フロンティアワークスとKaKa Creationは13日、TikTokやYouTubeで活動するTikToker「ツインズひなひま」の新作アニメ化を発表した。公開は2025年春ごろを予定しており、制作の過程でAIを活用し、スタッフはNetflixオリジナルやテレビシリーズなどの作品に参加するアニメーター、美術、撮影、CGスタッフなどで構成されている。また、制作にAIを活用したことへの経緯の声明文、手塚眞、安彦良和のインタビューが公開された。
『ツインズひなひま』は、 都内の高校に通う双子の女子高生で、現在1年生。姉が白毛のひまり(妃莉)、妹が赤髪のひなな(陽奈奈)で、TikTokへの動画投稿でバズることを夢見ており、ダンスを手始めに、伸びそうなネタをかたっぱしから撮影していく中で、妙な異変に気づいた時から、おかしな世界へ足を踏み入れていく…というストーリー。
公開されたティザー映像では、髪をたなびかせるひまりが登場。これはAIを活用して制作されており、キービジュアルでは、作品の重要な要素である「異変」が、AIによって表現されている。
また、プロジェクトが最も大切にしている価値観、“サポーティブAI”という考え方についての声明文も公開された。以下、全文。
様々な可能性と課題を生み出しつつ、急速に日常に普及してきているAI技術は、クリエイターの創作活動においても非常に身近なところまで浸透しつつあります。しかし未だクリエイターとAIの間の溝は深く、なかなか議論が成熟しないまま時間だけが経過してしまっているようにも見受けられます。
この状況を受け我々2社は、「AIはあくまでクリエイターの創作活動のための補助ツール」という考え、すなわち“サポーティブAI”の発想を基底とし、AIを使用する際の課題をクリアしながら、その性能を正しい用途で使用する形で、AI技術に向き合っていく必要性が出てきていると考えました。クリエイターにとってのAIの有用性は、下記の2つに大別できると考えています。
1)アニメ現場における人材不足や業務時間の肥大化の原因となっている、膨大な作業を少しでも軽減させることを目標とする『効率化』
2)手書きやCGといった既存の技術では実現が難しかった『新しい表現の確立』
1.本作品での具体的なAIの使用方法
本作は、従来のアニメ制作で使用するAdobe社製品やCelsys社製品に加えて、AI技術を使用して制作されております。作品本編のうち95%以上のカットは、AIでの支援による負担軽減が実施されており、一方で最終的には人の手で加筆修正を行うことで、クオリティの担保を行っております。なお、キービジュアルは下記の方法で制作されました。
キャラクター:CLIP STUDIO PAINTでの全手書き。
背景:撮影した写真をAIでアニメ背景風に変換。その後美術スタッフによるレタッチ。
ロゴ:Adobe Illustratorでの全手書き。
特効:Adobe Photoshop、Adobe After Effectsでの処理。
2.なぜわざわざAIを使うのか
AIコンテンツが量産される中、アニメ制作でAIを用いる上でもっとも重要なのは、クオリティやクリエイティブに対して真摯に向き合うことであると考え、普段からアニメ作品に携わっているスタッフたちが制作することで、そこをクリアしたAI作品を制作することを第一義としました。
アニメ制作は、複雑で多岐にわたる工程を必要とする労働集約的な作業です。この特性が、制作期間の長期化と作業負担の増大を引き起こし、若手クリエイターの参入障壁となっています。
この課題に対処するため、私たちはAI技術をアシストツールとして活用することで、作業の効率化と省力化を図り、クリエイターの労働環境を改善し、より創造的な活動に注力できる環境の構築を目指します。
今回の「ツインズひなひま」のアニメプロジェクトが皮切りとなることで、アニメ業界が直面する制作者不足の解消、生産性向上による労働環境の改善、そしてクリエイターの待遇改善という問題の解決に貢献したいと考えています。アニメが、人材不足が進む事で消滅の危機にあるという危機感のもと、AI技術の活用により、アニメ制作の未来をより明るく、持続可能なものにすることが可能だと確信しています。
■「クリエイティブとAI」に関して、トップクリエイターからコメントが到着
アニメ制作業界は、長年にわたり深刻な課題に直面しています。過酷な労働環境、タイトなスケジュール、手作業に大きく依存する40年以上も変わらない制作プロセス、制作者の高齢化と後継者不足、さらには知的財産権保護への懸念から新技術の導入が遅れるなど、問題は山積しています。当プロジェクトは、業界全体がアニメ制作の課題に真剣に向き合うきっかけとなることを目指しています。
■クリエイターとAIの向き合い方
手塚眞インタビュー
―以前、手塚治虫先生作品で、AIをサポートツールとして使用し、新作を作られるというプロジェクトをされていたかと思います。その辺りを踏まえ、AIとクリエイティブの関わり方についてご意見をいただけますでしょうか?
