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“ヤムチャ的生き方“が再評価 ヤムチャは“俺”であり、そして“君”でもある
『ドラゴンボール』の第一期生 “強者のインフレ”により、悟空のライバルからかませ犬に
約1年後、ヤムチャは第21回天下一武道会に自慢のロン毛を切った爽やかな都会風の短髪姿で登場するも、1回戦でジャッキー・チュン(亀仙人)に風で飛ばされて場外負け。どうもこのあたりから1回戦負けキャラが定着するようだ。
その3年後にも第22回天下一武道会に出場し、天津飯の前で「きえろ、ぶっとばされんうちにな」と息巻くも、あっさり足を折られ白目をむいて惨敗。第23回天下一武道会でもシェン相手に一回戦負け。さらに、サイヤ人戦ではついに初めての“戦死”。それも「栽培マン」というベジータの取り巻き(仮面ライダーのショッカー的な小さい爬虫類型エイリアン)の群れの自爆に巻き込まれるという最高に切ない負けを喫した。その後は「ちょっと強そうな敵(決してボスキャラではない)の実力を測るための負けキャラ」というポジションに追いやられ、あげくの果てに物語の終盤の魔人ブウ編では、戦う描写さえ許されず、「チョコレートにされて」食べられてしまうのだった…。
「ヤムチャしやがって」という造語も誕生! ネットではパロディネタの宝庫に
しかし、そんなヤムチャのビッグマウスの果ての負けっぷりも、「ヤムチャしやがって」との名言とともに先の栽培マンの自爆に巻き込まれて倒れ込む姿を象徴として、まさかのレジェンド化。そしてさらにフィギュア化され(予約殺到で即完売したらしい)、2018年の「UNIQLO×ジャンプ」コラボでもTシャツ化されるという、真っ白になって燃え尽きた『あしたのジョー』の矢吹丈に勝るとも劣らない“哀愁”を漂わせるのだ。
今では、その姿はネットでもコラ画像やパロディイラストとして頻繁に使用されおり、バトル系マンガの噛ませ犬的なキャラは“ヤムチャ系”とも評される、ヤムチャの負けキャラはすっかり“型”としても定着することになる。
ヤムチャの性格としても、天津飯に謝罪されると素直に許す人間の大きさを見せ、天津飯が優勝すると真っ先に拍手をし、最後は天津飯と親友に。間接的に殺されたベジータとも、後には一緒にカプセルコーポレーションで暮らすし(後にブルマを奪われる)、天津飯に「(ベジータと)一緒に住んでいるヤムチャの気が知れん」と言われながらも、復活したフリーザが地球に再来襲した際にはベジータとともに駆けつける。そして戦いの主役が悟天やトランクスら第二世代に移ると、たびたび不在になる(敵に殺される)悟空やベジータら大人と子どもたちの間を取りもったりするのである。考えてみれば、ヤムチャはものすごく頼もしくもいいヤツではないか。
その軌跡はまるで“俺”の人生? 親近感と共感を呼びまくる“人間らしさ”
実際、ナメック星編の時期に鳥山氏のマンガ全般を対象にしたキャラクター人気投票でヤムチャは第6位、魔人ブウ編の時期では第8位にランクイン。決して強いキャラではないのに、ヤムチャは読者には大変人気のあるキャラクターだと言えるだろう。
そもそも、いきなり金髪になる宇宙人(スーパーサイヤ人)や神様、人造人間、魔人などが続々と登場するという、キャラの“ハイパーインフレ”状態だったドラゴンボール界では、ヤムチャはいちばん人間味に溢れ、感情移入もできる“リアル”な地球人キャラとも言える。 かつて敵だった天津飯やベジータとともに戦う姿は、幼いころにケンカした相手と仲よくなったり、自分が強い相手と戦えないぶん熱心に仲間を応援するなど、誰もが持っている経験とも重なる。女子の前ではてんでダメだったクセに、一度“開花”すると浮気を繰り返しブルマにフラれる姿なども、大学デビューして遊び惚けたあげく、実際には大してモテていない自分に気づく姿にも似ていないだろうか。さらに無謀な特攻ぶりを発揮するも見事に玉砕…なんてことは社会に出ればいくらでもあることなのである。
小さいころは、「将来は孫悟空になるんだ!」と思っていたとしても、中高生になって「やっぱ悟空は無理だよね。ていうか、ベジータのほうがカッコよくない?」と主人公になれない自分に気づき、ライバル役に存在意義を見出したりする。さらに大人になると、「俺って、もしかしてヤムチャでは……?」と思うかもしれない。
マンガでもアニメでも、カッコよくて最強な主人公ばかりが登場しては物語が成り立たない。周りに弱さや情けなさを見せる脇役がいてこそ、主人公のカッコよさが引き立つのだ。実際の社会においても、主人公にはなれないあるいはならないと自覚し、3番手4番手でもなく10番手20番手ぐらいの立ち位置で、自分なりにやるときはやる。そういう人生もありではないか。そして自分の役割りに徹することが、『ドラゴンボール』のような壮大な物語を作っていくことになるのだろう。そう、ヤムチャのように。