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テレビは縮小傾向も 気鋭の怪談家が語る“怖い話”の今

 今年7月発売の児童向け怪談短編集『レイワ怪談 新月の章』『レイワ怪談 半月の章』(学研プラス)が、好調な売れ行きを見せている。小・中学校を中心に実施の「朝の読書運動」の時間でも怖い話の本を選ぶ子どもは多く、タイトルも増加傾向にあるという。同書の原作を手掛けたのは、現在では“怪談家”としても活動中のありがとう・ぁみさん。「稲川淳二に最も近い男」とも言われる彼に、制作のエピソードや怪談に魅せられた理由を伺いつつ、テレビコンテンツでは年々縮小傾向あるものの、プラットホームを変えた形で、新しい可能性を秘めている「怪談界」の現在についても聞いた。

怪談はロマン…『レイワ怪談』は自身の思いを投影した納得の出来栄え

――『レイワ怪談』を作られたいきさつを教えてください。

【ぁみさん】僕は子どもの頃から怪談が好きだったんです。怪談の中には、ある種の教訓やミステリアス、情緒、なによりもロマンの要素があって。自分もいつかお子さんに喜んでもらえる怪談の本を作りたいと思っていたところに、学研さんからお話をいただきました。

――『レイワ怪談』2冊に収録された48話は、“浦じい”という老人から聞いたお話という設定になっていますね。

【ぁみさん】僕が子どもの頃に、実際にそういう大人がいたんです。子どもたちに話を聞かせてくれる近所のおっちゃんで、めっちゃカッコいいヒーローでした。あの頃の僕の思いを投影させて、今の子どもたちにも、この本を読んで怪談好きになってもらえたらうれしいです。
――48話をセレクトするのは大変でしたか?

【ぁみさん】死ぬほど迷いました(笑)。手持ちの怪談のストックが、まとめていない話も含めると何千話とあるんですよ。その中から文章にしたら面白い話をピックアップし、「学校の図書室にこの本が置いてあったとき、どんな話が入っていれば(子どもたちは)うれしいかな」と考えました。それが選考基準です。

――何千ものストックがあるんですね!

【ぁみさん】はい。今回の本では、現在表に出ている自分のしゃべった動画などから文字起こししても良かったのですが、せっかくだから今までに取材したけど形にしていない話や、まだ表に出していない話からたくさん掘り起こしました。なので、ほとんどが初出しです。改めて取材をし直しているので、その作業に時間がかかりました。

――文章以外で、制作にあたってぁみさんがこだわった点は?

【ぁみさん】図書館にある怪談の本を読んで怪談好きになったあの頃の僕にとって、挿絵がどのタイミングで入ってくるかがすごく重要でした。なので、挿絵のポジションについては、めちゃめちゃリクエストを出させてもらいました。プロの先生方に何度もやり直しをさせてしまって、ご迷惑をかけました(苦笑)。その分、とても面白く完成していて、本が出来上がって「この本、面白いな」と他人事のように楽しく読ませてもらいました。つい先日も「大人が読んでも怖い」という声もあがっていると伺って、僕もうれしいです。

「極論、怖くなくてもいいんです」…怪談とは“人間ドラマ”である。

 怪談のライブイベントの出演や、YouTubeで怪談話を動画配信するなど、精力的に活動を続けるぁみさん。怪談話をする時には、どこかに泊まった夜に友達何人かと怖い話を言い合う“お泊り会的なノリ”が根っこにあるという。

【ぁみさん】動画でもイベントでも、せっかく発信するなら誰かとワイワイやりたくて、何人かで集まってやります。自分がしゃべるのも好きですけど、話を聞くのも好きなんです。イベントのときは事前に話を用意していきますが、他の人の話を聞いているうちに別の話を思い出して、そっちを話してしまうことも多々あります。

――まさに“お泊り会ノリ”ですね。

【ぁみさん】イベントの空き時間、特に終演後などに結構お客さんと話すのですが、そこでめちゃめちゃお話しを聞かせてもらえるんです。怪談を集めている方や霊体験している方が多くて。「ぁみさんにしゃべってほしいです」と話しかけてもらい、どんどんお話が増えていく……そんな感じで聞かせてもらって楽しくやっています。それプラス、怪談家ぁみオフィシャルウェブサイトのメールフォームにもたくさん投稿が来ていて、大変ありがたいです。目を通すのにも追いついておらず、現在は過去にいただいたものから順番にありがたく読ませていただいています。

――ぁみさんは“第二の稲川淳二”とも言われていますが、やはり稲川さんは意識しますか?

