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『演歌の乱』で“本物”の歌唱力が話題に、演歌歌手によるJ-POPカバーが若者に響いた理由
「歌唱力がハンパない!」、演歌歌手が歌うJ-POPに若者から大反響
9月25日には、その細川をMCに迎えて再び特番『演歌の乱〜ミリオンヒットJポップで紅白歌合戦SP〜』が放送。ここでは、2017年に『NHK紅白歌合戦』に初出場した丘みどりが安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE?」を、同じく紅白歌手・市川由紀乃が浜崎あゆみ「SEASONS」を、大御所・角川博がSEKAI NO OWARI「RPG」を披露した。SNSでは、「演歌歌手の方ってすごい!」「もっと聴きたい」「歌唱力がハンパない!」と、彼らの歌唱力を絶賛するツイートが続々。普段は演歌に馴染みのない若者たちでも、よく知るJ-POPを通して演歌に触れたことで、その歌唱力の高さがしっかりと伝わったことを実証した。
なぜ演歌に親しみのない若者に響いた? 意外性あるJ-POPカバーが興味を喚起
功を奏したのは、やはり若者がよく知るヒットソングを演歌歌手がカバーするという意外性であろう。「あのヒット曲を演歌歌手が歌うって、一体どうなるの?」と興味を引き、好奇心を呼び起こした。そしてフタを開けてみれば、演歌歌手の圧倒的な歌唱力に驚かされる結果に。視聴前は、“怖いもの見たさ”や“お手並み拝見”的に観ていた人もいただろう。だが、それが見事に返り討ちにあったことで清々しい感動を生み、SNSで絶賛の嵐が巻き起こったのだろう。
修行に裏打ちされた“本物感”、「演歌において“歌が下手でも売れる歌手”はいない」
「演歌歌手が歌が上手いのは当たり前」と語るのは、長年多くの演歌歌手たちを取材してきたライター・永井淳氏だ。
「もともと演歌は、民謡や浪曲、詩吟出身者が歌ってきたこともあり、“芸事”として受け継がれている。修行を積んで、きちんと歌唱力をつけるのが必須なんです。また、キャバレーやクラブで歌い鍛えてきた方もいますが、双方とも歌が上手くなくてはやっていけない。演歌において、“歌が下手でも売れる歌手”というのはいないです」
「上手いことが大前提」という厳しい世界で勝ち残ってきた演歌歌手。では、J-POP歌手との違いはどこにあるのだろうか。
「J-POPは歌唱力だけでなく、そこに込められたメッセージで人気が出る部分もある。ほかに、個性やパフォーマンス、ファッション、キャラクターも大きな要素です。その点で演歌は、メッセージやその他の要素が一番にくることはない。やはり歌唱力、表現力での勝負になりますし、伝統的なスタイルなので、突飛な個性は敬遠される。そこがJ-POPと演歌の大きな違いでしょう」
長年の住み込み修行や、全国行脚などで研さんを重ねてきた演歌歌手。“個性”ではなく“歌唱力”一本勝負であることが、明快であり厳しい世界でもある。そんな彼らの万人に響く歌が、元曲のほうに馴染みのあったはずの若者をも魅了したのは確かだろう。
徳永ゆうきが歌った「Lemon」が再浮上、年配層へもJ-POPをアピール
「Lemon」はもともと2月に配信を開始、100万ダウンロードを記録するなどロングヒットしたJ-POPソング。今年の『オリコン上半期デジタル音楽ランキング』シングル部門では、1位に輝いた。主に若者を中心に幅広い層が支持したが、ここまで浸透しきった(ダウンロードされきった)はず曲が、徳永の歌唱をきっかけに新たな購買層を開拓したことになる。『演歌の乱』でカバーされなければこの曲を知らなかった人、“演歌側”から入った年配層もいただろう。
このように、同番組は若年層に演歌歌手の凄みを知らしめたと同時に、年配層などにJ-POPの名曲を教える結果にもなった。世代間の音楽文化の断絶を双方向でつなぎなおした、意義のある音楽番組のように思う。
国民的ヒットが減った現在、批判多くとも“本物”は受け入れられる
前述の永井氏は、「演歌は伝統文化ではなく、もともとは流行歌だった。それを高齢層だけに向けていては市場が閉じてしまう。なんとか打開しないといけない現状で、『演歌の乱』は若者にも入り口を作る素晴らしい番組だった」と評価する。
どうしても、“過去のもの”“高齢者のもの”と思われがちな演歌。だが、“本物”が求められる今だからこそ、そこに再び耳を傾ける価値がおおいにあるのではないだろうか。