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久保田利伸の“全楽曲”がストリーミング解禁 超ヒット曲から最新のCM曲まで数々の名曲を振り返り

 10月16日、久保田利伸の全楽曲がストリーミング解禁となった。180万枚を超えるビッグセールスを記録した「LA・LA・LA LOVE SONG」(96年、久保田利伸with NAOMI CAMPBELL名義)をはじめとするシングルの総売り上げは496.0万枚、ミリオンセラーとなったベストアルバム『the BADDEST』(89年)なども含めたシングル・アルバムの合計は1391.1万枚(数字はいずれも2020/10/12付現在)を数える彼の作品のすべてがいつでも聴けることに。

日本の音楽ファンをR&Bと出合わせた立役者

  • 久保田利伸

    久保田利伸

 久保田利伸がデビューを飾った1986年、時代はおニャン子クラブをはじめとするアイドルが一大勢力と化し、一方でBOOWYの台頭や原宿歩行者天国でのパフォーマンスにより、バンド文化が一気に爆発しそうな予兆を孕んでいた。久保田はそんな状況下でアーティストとしての第一歩を踏み出すのだが、そのスタートは鮮烈なものだった。

 ブラックミュージックをルーツとしたサウンドを扱ったミュージシャンはそれまでにも少なからず存在した。しかし、久保田の登場は大きな衝撃をもって迎えられる。体内に取り込んだソウルサウンドが自然とあふれ出るかのようなパフォーマンスは、音楽ファンのみならず耳の肥えた関係者のアンテナをもしっかりととらえ、お披露目となったコンベンションライブには観衆が殺到、ホールの扉が閉まらないほどの異常事態となった。さらに、デビュー前に配布されたデモテープは瞬く間に話題となり、高値で取引されたという逸話まで残っている。

 そんな圧倒的な前評判のなか、リリースされたファーストアルバム『SHAKE IT PARADISE』(86年)には、「流星のサドル」「Missing」という今なお愛されている代表作が収められた。とりわけ「Missing」は久保田のボーカル力の高さが遺憾なく発揮された屈指のラブバラードとして、多くのアーティストのカバーを生み出すこととなる。R&Bに興味のなかった人をも振り向かせるきっかけとなったスタンダードナンバーと言ってもいいだろう。

名曲「LA・LA・LA LOVE SONG」や「Missing」はJ-POPの発展にも貢献

  • ナオミ・キャンベルとの「LA・LA・LA LOVE SONG」(1996年)はミリオンを突破

    ナオミ・キャンベルとの「LA・LA・LA LOVE SONG」(1996年)はミリオンを突破

  • 「Missing」が収録された1stアルバム『SHAKE IT PARADISE』(1986年)

    「Missing」が収録された1stアルバム『SHAKE IT PARADISE』(1986年)

 1980年代初頭に登場した佐野元春は、日本語には乗りにくいとされていたビートロックを鮮やかなまでに刻みつけ、J-ROCKの礎を築いたが、久保田利伸は“グルーヴ”を日本語で表現することに成功し、“ファンキー”という感覚を一般化させ、その功績が90年代以降のミュージックシーンをより豊かなものへと変えていった。まさしく、J-POPの発展に欠かすことのできない人物なのである。

 90年代に入ると拠点をニューヨークに移し、ワールドワイドな活動を始めるようになる。それは、ブラックミュージックの本場に日本語の柔らかな響きとジャパニーズポップスの持つカラフルさを流入させ、“化学反応”を引き起こすこととなる。そんななかから生まれたのが前述した「LA・LA・LA LOVE SONG」だ。「Missing」同様、長きにわたり(発表から24年!)多くの人に愛されカバー作品を他出している同曲だが、注目すべきは歌っているアーティストの国籍が多岐に広がっていること。文字通り、久保田が“世界”へ一石を投じた証である。

 上記のほかにもポップさが心も体も揺さぶる「You were mine」(88年)や「AHHHHH!」(98年)など、印象に残る曲は枚挙にいとまがない。それらがすべてストリーミングで楽しめる時が来た。彼の音源解放はファンの間で以前から強く望まれていたことでもある。それだけに満を持しての“解禁”とも言えるだろう。

デジタルシングルもリリース 久保田自身が「今歌いたい、今聴いてほしい曲」

10月16日に配信のデジタルシングル「Boogie Ride/空の詩」ジャケット

10月16日に配信のデジタルシングル「Boogie Ride/空の詩」ジャケット

 さらに、時を同じくして10月16日に、待望の新曲「Boogie Ride/空の詩」が配信限定でリリースされた。「Boogie Ride」は本人が出演する『スズキ エスクード』CMソング。同曲について「閉塞感が否めないこの時代、心を解き放つ見晴らしの良い大地を目指そう! 新しい時代を柔らかく生きよう! という思いをBoogieのビートに乗せて歌いました」とコメントしているように、その躍動感は聴く者の心をくすぐるとともに、一歩を踏み出すパワーを与えてくれる。そしてそこには、デビューから一貫して変わらぬ久保田のポテンシャルの高さが際立つ。唯一無二の久保田節とも呼べる圧倒的な“グルーヴ”感は、カップリングの「空の詩」とともに、コロナ禍の今だからより身体にしみるナンバーと伝わる。ストリーミングと合わせてじっくり味わってほしい。

 11月には、南青山・ブルーノート東京で6日間のスペシャルライブも予定されている。ジャジーな空間とグルービーな久保田のパフォーマンスは相性的にも最高と言えるが、同所でのライブは今回が初めて。それだけにどんなセットリストで我々を楽しませてくれるかにも注目したい。

 秋が深くなり、より一層耳が音楽を求めてくる季節。久保田利伸の珠玉のナンバーを様々な形で楽しんでいただきたい。

(文/田井裕規)
<INFORMATION>
10月16日に全曲配信、デジタルシングル「Boogie Ride/空の詩」リリース
配信情報は久保田利伸オフィシャルサイトにて>>
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