【手塚】
基本的にあのプロジェクトは私主導のものではなく、「NEDO」という経済産業省主導の国立研究開発法人のプロジェクトなんですね。AIの開発者たちが、AIでのストーリー型コンテンツの開発と、画像生成AI技術を用いて、「漫画」というものにアプローチしてみたもので、そこにこちらから「手塚治虫のコンテンツを使ってそういうものができますか」と提案した形になります。ですので、あくまで研究の実証実験の発表でした。
―既に亡くなった方の画風やお話が、まるでご本人が描かれたようにお話とか絵が生成されるとしたら、技術的にすごい一方、不安・嫌悪感を感じる人もいると思われます。そういった法律だけではない、人の気持ち・生理的な部分について当事者の方としてはどのようにお感じになりますでしょうか?
【手塚】
長年映像をやってますので、その中で革命的な技術の進歩もありました。例えば80年代ぐらいにコンピューターグラフィックス(CGI)が出てきましたね。これに対して当時もすごい抵抗がありまして、危機感を感じている方からは、「俳優・スタントマンはいらなくなるんじゃないか」「監督がいらなくなるんじゃないか」みたいなことまで言われたんですけど、今のところいらなくなってはいませんね。ただ、それによって表現の幅が広がって変化があったものもあります。
今回のAIも僕は全く同じことを感じています。今映画などでことさら「CGを使いました」とは言いませんよね。なぜ今みんながAIを気にしてるかというと、今「AI使ってます」って言っているからだと思うんです。今は発表しなきゃいけないので、僕らとしては「こういう新しい技術があるんです」というと、その言葉に対して反応がすごくデリケートに返ってきます。
でも言わなかったら何もわからないと思います。人間が描いたのか、プログラムがやったのかすらわからないです。僕はそこについては問題ないと思っているんです。映画とかエンターテインメントでは、結果が全てなので、受け止めた人が面白がってくれれば、それは人間だろうとプログラムだろうと関係ない、というのが僕の考え方です。どんな手品だって種があるものです。
―手塚さん的には、AIっていうのはあくまでツールの一つというお考えでしょうか?
【手塚】
そう思います。
―仮に手塚治虫先生がAIという技術を見たら、どうされたと思いますか?
【手塚】
まずアシスタント使わなくても済むので、そこをやらせる。まずは枠線引き、ベタ塗り、背景の一部とか(笑)
アシスタントって手塚治虫が始めた制度なんです。本当は自分で全て描きたいんだけど、あまりにも忙しすぎて、全部自分でやってると雑誌の締め切りに間に合わないと。だから作品の本質じゃないところ、枠線を引くとか、ベタを塗るみたいなことをやってもらうために人を雇っていたということで、別に弟子を付けたかったわけではないんです。機械的なことで人間でなくてもいい部分には使いたかったんじゃないですかね。
―お話を伺ってみて、アニメとかでも、例えば色を塗るとか、もう決まったものを決まったようにする作業みたいなものはAIに任せられる可能性はあると思いました。肝の部分はクリエイターの皆さんがやって、AIを道具として使い、どのパートを任せるか、それぞれクリエイターが選ぶ時代になるのかなと。
【手塚】
最終的にはそのクリエイター次第なので。
―今はAIによる学習に抵抗感がある方もいらっしゃいます。そのAIによる学習についてはいかがでしょうか?
