俳優の山田孝之&仲野太賀がW主演を務める映画『十一人の賊軍』(白石和彌監督、11月1日公開)に、なつ役として出演する鞘師里保。本作出演の経緯や役作り、撮影現場の様子のほか、モーニング娘。卒業から9年、本格的に芸能活動を再開してから4年経った心境と俳優活動への想い、今後の展望など、鞘師の“現在地”を聞いた。
■なつの気持ちに共感
本作は、平成ヤクザ映画の金字塔『孤狼の血』の紀伊宗之プロデューサーと白石監督、脚本の池上純哉らのチームによる、新たな集団抗争時代劇。女房を寝取られた怒りから新発田藩士を殺害し罪人となった駕籠屋の男・政(山田)と、新発田の地を守るために罪人たちとともに戦場に身を置く剣術道場の道場主・鷲尾兵士郎(仲野)の2人を軸に、戊辰戦争のさなか旧幕府軍VS新政府軍の戦いに巻き込まれていく人々の葛藤を集団抗争時代劇として描く。
今作への出演決定までの経緯を、鞘師は「光のような速さだった」と表現する。
「監督との面談の機会をいただき、自分の人生についてざっくばらんにお話させていただきました。手応えはそんなになかったのですが、その日のうちに出演が決まって、光のような速さを感じました。このスケール感の作品に突然飛び込む形になったので、公開を迎える今も、“本当に出たのかな?”と夢心地の部分も正直あります」
そんな鞘師が演じたのは、一筋縄ではいかない罪人集団のひとりで、罪状が火付けの女性・なつ。決死隊唯一の女性だ。
「人のことを放っておけない、人を愛することができる女性である一方、人を愛せるけど自分がほしかった愛情は十分に受けられていなかったのかなと。なつは自分が信じられると思った人に裏切られて罪を犯してしまったのではないかなと思います。だからこそ周りを支えようとしたり気にかけていたり、とても愛情深い人だなと思います」
なつ役は「決して演じやすくはなかった」と口にするも、共感できる想いもあったという。
「時代も経験も私となつでは全然違いますが、信じたものが急に折られてしまったときの絶望感とか、信じてきた道からは外れてしまっても人生をやり直そうと戦う姿とか、そこに向かっていく気持ちには共感できる部分がありました。私の経験からなつを支えてあげられるようにという想いで演じました」
男性キャスト中心の撮影現場では、親交のある仲野の気づかいやともに戦う仲間たちの姿に支えられたと感謝する。
「仲野さんは、私が休業から復帰したときに初めて出演させていただいたドラマで主演をされていて、支えていただいた思い出があります。今回も、賊軍は私以外みんな男性でしたが、仲野さんが率先して声をかけてくださいました。笑いあったり、疲れたりする時間をみなさんで共有する姿を俯瞰的に見て、自然となつの気持ちになりました。撮影の苦楽をともにできた素敵な時間でした」
映画の完成度を「アクションも多くて見応えのある作品になっています」と自信をのぞかせ、「たくさんの方に届いてほしいと願っております」と呼びかける。
「賊、悪と呼ばれている人たちが、境遇はそれぞれ違う中、もう一度自分の人生を取り戻すため一致団結して戦います。真っ直ぐに生きる人たちを見守っていただきたい。その中で男性たちに負けないで、そこに存在するなつの生き様にも注目して観ていただければうれしいです」
■モーニング娘。卒業後の9年は「充実」
モーニング娘。のエースとして活躍した鞘師がグループを卒業したのが2015年。約9年の月日が流れたが、鞘師本人も「もうそんなに経つんですね。あっという間に感じます。少しは成長しているかな(笑)」と茶目っ気たっぷりな表情を浮かべる。
「お仕事を始めてから“自分のイメージを固めなければ”という意識が強くて、そこをはっきりさせることに集中していました。今は、その考え方を取り外して、“選択肢は自由にある”という意識が持てるようになってきました」
その境地にたどり着くまでに、「やりたいことを口に出すのも恥ずかしかった時期もあった」と明かす。
「10代の頃に一度突き詰めてしまったため、活動を広げるのが怖くなっていました。26歳になった今は、逆にもう“自由すぎてどこから選ぼう”と迷うくらいやりたいことがありますし、どれを選ぼうかと悩みます。自由になったのは良いことも悪いこともありますけど、良い形で活動できているのでは。それは考え方の成長かなと思います」
変化のきっかけは周囲のサポートなどもあるが、大きな転機のひとつになったのは海外留学だった。
「海外留学で視野が広がったなと感じます。でも、大きな選択をすることで迷惑をかけてしまう部分もありました。“ごめんなさい”という気持ちはもちろんありますが、選択して良かったと言える“今”を過ごせています。すべてがつながって“今”があると思っています。(卒業してからの)この9年も、充実していたことには間違いないです」
2020年9月に芸能活動を本格的に再開してから4年。ソロ活動を通じて、捉え方や向き合い方の「種類が変わった」としつつ、「気楽さとプレッシャーはどちらもありますが、楽しいを更新できていると思います」と笑顔を見せる。
■俳優として“修行中”も「役名で認識されたい」 松岡茉優との共演願望は?
