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人はなぜ“悪いヤツ”に惹かれる?『ロキ』に見るヒールキャラの魅力

(C)2021 Marvel

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 エンタテインメントにおいて、王道である“ヒーロー”が人々の希望の光となる一方で、ダークヒーローという言葉もあるように、危険な雰囲気を漂わせるキャラクターも物語を紡ぐうえで欠かせない存在だ。世界中で人気のマーベルシリーズにも数々の“悪役”が存在するが、なかでも雷神ソーの義弟であり、アベンジャーズの敵「裏切り王子・ロキ」は、人々を引き付ける存在。善悪だけでは計れない危険な香りを放ちつつ、どこか憎めない可愛らしさを持っている。なぜ、人はそんなキャラに魅了されるのか。ディズニープラスで毎週水曜日16時から独占配信中の『ロキ』をもとに、心理カウンセラーが解説する。

「現代人の自己投影」がカギ、ヒールキャラに魅了されるワケを心理学者が分析

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 過去の映画やドラマ作品でも、ヒーローに勝る人気の悪役は数多く存在する。なぜ、人は悪いヤツ、ダメなヤツに惹かれるのだろうか。心理カウンセラーの浮世満理子氏によると、「人は誰でも闇の部分(シャドー)を持っていて、相手にそれを投影すると、見放すことができなくなるから」と解説する。「自分の嫌なところは受け入れられないものですが、投影した相手の嫌な部分を愛することはできる。もし見捨ててしまったら、それは自分のコンプレックスを否定することになってしまうからです」。

 こうした心理的な要因から、人は自己投影できるキャラに愛着を抱きやすい。さらに、現代の社会も、悪役に感情移入しやすい土壌だという。

 「いまの人は、嫌われないように気をつかって生きていて、子どもたちには反抗期すらなくなってきています。そんな世の中なので、視聴者は架空のキャラクターが思いきり悪いことをするのを観ることで、うっ憤が晴らせるのです」。

 これまでも、『スター・ウォーズ』のダース・ベイダー、映画が話題になった『ジョーカー』など、世界中を魅了した悪役はいたが、本作のロキは、また少々違う存在だと浮世氏は語る。

 「ダース・ベイダーは力の象徴であり、ジョーカーは社会的に虐げられて歪んだ存在。抱えているものはそれぞれ違いますが、ジョーカーのようにサイコパス的なキャラの悪行を観ていると、悩みを抱えている人はスッキリするのだと思います。一方、ロキはダース・ベイダーやジョーカーよりも普通で、現代人に近い。強いコンプレックスがあってコミュ障気味、そして自意識が強い。現代人の多くが悩む部分なので、自己投影しやすいのでしょう。さらに、いまは『こうあるべき』というステレオタイプの呪縛から、『自分らしくていい』と人の考え方も変化してきています。ロキのように、悪であるけれども憎めない不器用なキャラというのは受け入れられやすいのではないでしょうか。ある意味で、ロキに人気が集まるというのは現代っぽい現象だと思います」。

悪役なのに憎めない、マーベルシリーズで見せたロキの多面的な魅力

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 このように、嘘と裏切りを愛する悪役ながら、人々を魅了するロキ。手段を選ばぬ姑息なやり口は多くの敵を作るが、マーベルファンの間では非常に人気が高いのもうなずける。悪いヤツではあるが、“憎めない”男なのだ。ここで、これまでのロキの所業を振り返ってみたい。

 ロキが最初にシリーズに登場するのは、2011年公開の『マイティ・ソー』。父オーディンが統治する神の国アスガルドを、嘘と裏切りを駆使して支配しようとするロキ。その狡猾な手口は観客の神経を逆なでするが、そこには義兄・ソーへの嫉妬やコンプレックスが見え隠れするため、ある意味で人間味あふれる存在という見方もできる。さらに、同作のラストでソーによって倒されて死んだかと思わせながら、『アベンジャーズ』(2012年)ではちゃっかり復活し、地球上でやりたい放題。悪の限りを尽くすが、このロキの行動はアベンジャーズ結成のきっかけとなり、史上最強のヒーロー軍団が誕生。人気シリーズの立役者ともいえる。さらに、トニー・スターク(アイアンマン)には口で撃破され、ハルクにはボコボコにされるなど、悪役でありながら観客から同情されるという、唯一無二(!?)の存在に成長していく。

