ゲームの世界にさらなる混乱を巻き起こしていく。
先に小澤氏が話していた通り、『鬼滅の刃』の炭治郎や『呪術廻戦』の虎杖と同様、ガイも、強いリーダーシップでチームを牽引するというよりは、その人柄、人間性でその人柄、人間性で周囲のサポートも受けながら、危険に立ち向かっていくタイプ。自ら“モブキャラ”であると知った後、仲間のために立ち上がり、ゲームの世界崩壊の危機を救おうとする。そんな“想い”で戦っていく姿は、まさに現代に求められているヒーローと言えるだろう。
〈ゲームの世界〉ならではのアクションシーンも満載で、クレーンで吊るされた鉄球に飛び移ろうとしてロープを掴み損ねて落下したり、猛スピードで走ってきた車に激突され吹き飛ばされたりと、ユーモアに溢れながらも迫力満点な、これまで観たことのないようなアクションも満載。親近感いっぱいの“いい人”ガイを中心に展開される壮大な物語に、心踊らされること間違いなしだ。
大いに笑い、ドキドキしながら実はホロリともさせられる本作は、思い通りにならないことばかりの閉塞感漂う今夏、気分を爽やかに晴らしてくれることだろう。小澤氏も「『フリー・ガイ』は、究極の”モブ革命”映画であり、オンラインゲーム世代の『マトリックス』であり、すべてのインドア系男女に贈る、小さな恋のうたである」と期待を寄せる。
“平凡な男=フリー・ガイ”は、〈ゲーム史上最大の危機〉が迫る中、大切なものを守り、 “主人公=ヒーロー”になれるのか!?その答えは劇場で目撃してほしい。
文/河上いつ子
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8月13日(金) 全国公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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