現在はアーティストとしてだけでなく、俳優としても活動の場を広げているが、当初は俳優業に「あまり積極的な気持ちではなかった」という。
「ある時期、いろんな方から『お芝居をやった方がいいのでは』と言っていただくことがあって。機会を与えていただいたのに拒否する理由はありません。もともと好奇心旺盛な性格ですし、チャレンジさせていただきました」
俳優としてもキャリアを重ねる中で変化を実感している。
「最初は苦しかったけど、“これで合っているのだろうか”といった、わからなさがおもしろいとお芝居を始めて感じました。まだ修行中ですが、どんどん楽しくなってきているところです」
表現の“軸”を聞くと、「作品がどう届くかが重要」と前置きし、「どう考えてお芝居をするかとか曲を作る過程とかを楽しむ、おもしろがることが活動の重要な部分かなと思います」と持論を述べる。
俳優としての夢に関しては、“代表作”、“当たり役”への想いを口にする。
「鞘師里保として見てくれているのはもちろんうれしいことですが、たとえば“『十一人の賊軍』のなつの人”のように、役名を通して私を認識してもらえることが夢です」
共演してみたい俳優はという質問に、「ご一緒できてよかったなという方ばかりなので、誰かに絞るのは難しい」と頭を悩ませつつ、「満島ひかりさん。さらにさらに見続けたいお芝居をされる、素敵な方だなという印象が強いです」と答える。
自身を“推し”と公言する松岡茉優はと投げかけると、「尊敬できる部分しかない方ですけど、お互いどう接したらいいかわからなくなると思います」と照れ笑い。そして松岡と“芝居談義”を交わしたことを明かす。
「吸収できるところばかりなので、ご一緒させていただけるならうれしい。ただどうやって一緒に過ごそうかな(笑)。実は今回の映画の撮影をしている間に、松岡さんとお仕事させていただく機会があって、そのときにお芝居について相談させていただきました。作品では共演はしていませんが、すでに刺激をいただいています」
■音楽&俳優活動に加えて新たな表現方法への熱意も
現在26歳…20代後半に突入した。30歳という年齢について「現実味は少しずつ増している気がします。いつもじゃないですけど、たまにあせる気持ちになるときも」と率直な心境を語る。
「人間として成長しなければいけないとか、“今”の瞬間が一番若いので体が動くときにもっとできることはないのかなとか考えていますね」
自身を「人生設計みたいなものをあまりしたくないタイプ」とするも、30歳までに「切り替え下手」を克服したいと密かな目標を立てる。
「興味を持っていることを最大限していくために、どうやりくりしていくかは見つめていかなきゃいけないのかなと。時間配分をうまくできるようになりたい。時間があったとしても、お芝居のことを考えたり反省したりに時間を使ってしまって……。振り返るのは良いことですけど、ただ落ち込んでいるだけのときもあるので、もっと切り替えが上手くなりたいです」
忙しい日々を送る中、もっとも幸せを感じる時間はどんなときだろうか。
「家にどんなインテリアや雑貨をそろえようか考えているときが一番楽しいです。この間、ソファの角度を変えたのですが、家で過ごすのがますます楽しくなってきて。今日はどんなものを料理しようかなとか、日常や生活に近いことを考えるのがワクワクします」
今後の活動については、「音楽活動も、お芝居も続けていきたい」と意気込み、さらに「商品開発をしてみたい」と新たな表現方法にも思いをはせる。
「生活に関わるグッズを考えたり、自分が好きな食べ物、飲み物を開発してみたりしたい。ただ今はいただけている機会に飛び込んだりチャレンジしたりという段階なので、とにかくお芝居と歌を着実に前に進めていけるようにがんばりたいです」
取材・文:遠藤政樹
撮影:山崎美津留
★YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」
■なつの気持ちに共感
本作は、平成ヤクザ映画の金字塔『孤狼の血』の紀伊宗之プロデューサーと白石監督、脚本の池上純哉らのチームによる、新たな集団抗争時代劇。女房を寝取られた怒りから新発田藩士を殺害し罪人となった駕籠屋の男・政(山田)と、新発田の地を守るために罪人たちとともに戦場に身を置く剣術道場の道場主・鷲尾兵士郎(仲野)の2人を軸に、戊辰戦争のさなか旧幕府軍VS新政府軍の戦いに巻き込まれていく人々の葛藤を集団抗争時代劇として描く。