【手塚】
例えば、手塚治虫が登場して、人気が爆発した初期の時に、他に出てくる漫画がみんな手塚治虫タッチの漫画だったんですよ。みんなで手塚治虫を読んで学んで、そういうように描いてたんですね。人間がやってるから許されているんだけど、機械がやった瞬間におかしい、ということは変だなと思います。みんな手塚治虫を学習して、漫画を描いているので。学習して、その通りに描いて、それで覚えて、漫画家になって。それの何がおかしいか、ということですよね。
―クリエイティブはそもそも学習からでも始まるものかと思います。
【手塚】
そうです。学習しかないです。逆に言うと、何歳になっても学びは必要で。(作品を)0から生み出すなんて嘘ですから。
―最後にAIについて感じてらっしゃる事があればお伺いさせてください。
【手塚】
今AIって本当にわからないから、何を言っていいかもわからない、そうビクビクしている人はいっぱいいますね。でも判ってみると案外「こんなことか」みたいになんでもなくなると、そう思っています。
■安彦良和インタビュー
―アニメ業界の人手不足問題もあり、補助ツールとしてAIが使えないかと思っているのですが、その辺りいかがでしょうか?
【安彦】
AIを活用したテスト動画とかを観てみたりすると、言いたい事もあるっちゃあるんだけども…人手不足でね、クオリティが低いレベルで情けないものを作っている現状を踏まえると、AIが底上げしてくれるかもというのは十分期待できるんじゃないかね?
―例えばAIのツールをペンと紙と同じように使って、頭の中のイメージをアウトプットする手助けをしてくれるとなったら、それを使って何か作品を作ってみたいと思われますか?
【安彦】
いや、自分としてはそれを使ってみたいとは思わないけど…でも、アニメ制作としてはいろいろサポートしてもらうことはできるんじゃないかなと思うよね、今すぐにでも。例えば中割なんかをやってくれるんであれば、どんどんやってもらえば良いと思う。その間に作り手は芝居の勉強したりとかしてね。アニメーションの基本は「流れ」だから。中割は機械的な動きだから、手伝ってっていう。
あとは漫画なら枠線引いたり、ベタを塗ったりね。今はスクリーントーンも消えちゃって…僕はスクリーントーンが廃盤になるの辛かったんだけど…でも今、貼ってる人いないんじゃないの? 昔はカケアミできないと漫画家になれないよって言われて、僕も「アレができないと漫画家でやっていけないから、アニメーターで食っていこう」って思ったところもある。でも今カケアミなんて誰もやらないでしょ?そういった部分も含め、AIにお手伝いしてもらえるんじゃないの?だから、むしろ遅いなって感じがするね、「まだそのレベルなの?」って。
―あと、安彦さんにお伺いしたいのですが、AIが批判される点として「学習」という点があります。ただ、アニメの現場でも行われている写真参考や、絵を勉強するための模写も同じく参考のものを「学習」したものではあるのですが、それは許されて、AIの学習が批判される理由は何だと思われますか?
【安彦】
AIの学習姿勢がどういったものかというのは判らないけど、でも「学習」でしょ?
パクリではなく「学習」という。「学習」っていうのは好みがあるから、全部を吸収するっていう訳ではなく、「あ、ここのところを学ばせてもらおう」というような。好きじゃないものは取り入れない、技術的に無理なものは取り入れないとかね。「学習」自体は自然な事だし、基本だと思うけどね。あとは、アニメの現場だと「影」をつけるなっていう話があるでしょ。色数が増えるからって。今はかなりシンプルでしょ?
― 時期影を増やす流れがありましたが、今は大分減りました。あとは撮影処理で載せてしまうことも増えてきていると思います。
【安彦】
「学習」して取り入れたんだけど、あえて捨てる、いらないとかね。そういったこともチョイスできるのかなって。 なんでもかんでも取り入れるとうるさくなっちゃう。
―はい。AIを使ったアニメ制作だと「捨てる事」が重要になってきています。放っておくとどんどん情報量が増えてしまうので…。
【安彦】
…なんか話を聞いていくと、(AIを活用することに)何の問題もない気がするね。AIに頼みたいのは「アニメ制作の人手不足部分のサポート」
―今のAIというのは、良くも悪くもツール、技術という立ち位置のものかと思いますが、安彦先生が今AIに手伝ってほしい、サポートして欲しいということはありますでしょうか?
