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“日本語ラップの先駆け”いとうせいこうが語る「永遠のアマチュアリズム」と「HIP HOP脳」とは?

 タレントのいとうせいこうが、日本語ラップの先駆けとなった歴史的名盤『建設的』でデビューしてから30年。それを祝していとうを取り巻く多彩なアーティストが集結する『いとうせいこうフェス』が、9月30日と10月1日に東京体育館開催される。HIP HOP界の黎明期を支えた大御所ミュージシャンから芸人、劇団まで錚々たる面々が、“ひと声”で集まってくるいとうせいこうは果たして“何モノ”なのか。改めてその影響力と存在感の大きさに迫る。

『建設的』から30年の一大イベント、蓋を開けたらみんな賛同してくれた

――『いとうせいこうフェス』をやろうと思ったいきさつは?
いとうせいこう 僕のデビューアルバム『建設的』を出してから30周年ということで、フェスをやろうって事務所の社長が言い出しまして。そうしたら“社運、賭けてんの?”ってぐらいなところ(東京体育館)で、しかも2日間やるって言うんですよ。だったら人を集めなきゃってことで、当時のレーベル主である高橋幸宏さんや一緒にラップをやったりもした細野晴臣さん、あと『建設的』に参加してくれた大竹まことさん、有頂天……どんどんアルバムと僕に関係の濃いメンバーになっていて。そうなると当然、芸人や劇団も出したいってことになって、ここまでのフェスになったっていう流れなんですよね。

――ほかにも上田晋也、バカリズム、RHYMSTER、スチャダラパーなど、ジャンルを超えた錚々たるメンバーが集結。マルチクリエイターとしてのいとうさんの影響の大きさを感じます。
いとうせいこう リストアップした段階では半分は断れると思っていたんです。でも蓋を開けたらみんな賛同してくれて、一番NGがなさそうな斉木しげるだけがダメだったっていう(笑)。

――斉木さんはなぜNGだったんですか?
いとうせいこう よりによってその日は福岡で芝居の公演があるらしいですよ。大竹さんもあきれていました。(フェスの)チラシを見て「斉木だけは来ないんだな……」って(笑)。でも俺も来て欲しかったですよ。僕とシティボーイズの4人でまたコントをやりたかったですもん。やるならこれとこれだなってネタも予定していたのに。ただ逆にこれだけの人たちが集まってくれるってことに正直、困っているんだよね。“これ、どうなるんだろう?”って。

――嬉しい困惑ですね。
いとうせいこう いま最終的に誰が何をやるのか、ギリギリの折衝をしていて。持ち時間も転換の問題もあるし、当初僕はただ楽屋でニコニコしいていればいいって思っていたけど、結局俺が一番働くんじゃないかって。しかも、僕の音楽活動を知っている人なんて出演者の中でも半分ぐらいしかいないから、それを納得させるためにはこっちも真剣勝負でライブをやらないとダメじゃないですか。特に80年代に思い入れを持ってやってきたミュージシャンたちにとっては、それぞれが30年経って「今、オレはこういう状態だ」っていうものを見せる場にもなるわけで、それは意外に鉄火場だと思うんだよね。

――そこらへんはいわゆる普通のフェスとは雰囲気が全く違いますね。
いとうせいこう ユルいムードもあるけど、舞台に上がったら“絶対にやってやる、俺が一番だ”って、そこが楽しみなんです。それはHIP HOPの連中、RHYMESTERやスチャダラパーとかもしかりで、こういうメモリアルなフェスは二度とやらないのですごいことになるんじゃないですかね。

プレイヤーであり、プロデューサーや編集者気質

――そんなラインナップの中でも、いとうさんご自身は“一番カッコいいのはオレだ!” っていう自負は?
いとうせいこう もちろん、僕を立ててくれないと困ります。僕の祝賀会なんだから(笑)。だけど、いざ演奏が始まったらわからない。誰がイジりにくるのか立てるのか、あるいは自分たちの演奏に夢中になって僕が音楽的に追いついていけないレベルまで彼らがやっちゃうのかわからない。いくら僕が流れを組んでも、全員が現場処理でお客さんを完全にロックするってことだけを考えてくるだろうから、一期一会的なことになるんじゃないかな。だから僕はそれを観る自分とやる自分の2人いないことがすごく残念。

――フェスに限らずいとうさんのスタンスは常に現場にいながらその一方、俯瞰(ふかん)で全体を見るという立ち位置ですよね。その、何者にも染まらない感じを「永遠のアマチュアリズム」という言葉でも表現されていましたが。
いとうせいこう そこはプロデューサー気質というか、編集者気質ですね。僕は編集者として「コイツを世に出したい!」ときと、ミュージシャンあるいは作家、プレイヤーとしてやっておきたいっていうのが両方あるんです。さらに、本番当日に何をするかってことはまた別の観点から始まるわけで、出演者にはとりあえずやるだけやってもらって、とっちらかったところを自分が何とかするっていうスタンスなんですよね。だから、フェスも俺が土下座する場合があるかもしれない。真っ裸で走り出す連中が出てきてもおかしくないメンツだから(笑)。でも全員を知っていて、それぞれの手の内をわかっていて、しかも呼び出されたら何でも対応できるっていうのは僕しかいない。そうなると結局、一番働くことになるのはしょうがないんです(笑)。

――総合監督でありプレイヤーであり、クレーム処理係でもある(笑)。
いとうせいこう そこに裏方気質もあるから袖でステージを見つつ、スタッフの弁当足りてるかなとか、チェックするでしょうね。当日はそういう雑多で細かい問題が出てくるんですよ。

――そこまで気にしていたら、いとうさん自身がステージに出るとき、集中できないのでは?
いとうせいこう それは大丈夫。そこはいろいろ仕事を変えてきた僕の特質で、出番の直前まで楽屋で小説を書いていることもよくありますから。でも僕にはバクチ打ち、要はプレイヤーとしての血があるんですよね。バラエティでは“野面(準備しないで出ていく状態)”で出ていって、とにかくその場を何とかして帰るっていうのが一番好き。逆に用意をしていくと、頭の中に点数が出ちゃって、できないと落ち込んだりするじゃないですか。でも何も考えないで出ていけばプラスしかないから、野面が好きっていう。まぁフェスに出るメンツはみんな野面で充分、闘える連中だと思いますけどね。

――それをすべて束ねるのはいとうさんですが、改めてご自身の人脈の広さに関してはどう思います?
いとうせいこう みんな地続きで付き合ってきたというか。一緒に一群となって時代の中にいたっていう感じで、自分が集めたというよりは同じ川の流れにいて、ちょっと流れを変えたら支流が生まれ、それがまたどこかで合流してまた支流が生まれ……っていう感覚なんですよ。なのでコントロールしている気はないし、実際、こんな連中を僕のやり方でどうにかするなんてできない(笑)。だからそこらへんはやっぱりプロデューサーの感覚ですよね。

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