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『東京ラブストーリー』も話題、名作ドラマ再放送が世代間の“文化断絶”を救う?
“往年の名作”が放送できない理由とは? テレビの強みが弱点に変わる
このように大きな話題となる名作ドラマの再放送だが、最近の地上波では目にする機会もあまりない。数少ない再放送枠といえば、フジテレビとテレビ朝日の午後枠が挙げられるが、フジでは来期の新ドラマの関連作を“宣伝”の意味で放送(今回はこれにあたる)、テレ朝では『木曜ミステリー』や『相棒』を再放送することが多い。放送中の局イチ押し連ドラを見逃し再放送するパターンもあるが、かつてのように“往年の名作ドラマ”を純粋に楽しむことは、地上波ではなかなか難しいことになっているのだ。
視聴率低迷が叫ばれる昨今、ネットではよく「あのドラマを再放送したら観るのに」といった声が挙がる。そのわりに、名作ドラマが地上波で再放送されにくくなったのはなぜか? メディア研究家の衣輪晋一氏は、「まず一つに、ユーザーが思うほど再放送は高視聴率にはならないこと。また、ここが重要なのですが、現在では放送できる作品とできない作品が存在することが再放送が少なくなった原因でもあります」と解説する。
「一般に再放送されにくいのは、出演者の引退、不祥事、逮捕による解雇などがあった場合。このケースでは肖像権を事務所が管理できないため、その映像を使うことは困難。ほか“放送禁止用語”や、現在に照らし合わせて公序良俗的に“不適切”とされやすいものは“自主規制”されることがあります。社会に広く影響を与えるテレビというメディアの“強み”が、同時に“弱点”でもあるということを象徴する事例です」(衣輪氏)
“放送禁止用語”に不適切表現、多くの名作が“配慮”の対象に
結果、再放送できないものとなったのが、例えば『座頭市』やアニメ『あしたのジョー』だ。“盲目の主人公”や“ドヤ街”など物語の設定自体が放送禁止で、いわゆる“ピー音”ばかりになってしまう。初期の『機動戦士ガンダム』も反社会的として難しく、2013年に放送されたアニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』(TBS系)では、「専守防衛」「独裁否定」という言葉も配慮の対象となった。
「ドラマでは、木村拓哉さん主演の『ギフト』(フジ系/1997年)。劇中に登場するバタフライナイフを使用した刺殺事件が発生したため、局側は再放送を自主規制。ほか『17才 −at seventeen−』(フジ系/1994年)は、高校生の飲酒・喫煙シーンが多いため。『禁断の果実』(日本テレビ系/1994年)は近親相姦での妊娠が。『フードファイト』(日テレ系/2000年)は実際に早食い競争で喉に詰まらせた死亡事件があったため。このほかにも、むき出しの女性のバストが映っている作品、激しい暴力シーンなどで多くの作品が再放送やソフト化を見送られる形になっています」(衣輪氏)
“文化の継承”担う再放送、世代間の“断絶”の解消に
「ドラマの再放送は、“文化の継承”を担ってきたと言っていい。親世代が観ていた作品を子世代も楽しむ。そうすることで親子間、さらには職場の上司や部下の間にも共通の話題や会話のきっかけを生んでいた。だが現在は再放送が少なくなり、文化交流が“断絶”されている状態。CSやレンタル、有料配信サービスでは多くの再放送コンテンツを扱っており、“文化の継承”が行われているが、誰もが観られる地上波であることが重要なんです。そういった意味で地方局の頑張りは素晴らしいが、視聴人口的にはやはりキー局で再放送されるのとは影響力が違います」
そこで今回の『東京ラブストーリー』だ。SNSでは、「職場の若いスタッフから『超流行ってたドラマなんですか?』と聞かれた」、「『半分、青い。』(NHK総合)のギャグセンスやセリフや展開のチョイスって、この時代だったんだ」、また中学生らが「初見だが面白すぎる!」と投稿するなど、様々な“継承”の事例が多く見られる。このほか「山本高広の織田裕二のモノマネ『ずっち〜なぁ』の元ネタを初めて見た!!」「織田裕二、本当に言ってる(笑)」、そして「江口洋介を見ていると、『ひとつ屋根の下』(フジ系)での『そこに愛はあるのか』が浮かんで思わずツッコミを入れてしまう」など、当時の文化を受け取り、重箱の隅をつつきまくってネタ的に投稿する例もいくつもある。衣輪氏は「皆で話題にし、つっこみまくりながら観る。これぞ、テレビの醍醐味」と語る。
『東京ラブストーリー』は、同じく織田裕二、鈴木保奈美が出演する10月スタートの月9ドラマ『SUIT/スーツ』の宣伝であろう。だが、それがここまで話題になっているのを見ていると、名作ドラマの再放送は、リアルタイム世代にも若い世代にも望まれ、変わらず楽しめるコンテンツなのではないか。再放送枠の少ない昨今、たとえば数年前の名作『家政婦のミタ』(日本テレビ系)や『半沢直樹』(TBS系)ですら過去のものとなり、今の10代がどこまで知っているのか疑問である。これを機に、キー局には“継承”にも目を向けつつ、世代間の文化の“断絶”を解消してもらいたい。何よりまた、過去の名作が観たい。
(文:西島亨)