【安彦】
本業の漫画家の方では特にないんだけど…面倒くさいけど背景も描くしね。ただアニメーションの場合は、人手が足りないなら中割とか手伝ってもらえたらいいのになぁとか、モブとか通行人とか、学園ドラマの教室のその他大勢とか、やってくれるなら頼めばって気がするけどね。
★YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」
『ツインズひなひま』は、 都内の高校に通う双子の女子高生で、現在1年生。姉が白毛のひまり(妃莉)、妹が赤髪のひなな(陽奈奈)で、TikTokへの動画投稿でバズることを夢見ており、ダンスを手始めに、伸びそうなネタをかたっぱしから撮影していく中で、妙な異変に気づいた時から、おかしな世界へ足を踏み入れていく…というストーリー。
公開されたティザー映像では、髪をたなびかせるひまりが登場。これはAIを活用して制作されており、キービジュアルでは、作品の重要な要素である「異変」が、AIによって表現されている。
また、プロジェクトが最も大切にしている価値観、“サポーティブAI”という考え方についての声明文も公開された。以下、全文。
様々な可能性と課題を生み出しつつ、急速に日常に普及してきているAI技術は、クリエイターの創作活動においても非常に身近なところまで浸透しつつあります。しかし未だクリエイターとAIの間の溝は深く、なかなか議論が成熟しないまま時間だけが経過してしまっているようにも見受けられます。
この状況を受け我々2社は、「AIはあくまでクリエイターの創作活動のための補助ツール」という考え、すなわち“サポーティブAI”の発想を基底とし、AIを使用する際の課題をクリアしながら、その性能を正しい用途で使用する形で、AI技術に向き合っていく必要性が出てきていると考えました。クリエイターにとってのAIの有用性は、下記の2つに大別できると考えています。
1)アニメ現場における人材不足や業務時間の肥大化の原因となっている、膨大な作業を少しでも軽減させることを目標とする『効率化』
2)手書きやCGといった既存の技術では実現が難しかった『新しい表現の確立』
1.本作品での具体的なAIの使用方法
本作は、従来のアニメ制作で使用するAdobe社製品やCelsys社製品に加えて、AI技術を使用して制作されております。作品本編のうち95%以上のカットは、AIでの支援による負担軽減が実施されており、一方で最終的には人の手で加筆修正を行うことで、クオリティの担保を行っております。なお、キービジュアルは下記の方法で制作されました。
キャラクター:CLIP STUDIO PAINTでの全手書き。
背景:撮影した写真をAIでアニメ背景風に変換。その後美術スタッフによるレタッチ。
ロゴ:Adobe Illustratorでの全手書き。
特効:Adobe Photoshop、Adobe After Effectsでの処理。
2.なぜわざわざAIを使うのか
AIコンテンツが量産される中、アニメ制作でAIを用いる上でもっとも重要なのは、クオリティやクリエイティブに対して真摯に向き合うことであると考え、普段からアニメ作品に携わっているスタッフたちが制作することで、そこをクリアしたAI作品を制作することを第一義としました。
アニメ制作は、複雑で多岐にわたる工程を必要とする労働集約的な作業です。この特性が、制作期間の長期化と作業負担の増大を引き起こし、若手クリエイターの参入障壁となっています。
この課題に対処するため、私たちはAI技術をアシストツールとして活用することで、作業の効率化と省力化を図り、クリエイターの労働環境を改善し、より創造的な活動に注力できる環境の構築を目指します。
今回の「ツインズひなひま」のアニメプロジェクトが皮切りとなることで、アニメ業界が直面する制作者不足の解消、生産性向上による労働環境の改善、そしてクリエイターの待遇改善という問題の解決に貢献したいと考えています。アニメが、人材不足が進む事で消滅の危機にあるという危機感のもと、AI技術の活用により、アニメ制作の未来をより明るく、持続可能なものにすることが可能だと確信しています。
■「クリエイティブとAI」に関して、トップクリエイターからコメントが到着
アニメ制作業界は、長年にわたり深刻な課題に直面しています。過酷な労働環境、タイトなスケジュール、手作業に大きく依存する40年以上も変わらない制作プロセス、制作者の高齢化と後継者不足、さらには知的財産権保護への懸念から新技術の導入が遅れるなど、問題は山積しています。当プロジェクトは、業界全体がアニメ制作の課題に真剣に向き合うきっかけとなることを目指しています。
■クリエイターとAIの向き合い方
手塚眞インタビュー
―以前、手塚治虫先生作品で、AIをサポートツールとして使用し、新作を作られるというプロジェクトをされていたかと思います。その辺りを踏まえ、AIとクリエイティブの関わり方についてご意見をいただけますでしょうか?
