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女優界の若手“非美女”枠が人材難

2013年度の『このミステリーがすごい!』で1位になった横山秀夫の小説をドラマ化した『64(ロクヨン)』(NHK)。全5話の放送を終え、Yahoo!テレビの「みんなの感想」では評価が平均4.80点(5点満点)など、緊迫感あふれる内容を称賛する声も少なくなかった。しかし同作には、ここ最近のドラマや映画にも共通する、少し違和感のある配役があった。

クラスに美少女しかいない学園ドラマ

 主人公の県警広報官を演じたのはピエール瀧。昭和64年に起きた誘拐事件を巡る物語だけに、“昭和な顔”を買われての起用だったという。役柄に合わせて俳優を配するより、スター俳優の確保が優先されがちな日本のドラマ界にあって、NHKのこのスタンスは評価に値する。その一方、『64』には疑問が残るキャスティングもあった。主人公の娘役の入山杏奈(AKB48)。入山自身が良くないという意味ではない。原作ではこの娘は、“鬼瓦”と言われる見てくれの父親と美しい母親の間に生まれ、顔が父親似なことに病的なコンプレックス(醜形恐怖症)を抱えて家出する役だ。しかし、入山はAKB48でも屈指の美形。顔にコンプレックスという設定や、瀧が「よく似ていますね」と言われるやり取りには違和感が大きい。取って付けたように、カウンセラーの「整った顔立ちの人ほど陥りやすい病気」という台詞もあったが。

 だったら最初から“非美女”の女優を使っていれば……と思うが、「じゃあ、誰を?」と考えると、適役も思い浮かばない。若手“非美女”女優枠は慢性的に人材難で、とくに近年はその傾向が著しい。というより、“非美女”女優を育成する機運も見られない。

 『GTO』『幽かな彼女』(フジテレビ系)、『35歳の高校生』(日本テレビ系)といった学園ドラマで、クラスは美少女ばかりだった。眺めるぶんには良いが、学校のリアリティはない。2011年まで間を空けつつ32年続いた『3年B組金八先生』シリーズ(TBS系)では、後年はやはり美少女が多めの傾向にあったが、実際のクラスに見えるバランスに気を配られ、外見は対極の女子生徒もいた。

 昨年放送の『ごめんね青春!』(TBS系)では、黒島結菜、トリンドル玲奈、川栄李奈(AKB48)ら美形女子に混じり、“食いしん坊でクイズ好き”という非美女キャラ生徒を連ドラ初レギュラーの富山えり子が演じて、話におもしろみを加えた。ただ、富山は年齢非公表ながら5年前から小劇場の舞台に出ていて、実際は若手ではない。この役はオーディションで選ばれ、彼女が良かったことは間違いないが、リアル女子高生に近い世代では同じキャラの対抗馬がいなかったこともあるのだろう。同時期に公開された映画『あしたになれば。』でも、彼女はセーラー服で女子高生を演じていた。

幅広い共感を呼ぶために必要なリアリティ

 男性では伊藤淳史、濱田岳、中尾明慶らが早くから、イケメンたちに混じってモテない、冴えない……といった役柄でポジションを固め、その後の活躍に繋げている。伊藤が主演した『電車男』(フジテレビ系)など、彼がイケメンでないからこそ、山田孝之による映画版より感情移入しやすく、平均視聴率21.2%のヒットとなった。もっとも、最近は男性もこの若手枠は人材難の様子。映画『桐島、部活やめるってよ』で神木隆之介が演じた映画部員の親友で、ともに「キモイ」と言われる役を当時26歳で演じた前野朋哉が、昨年公開の『大人ドロップ』でも似た立ち位置の高校生役で出ていたりする。

 大人の女優では、柴田理恵や阿知波悟美らが非美女路線で売ってきたが、若手時代からとなると、『金八先生』第1シリーズにも生徒役で出ていた小林聡美ぐらいか。とくに近年は学園モノなど若手出演枠の多いドラマ自体が少なく、各事務所がここぞとばかり売り出したい期待株を押してくることも、クラスが美男美女ばかりになる一因。

 だが、作品としてのクオリティやリアリティを考えるなら、やはり非美女役は必要。落ちこぼれ大学生の青春群像を描いた伝説のドラマ『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)では、“見かけが不自由な若者”のオーディションを行い、バラエティで活躍していた柳沢慎吾とともに、中島唄子を新人ながらメインキャスト勢に加えた。このふたりがいたことで、ドラマは幅広い共感を呼んだ。時代が違うとはいえ、考えるべき部分ではないだろうか。

 事務所側にも、非美女枠女優を育てるメリットはあるはず。前述の『ごめんね青春!』でも多くの美男美女がクラスメイト役に名前を連ねてはいたが、メインの生徒以外はエキストラに近い扱い。そのなかで非美女の富山はメイン生徒のひとりで、出番も比較的多かった。ちょっときれいなだけでは目立てない芸能界の美女枠でしのぎを削るより、非美女枠で演技を磨いたほうが世に出るチャンスは多いかもしれない。“カッコイイ女性の役”といえば、今なら黒木メイサの名前がまず挙がるように、“若くて非美女の役”としてすぐ名前が出る存在がいれば、制作側も意図するドラマを作りやすくなる。

 ところで、入山杏奈が出演した『64』と同じ土曜深夜に放送中のトークドキュメンタリー『AKB48旅少女』(日本テレビ系)で、“バラエティ班”の峯岸みなみ、小笠原茉由、中西智代梨が出演した回があった。“旅に出て語る本音”が売りの同番組で、3人は“ブスと呼ばれる悩み”を話していた。だったら、こういうタイプを入山の代わりに『64』の娘役にしたら、よりリアルになっていた気がする。

 そうは言っても、この3人は基本アイドルだが、確かに48グループには“非美女”女優枠に挑めばおもしろいかも……と思わせる人材が何人かいる。これまでの卒業生を見ても、グループ卒業後に国民的アイドル時代以上の活躍を延長線でするのは難しい。180度転換して非美女女優で行ける資質があれば、ある意味、美形以上に大きな財産だ。イス取りゲームに例えられる芸能界で、若手“非美女”女優枠は今、席が空いている。女優を目指す10代には狙い目だと思う。
(文:斉藤貴志)

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