今作への出演決定までの経緯を、鞘師は「光のような速さだった」と表現する。
「監督との面談の機会をいただき、自分の人生についてざっくばらんにお話させていただきました。手応えはそんなになかったのですが、その日のうちに出演が決まって、光のような速さを感じました。このスケール感の作品に突然飛び込む形になったので、公開を迎える今も、“本当に出たのかな?”と夢心地の部分も正直あります」
そんな鞘師が演じたのは、一筋縄ではいかない罪人集団のひとりで、罪状が火付けの女性・なつ。決死隊唯一の女性だ。
「人のことを放っておけない、人を愛することができる女性である一方、人を愛せるけど自分がほしかった愛情は十分に受けられていなかったのかなと。なつは自分が信じられると思った人に裏切られて罪を犯してしまったのではないかなと思います。だからこそ周りを支えようとしたり気にかけていたり、とても愛情深い人だなと思います」
なつ役は「決して演じやすくはなかった」と口にするも、共感できる想いもあったという。
「時代も経験も私となつでは全然違いますが、信じたものが急に折られてしまったときの絶望感とか、信じてきた道からは外れてしまっても人生をやり直そうと戦う姿とか、そこに向かっていく気持ちには共感できる部分がありました。私の経験からなつを支えてあげられるようにという想いで演じました」
男性キャスト中心の撮影現場では、親交のある仲野の気づかいやともに戦う仲間たちの姿に支えられたと感謝する。
「仲野さんは、私が休業から復帰したときに初めて出演させていただいたドラマで主演をされていて、支えていただいた思い出があります。今回も、賊軍は私以外みんな男性でしたが、仲野さんが率先して声をかけてくださいました。笑いあったり、疲れたりする時間をみなさんで共有する姿を俯瞰的に見て、自然となつの気持ちになりました。撮影の苦楽をともにできた素敵な時間でした」
映画の完成度を「アクションも多くて見応えのある作品になっています」と自信をのぞかせ、「たくさんの方に届いてほしいと願っております」と呼びかける。
「賊、悪と呼ばれている人たちが、境遇はそれぞれ違う中、もう一度自分の人生を取り戻すため一致団結して戦います。真っ直ぐに生きる人たちを見守っていただきたい。その中で男性たちに負けないで、そこに存在するなつの生き様にも注目して観ていただければうれしいです」
■モーニング娘。卒業後の9年は「充実」
モーニング娘。のエースとして活躍した鞘師がグループを卒業したのが2015年。約9年の月日が流れたが、鞘師本人も「もうそんなに経つんですね。あっという間に感じます。少しは成長しているかな(笑)」と茶目っ気たっぷりな表情を浮かべる。
「お仕事を始めてから“自分のイメージを固めなければ”という意識が強くて、そこをはっきりさせることに集中していました。今は、その考え方を取り外して、“選択肢は自由にある”という意識が持てるようになってきました」
その境地にたどり着くまでに、「やりたいことを口に出すのも恥ずかしかった時期もあった」と明かす。
「10代の頃に一度突き詰めてしまったため、活動を広げるのが怖くなっていました。26歳になった今は、逆にもう“自由すぎてどこから選ぼう”と迷うくらいやりたいことがありますし、どれを選ぼうかと悩みます。自由になったのは良いことも悪いこともありますけど、良い形で活動できているのでは。それは考え方の成長かなと思います」
変化のきっかけは周囲のサポートなどもあるが、大きな転機のひとつになったのは海外留学だった。
「海外留学で視野が広がったなと感じます。でも、大きな選択をすることで迷惑をかけてしまう部分もありました。“ごめんなさい”という気持ちはもちろんありますが、選択して良かったと言える“今”を過ごせています。すべてがつながって“今”があると思っています。(卒業してからの)この9年も、充実していたことには間違いないです」
2020年9月に芸能活動を本格的に再開してから4年。ソロ活動を通じて、捉え方や向き合い方の「種類が変わった」としつつ、「気楽さとプレッシャーはどちらもありますが、楽しいを更新できていると思います」と笑顔を見せる。
■俳優として“修行中”も「役名で認識されたい」 松岡茉優との共演願望は?