【手塚】
基本的にあのプロジェクトは私主導のものではなく、「NEDO」という経済産業省主導の国立研究開発法人のプロジェクトなんですね。AIの開発者たちが、AIでのストーリー型コンテンツの開発と、画像生成AI技術を用いて、「漫画」というものにアプローチしてみたもので、そこにこちらから「手塚治虫のコンテンツを使ってそういうものができますか」と提案した形になります。ですので、あくまで研究の実証実験の発表でした。
―既に亡くなった方の画風やお話が、まるでご本人が描かれたようにお話とか絵が生成されるとしたら、技術的にすごい一方、不安・嫌悪感を感じる人もいると思われます。そういった法律だけではない、人の気持ち・生理的な部分について当事者の方としてはどのようにお感じになりますでしょうか?
【手塚】
長年映像をやってますので、その中で革命的な技術の進歩もありました。例えば80年代ぐらいにコンピューターグラフィックス(CGI)が出てきましたね。これに対して当時もすごい抵抗がありまして、危機感を感じている方からは、「俳優・スタントマンはいらなくなるんじゃないか」「監督がいらなくなるんじゃないか」みたいなことまで言われたんですけど、今のところいらなくなってはいませんね。ただ、それによって表現の幅が広がって変化があったものもあります。
今回のAIも僕は全く同じことを感じています。今映画などでことさら「CGを使いました」とは言いませんよね。なぜ今みんながAIを気にしてるかというと、今「AI使ってます」って言っているからだと思うんです。今は発表しなきゃいけないので、僕らとしては「こういう新しい技術があるんです」というと、その言葉に対して反応がすごくデリケートに返ってきます。
でも言わなかったら何もわからないと思います。人間が描いたのか、プログラムがやったのかすらわからないです。僕はそこについては問題ないと思っているんです。映画とかエンターテインメントでは、結果が全てなので、受け止めた人が面白がってくれれば、それは人間だろうとプログラムだろうと関係ない、というのが僕の考え方です。どんな手品だって種があるものです。
―手塚さん的には、AIっていうのはあくまでツールの一つというお考えでしょうか?
【手塚】
そう思います。
―仮に手塚治虫先生がAIという技術を見たら、どうされたと思いますか?
【手塚】
まずアシスタント使わなくても済むので、そこをやらせる。まずは枠線引き、ベタ塗り、背景の一部とか(笑)
アシスタントって手塚治虫が始めた制度なんです。本当は自分で全て描きたいんだけど、あまりにも忙しすぎて、全部自分でやってると雑誌の締め切りに間に合わないと。だから作品の本質じゃないところ、枠線を引くとか、ベタを塗るみたいなことをやってもらうために人を雇っていたということで、別に弟子を付けたかったわけではないんです。機械的なことで人間でなくてもいい部分には使いたかったんじゃないですかね。
―お話を伺ってみて、アニメとかでも、例えば色を塗るとか、もう決まったものを決まったようにする作業みたいなものはAIに任せられる可能性はあると思いました。肝の部分はクリエイターの皆さんがやって、AIを道具として使い、どのパートを任せるか、それぞれクリエイターが選ぶ時代になるのかなと。
【手塚】
最終的にはそのクリエイター次第なので。
―今はAIによる学習に抵抗感がある方もいらっしゃいます。そのAIによる学習についてはいかがでしょうか?
