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『ぐりとぐら』『エルマー』『うさこちゃん』親子3代で愛される福音館絵本のヒット法則とは
世界的人気者「ミッフィー」原作を世界で初めて翻訳 ヒット作品を見抜く“先見の明”
「ブルーナさんの絵本は素朴な線と独特の温かさがあり、色も主張するばかりではなく、一緒に手をつなごうと子どもに呼びかけてくるようで、ひと目で子どもたちに喜ばれるだろうと確信したようです。当時のブルーナさんはデザイナーとして活躍されていて、絵本作家としてはまだ駆け出し。世界に先駆けて評価されたことをうれしく思い、『うさこちゃん』シリーズの出版も快く認めてくれたそうです」(絵本編集部・宇田純一さん)
「竜の子どもをはじめ、擬人化されている動物たちのおしゃべりは英語だと性別や年齢がはっきりせず、翻訳の際にどう表現するか悩まれたそうです。しかし繰り返し読むうちに、竜の子どもが気のやさしい4〜5歳の男の子のイメージと重なって。そこから先は、物語を書き下ろすように翻訳が進み、1963年に出版された日本語訳の作品ができあがったと聞いています」(絵本編集部 編集長・多賀谷太郎さん)
「うさこちゃん」のためだけのフォントまで開発 色合いから用紙まで原書を忠実に再現
「『ナインチェ』はオランダ語で、まさに“うさちゃん”といった意味なんです。また、当時翻訳された石井桃子さんが、原語の発音を聞きたくて、わざわざオランダ大使館まで足を運び、大使館員に原書を読み聞かせてもらったそうです。そのとき、『ナインチェ』の“チェ”と、『うさこちゃん』の“ちゃ”の響きが似ていること、そして“ちいさいうさぎ”という意味合いの両方からイメージした名前が『うさこちゃん』だったのです」(宇田さん)
また、1964年の出版当初は明朝体だったフォントを、2010年にリニューアル。さらに原書に近づけるために、「うさこちゃん」のためだけのオリジナルフォントを作り出した。
「原書では、ナインチェに相応しい優しく美しいゴシックが使われています。日本でもそれに近いフォントを探したのですが見つからなかったため、デザインを手掛けた祖父江慎さんに“ウサコズフォント”を創っていただいたんです」(宇田さん)
「ブルーナさんは “シンプル” を追求された方。原画は1枚1枚手描きで、1枚描くために100枚以上描き直すこともあったそうです。すでに描いた絵をトレースするのではなく、時間をかけて丁寧に作り上げたのは、子どもたちに対するブルーナさんの愛情だと思います」(宇田さん)
原作者の思いを尊重し、作家と子どもたちの橋渡しをすることが仕事だと、宇田さんは語る。『エルマーのぼうけん』も40年以上重版を繰り返しているが、不変の人気にあやかって同じ作品を刷り続けるのではなく、フォントを変えたり原書からイラストを取り直したりと、工夫を重ねている。原作者の思いを伝えるためのこだわり抜いた細やかな工夫が、福音館が生み出すヒット作の原点になっているのだ。