【ぁみさん】いやぁ、恐縮です。僕、稲川さんが大好きなんです。好きだからこそ、僕は稲川さんぽくならないようにしています。僕は僕らしく、そしてやっぱり「お泊り会ノリ」のようにみんなでワイワイ話すのが好きという意識が根本にあるので、そうできたらと思っています。
――ぁみさんの考える、怪談の魅力とは?

【ぁみさん】怪談って、もちろん怖い話がたくさんあるのですが、そのなかにも怖いだけじゃなく、そこに至るまでの人間ドラマやストーリー、亡くなった方や身内の方の気持ちとか、そういうことを大事にする話もあって。極論を言うと、怖くなくてもいいんです。

――えっ! 怖くなくてもいいんですか!?

【ぁみさん】はい。僕は「優しい幽霊が出てきて頭をなでくれた」話とか、「亡くなった母が、今も自分を心配して側に立っている」話とか、全然怖くないけど、そういう話も好きです。話を聞く立場のときも、怖い部分だけではなく人間ドラマや人の気持ちがしっかり伝わってくる話は大好物です(笑)。

面白い語り手が増え、怪談界はプチ盛り上がり状態

 テレビだけに着目すると、年々怪談番組は減少傾向にあり、やや「怪談は都市伝説にパイを食われているのでは?」とも感じてしまう。だが、ぁみさんに聞くと「そうは思わないです。怪談も都市伝説もどっちも好きな人はいますし、怪談が好きな人はホントに好きですから。それに、怪談ってすごい面白いですよ」と返ってきた。テレビ番組は減っても、むしろリアルイベントやYouTubeなどで、怪談はおおいに盛り上がりを見せ、語り手の数も増えているそうだ。

【ぁみさん】ここ数年で、面白い語り手さんはめちゃめちゃ増えていますね。今はSNSなど自分で発信できる時代。表現方法も増えて、スポットライトが当たりやすくなったと思います。でも、今はまだ“プチ盛り上がり”の状態。今後もっと盛り上がるのではないでしょうか。

――ぁみさん自身は、今後も「怪談家」として活動を続けられるんですよね?

【ぁみさん】はい。今から何年も前、「怪談家」って肩書きを名乗る人がいなかったので、僕が肩書きを作りました。自分は「怪談という芸をやっている芸人」だと思っています。大好きな怪談を、趣味の延長線上で仕事として楽しくやらせていただいています。体験者さんが伝えてくれた時の気持ち、臨場感や熱量をうまく伝えてみんなと楽しめるか……それを常に考えています。

――今後やってみたいことや将来の夢はありますか?

【ぁみさん】今、『ありがとうぁみの渋谷怪談夜会』というイベントを、毎回やっているんですね。そのイベントでは、怪談をお仕事にしてないジャンルの人……たとえばミュージシャンやアイドルさんが「1回だけ怖い体験をしたことある」と僕の好きなお泊り会ノリでしゃべってくれる。その話がめっちゃ面白いんです。今後、いろんな業界の方が「私も怖い話あるよ」と出てくれるようになって、たくさん面白い話が聞ける、まさに「お泊り会」のようなイベントとして、たくさんの方と一緒に楽しんでいけたらと思っています。

――業種も世代も超え進化した怪談ブームが来る日も期待できそうです。

【ぁみさん】あとは『レイワ怪談』を読んでくれたお子さんが、10年後に「あの本を読んで、怪談を好きになりました」とライブに来てくれたらたまらないですね。まだまだストックがたくさんあるので、また続編が書けたらな…とも思っています。ぜひお楽しみに。

(取材・文/水野幸則)

【厳選怖い話】中でも怖がるにはまずこれからという【ぁみ怪談】動画

PROFILE
【ありがとう・ぁみ】
1982年9月29日生まれ。山口県宇部市出身。
怪談家、MC、作家、脚本、演出、YouTubeなど活躍中。「第二の稲川淳二」との呼び声も高く、数々の番組や大会で優勝やMVPとなる。著書に『ありがとう・ぁみの學校奇譚』(だいわ文庫)、『怪談日記-怖い体験をしすぎて怪談家になってしまった芸人-』(イカロス出版)がある。
怪談家ぁみオフィシャルウェブサイト https://www.arigatoami.com/
ぁみTwitter @arigato_ami
ブログ『ありがとうぁみの「父さん、母さん、私は今日も元気です」
YouTube『怪談ぁみ語』
ニコ生 『渋谷怪談夜会ch
INFORMATION
『レイワ怪談 新月の章』『レイワ怪談 半月の章』
原作:ありがとう・ぁみ 表紙絵:篠月しのぶ
価格:税抜 各1,000円
発行:株式会社 学研プラス

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