【手塚】
例えば、手塚治虫が登場して、人気が爆発した初期の時に、他に出てくる漫画がみんな手塚治虫タッチの漫画だったんですよ。みんなで手塚治虫を読んで学んで、そういうように描いてたんですね。人間がやってるから許されているんだけど、機械がやった瞬間におかしい、ということは変だなと思います。みんな手塚治虫を学習して、漫画を描いているので。学習して、その通りに描いて、それで覚えて、漫画家になって。それの何がおかしいか、ということですよね。
―クリエイティブはそもそも学習からでも始まるものかと思います。
【手塚】
そうです。学習しかないです。逆に言うと、何歳になっても学びは必要で。(作品を)0から生み出すなんて嘘ですから。
―最後にAIについて感じてらっしゃる事があればお伺いさせてください。
【手塚】
今AIって本当にわからないから、何を言っていいかもわからない、そうビクビクしている人はいっぱいいますね。でも判ってみると案外「こんなことか」みたいになんでもなくなると、そう思っています。
■安彦良和インタビュー
―アニメ業界の人手不足問題もあり、補助ツールとしてAIが使えないかと思っているのですが、その辺りいかがでしょうか?
【安彦】
AIを活用したテスト動画とかを観てみたりすると、言いたい事もあるっちゃあるんだけども…人手不足でね、クオリティが低いレベルで情けないものを作っている現状を踏まえると、AIが底上げしてくれるかもというのは十分期待できるんじゃないかね?
―例えばAIのツールをペンと紙と同じように使って、頭の中のイメージをアウトプットする手助けをしてくれるとなったら、それを使って何か作品を作ってみたいと思われますか?
【安彦】
いや、自分としてはそれを使ってみたいとは思わないけど…でも、アニメ制作としてはいろいろサポートしてもらうことはできるんじゃないかなと思うよね、今すぐにでも。例えば中割なんかをやってくれるんであれば、どんどんやってもらえば良いと思う。その間に作り手は芝居の勉強したりとかしてね。アニメーションの基本は「流れ」だから。中割は機械的な動きだから、手伝ってっていう。
あとは漫画なら枠線引いたり、ベタを塗ったりね。今はスクリーントーンも消えちゃって…僕はスクリーントーンが廃盤になるの辛かったんだけど…でも今、貼ってる人いないんじゃないの? 昔はカケアミできないと漫画家になれないよって言われて、僕も「アレができないと漫画家でやっていけないから、アニメーターで食っていこう」って思ったところもある。でも今カケアミなんて誰もやらないでしょ?そういった部分も含め、AIにお手伝いしてもらえるんじゃないの?だから、むしろ遅いなって感じがするね、「まだそのレベルなの?」って。
―あと、安彦さんにお伺いしたいのですが、AIが批判される点として「学習」という点があります。ただ、アニメの現場でも行われている写真参考や、絵を勉強するための模写も同じく参考のものを「学習」したものではあるのですが、それは許されて、AIの学習が批判される理由は何だと思われますか?
【安彦】
AIの学習姿勢がどういったものかというのは判らないけど、でも「学習」でしょ?
パクリではなく「学習」という。「学習」っていうのは好みがあるから、全部を吸収するっていう訳ではなく、「あ、ここのところを学ばせてもらおう」というような。好きじゃないものは取り入れない、技術的に無理なものは取り入れないとかね。「学習」自体は自然な事だし、基本だと思うけどね。あとは、アニメの現場だと「影」をつけるなっていう話があるでしょ。色数が増えるからって。今はかなりシンプルでしょ?
― 時期影を増やす流れがありましたが、今は大分減りました。あとは撮影処理で載せてしまうことも増えてきていると思います。
【安彦】
「学習」して取り入れたんだけど、あえて捨てる、いらないとかね。そういったこともチョイスできるのかなって。 なんでもかんでも取り入れるとうるさくなっちゃう。
―はい。AIを使ったアニメ制作だと「捨てる事」が重要になってきています。放っておくとどんどん情報量が増えてしまうので…。
【安彦】
…なんか話を聞いていくと、(AIを活用することに)何の問題もない気がするね。AIに頼みたいのは「アニメ制作の人手不足部分のサポート」
―今のAIというのは、良くも悪くもツール、技術という立ち位置のものかと思いますが、安彦先生が今AIに手伝ってほしい、サポートして欲しいということはありますでしょうか?
【安彦】
本業の漫画家の方では特にないんだけど…面倒くさいけど背景も描くしね。ただアニメーションの場合は、人手が足りないなら中割とか手伝ってもらえたらいいのになぁとか、モブとか通行人とか、学園ドラマの教室のその他大勢とか、やってくれるなら頼めばって気がするけどね。
★YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」
2024/12/13