 また『マイティ・ソー/ダークワールド』(2013年)では、相変わらずズル賢さを見せつつも、兄ソーに助けを求められては喜び、育ての母親の落命に自暴自棄になるなど、より感情豊かな姿を見せる。同作ラストでは、兄をかばって命を落とした…かに思えたが、やはり次作(『マイティ・ソー/バトルロイヤル』2017年)でも復活。悪さをしてソーから大目玉を食らうも、二人が窮地に陥った場面では肉体派ソーと頭脳派ロキというコンビで打開。兄弟愛が随所に見られた。もはや“ロキは悪役なのか”と疑問に思ってしまうほど、愛されキャラに変貌したといえる。

 その後も、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)では、兄ソーのために命を投げ出す男気を見せて涙を誘ったかと思えば、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)では、偶然手にした四次元キューブを悪用して逃げ去るというロキらしい行動も見られた。

 演じるトム・ヒドルストンの美しいルックスも相まって、“狡猾”かつ“色気”のある悪役という印象が強いロキ。作品を追ってみると、そんな怪しさプラス、兄ソーへの強い嫉妬を持ちつつ、家族への愛を垣間見せるなど多面的な男であることがわかる。こうした振れ幅の大きいギャップが、多くの人を魅了するのだろう。
ロキ登場作品はココからチェック!(外部サイト)

ロキが主役の最新作で描かれる過去、初心者にも入り込みやすい内容に

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 全世界シリーズ累計興行収入が2兆円を超える人気シリーズの中でも、このような特異な存在感を見せてきたロキ。ディズニープラスでは、オリジナルドラマシリーズ最新作として、ロキが主人公となった『ロキ』が配信されている(現在4話まで配信)。本作は『アベンジャーズ/エンドゲーム』で逃亡したロキが、行き着いた先が舞台となる物語だ。

 『エンドゲーム』で、消滅させられた人類の半数と仲間を取り戻すため、過去の世界にやってきたアイアンマンたち。ロキは四次元キューブを手にし、時空を超えてアベンジャーズの手から逃れることにも成功。ところが、同時に歴史を変えてしまうという大きな罪を犯す。

 その後、“時間の流れ”を守っているという謎の組織TVA[時間変異取締局]に拘束されてしまったロキ。自由と引き換えに、自分が改編してしまった現実を元に戻すという任務を要求される。ロキはTVAのエージェント・メビウス(演:オーウェン・ウィルソン)らとともに、時の流れを乱す“変異体”の捜索を始めるが、その“変異体”はロキ自身であることが判明。しかも、突き止めた拠点に現れた“変異体”は女性の姿をしており、シルヴィ(演:ソフィア・ディ・マルティーノ)と名乗る。TVAから逃げ出そうと画策したロキは、“もうひとりのロキ”ことシルヴィと一時的に手を組み、滅亡直前の星・ラメンティス1号星にワープし逃亡。裏切りも匂わせながら共に行動するロキとシルヴィそれぞれの思惑も入り交じり、物語の“謎”はさらに加速していく。4話では、シルヴィの過去も判明し、ロキとの関係性にも進展が見られつつ、謎多きTVAの秘密の一端も露わになっていく。果たして、この騙し合いを制するのはロキか、シルヴィか、あるいはTVAか――。今後の展開から目が離せない。

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 このように、気になる展開を見せている『ロキ』。本作に登場するロキは、映画『アベンジャーズ』のラストに登場する2012年の時のロキだ。設定として面白いのは、視聴者は『アベンジャーズ』以降のロキがどのようなことをしてきたのかを知っているが、この物語のロキは未来を知らない。第1話からこうした時間軸の違いが随所に出てくることで、これまでのロキの言動がより深みを増す。おかしいところはよりおかしく、センチメンタルな部分も強調されている。

 一方で、これまでのシリーズを知らなくても、2012年からのロキの歴史をあらためて追えるという意味で、初心者にも入りやすい作品ともいえる。裏切者で、ズルくて、悪いヤツ。でも、どこか憎めない…。『ロキ』では、そんな彼にどんな運命が待ち構えているのか。ロキに興味が出てきたら、本作でその魅力を体感してみてはどうだろうか。
まだ間に合う! 最新作『ロキ』はココからチェック!(外部サイト)
【プロフィール】
心理カウンセラー:浮世満理子(うきよ・まりこ)
全心連公認上級プロフェッショナル心理カウンセラー/メンタルトレーナー。大阪府出身。『アイディアヒューマンサポートアカデミー』学院長。『一般社団法人全国心理業連合会』代表理事。トップアスリート、芸能人、企業経営者などのメンタルトレーニングを手掛ける。『週刊まるわかりニュース』(NHK総合)などメディア出演のほか、著書多数。
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