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まるで「1本の映画」、声優・楠木ともりが音楽で表現した様々な感情
コロナ禍で書いた曲に込めた疑問、「つながりすぎることで自分を見失いそうになる」
楠木ともり 一人の人間としていろいろな一面を見てもらえるEPにしたくて、サウンド、ジャケットなどのアートワーク、MVも含め、様々な部分で幅を見せられたらと思っていました。歌唱面では、曲のジャンルが幅広いので、声の質感で空気感をどこまで出せるか、ということに重点を置いてレコーディングをして。今回は全部自分で作詞・作曲をしているし、自分の中で方向性の理想像がよりはっきりしていたので、時間が許す限りどの作業にも参加して、自分の意見を反映させてもらいました。
――表題曲で1曲目の「Forced Shutdown」は「強制終了」という意味がありますが、どのようなきっかけから生まれた楽曲でしょうか。
楠木ともり コロナ禍になった頃に書き始めた曲なんですけど、その頃って、SNSやリモートで人と顔を合わせずにつながるということに、世間的にポジティブな印象があったと思うんです。でも、私はそれを便利だなと思うのと同時に、疑問も感じていて。周りとつながりすぎることで自分を見失いそうになったり、逆に伝えたいことが伝わりにくくなってしまう、というのを実感していたんです。ですので、自分を見つめ直すために、一旦周りから自分を閉ざしてみることも、一つのポジティブな選択としてありじゃないかなと思って。「Forced Shutdown」は、「閉ざす」「一度やめてやり直す」といった意味合いもあるんです。
――アレンジ面では、どの曲もアレンジを始める段階から一緒に意見交換をされていたそうですが、この曲のサウンドはどんなイメージでしたか?
楠木ともり 人間が抱える矛盾というか、統一性のない感じが出ている曲なので、展開がどんどん変わっていく感じにしたかったんです。いろんな要素があるカオティックな(=混沌とした)アレンジで、変にまとまらずにいろいろなサウンドが聞こえてきたり。サビが来るかと思いきや、来なかったり。そんな予想を裏切るような展開のサウンドになったと思います。
――歌入れで心がけたことはありますか?
楠木ともり 力強さだけじゃなくて、ちょっとした色気や、マイナスな気持ち…。「ここは歌の登場人物にとっての転換期なのかな」など、表情が見えるように気をつけながらレコーディングをしました。
声優を目指していたときの想い、現在の感謝の気持ちも…「1本の映画」のようなEP
楠木ともり 声優を目指し始めた頃や、声優の仕事を始めた頃を思い出して書いた曲です。夢を追いかける上でのポジティブさとネガティブさの両方を内包した時の、気持ちの揺らぎというか。不安定なんだけど、でも自分としっかり向き合っていて、少し芯のある人間像を描きたくて書きました。
――シティポップのテイストを踏襲した3曲目「アカトキ」、重厚なロックバラードの4曲目「バニラ」についてはどうですか。
楠木ともり 「アカトキ」の歌詞は、鳴海夏音との共作で、1番の歌詞を私が、2番を彼女が書いています。彼女も人間関係で悩んでいた時期があって、でもそこに捕われずに成長していきたい、自分を更新していきたい、という話を聞いて。そんなポジティブで熱意のある気持ちに心打たれて、それを歌詞にしていきました。「バニラ」は、20歳のバースデーライブのために作った曲。1番は、一人の人間として、ずっと応援してくれていた家族や友人に向けて、2番は、声優やアーティストとして皆さんに届ける、という立場になった時の視点で、ファンの方に向けた感謝の気持ちや願いみたいなものを書きました。日記や手紙を書く感覚に近い状態で、直接的な言葉をたくさん使っています。
――随所にこだわり、完成した本作をご自身で聴いて感じたことは?
楠木ともり 通して聴いた時、1本の映画を見終えたような感覚に近いものがあって。一人の人間が持っているであろういろいろな感情や考え方がいいバランスで振り分けられて書けたのかなと思います。私も激しい気持ちになることもあれば、一人で悩んでいた時期もあるし、「これから頑張っていこう」という前向きな気持ちもあるし。私も一人の人間だよっていうところが随所に出たEPになったかなと思います。
MVの涙の理由、「伝えたい気持ちがどっと溢れてきて…」
楠木ともり 「閉ざす」という部分で、「箱庭」がコンセプトなんです。オープンだけど、エリアがしっかり絞られているようなテーマ性を持たせたくて。今回はほぼ自由演技で、自分が歌詞に込めたことを動きとして出さなきゃいけなかったので、難しかったですね。でも、相手(君)がいることが浮かんで欲しい時はクッションを抱えてみたり、カメラを敢えて見たり、逆に見なかったり。自分でいろいろ選択をしながら、楽曲の表情がより豊かになるMVが撮れたかと思います。
――「バニラ」のMVでは、ラストのサビで涙を流しているシーンがありますが、これは本当にでた涙だそうですね。その涙の理由は?
楠木ともり 自分の気持ち100%で書いた曲なので、思い入れが強くて。ライブで歌っている時のことを思い出していたんですけど、やっぱり家族や友人、ファンの人の顔がガーって浮かんできて。「これをあなたに伝えたいです」っていう気持ちがどっと溢れてきて、感情が高ぶっていたんだと思います。監督も驚いていたぐらい演出意図にない涙でした。ちょうど良すぎるタイミングで涙が出てしまって「ちょっと目薬っぽくなっちゃいましたね」って(笑)。
どちらも100%、影響し合う声優活動と音楽活動
楠木ともり どちらも両方にいい影響を与えていると、すごく思っています。声優活動で身につけた演技力や、感情を声で表現するということが歌唱にも生きているなと思うし、歌での発声、度胸、爆発力みたいなものって、声優の芝居にもまた生きてくるし。お互いがお互いの活動を支えてくれている感じがあります。私はどちらも100%でやっていきたくて、私の音楽を初めて聴いた人が「えっ、声優なの?」って驚くくらい、両方を真剣に取り組んでいるというのをしっかり見せていきたいと思ってます。
――声優と音楽活動の共通点、違いは感じますか?
楠木ともり 声優はキャラクターになりきるのであって、キャラクターという他人をどう説得力をもって見せられるか。逆にアーティストとしては、自分が考えていることをどう表現したらより伝わるか、ということを私はよく考えるんです。そういう部分で、他人のことをじっくり考える時間と、自分のことをじっくり考える時間は、別物でありながら、つながりがあるな、という感覚がしています。
――声優活動を並行して行っていく中で、今後チャレンジしたいことは?
楠木ともり 曲の作り方の部分で、今は自分が考えていることを楽曲に落とし込んでいるんですけど、声優として人を演じる機会がたくさんあるので、それを生かしたいと思っていて。ある人物像をしっかり立てて、どういった名前でどこに住んでいて、どんな声でどういった過去があって、みたいな細かいキャラクター設定をして、そこから歌詞を書いていく作業もすごく面白そうだなって。そこに挑戦してみたいと思ってます。
――将来的に描いている夢はありますか。
楠木ともり 大きな会場で、お客さんがいるところでワンマンライブをしたいです。最近、日本武道館のステージにフェスで2回ほど立たせていただいて、その光景がすごく新鮮な記憶として残っているので。ワンマンライブで武道館に立ってみたいという気持ちは、今、強くあります。
(文:水白京)
2nd EP「Forced Shutdown」
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