現在はアーティストとしてだけでなく、俳優としても活動の場を広げているが、当初は俳優業に「あまり積極的な気持ちではなかった」という。
「ある時期、いろんな方から『お芝居をやった方がいいのでは』と言っていただくことがあって。機会を与えていただいたのに拒否する理由はありません。もともと好奇心旺盛な性格ですし、チャレンジさせていただきました」
俳優としてもキャリアを重ねる中で変化を実感している。
「最初は苦しかったけど、“これで合っているのだろうか”といった、わからなさがおもしろいとお芝居を始めて感じました。まだ修行中ですが、どんどん楽しくなってきているところです」
表現の“軸”を聞くと、「作品がどう届くかが重要」と前置きし、「どう考えてお芝居をするかとか曲を作る過程とかを楽しむ、おもしろがることが活動の重要な部分かなと思います」と持論を述べる。
俳優としての夢に関しては、“代表作”、“当たり役”への想いを口にする。
「鞘師里保として見てくれているのはもちろんうれしいことですが、たとえば“『十一人の賊軍』のなつの人”のように、役名を通して私を認識してもらえることが夢です」
共演してみたい俳優はという質問に、「ご一緒できてよかったなという方ばかりなので、誰かに絞るのは難しい」と頭を悩ませつつ、「満島ひかりさん。さらにさらに見続けたいお芝居をされる、素敵な方だなという印象が強いです」と答える。
自身を“推し”と公言する松岡茉優はと投げかけると、「尊敬できる部分しかない方ですけど、お互いどう接したらいいかわからなくなると思います」と照れ笑い。そして松岡と“芝居談義”を交わしたことを明かす。
「吸収できるところばかりなので、ご一緒させていただけるならうれしい。ただどうやって一緒に過ごそうかな(笑)。実は今回の映画の撮影をしている間に、松岡さんとお仕事させていただく機会があって、そのときにお芝居について相談させていただきました。作品では共演はしていませんが、すでに刺激をいただいています」
■音楽&俳優活動に加えて新たな表現方法への熱意も
現在26歳…20代後半に突入した。30歳という年齢について「現実味は少しずつ増している気がします。いつもじゃないですけど、たまにあせる気持ちになるときも」と率直な心境を語る。
「人間として成長しなければいけないとか、“今”の瞬間が一番若いので体が動くときにもっとできることはないのかなとか考えていますね」
自身を「人生設計みたいなものをあまりしたくないタイプ」とするも、30歳までに「切り替え下手」を克服したいと密かな目標を立てる。
「興味を持っていることを最大限していくために、どうやりくりしていくかは見つめていかなきゃいけないのかなと。時間配分をうまくできるようになりたい。時間があったとしても、お芝居のことを考えたり反省したりに時間を使ってしまって……。振り返るのは良いことですけど、ただ落ち込んでいるだけのときもあるので、もっと切り替えが上手くなりたいです」
忙しい日々を送る中、もっとも幸せを感じる時間はどんなときだろうか。
「家にどんなインテリアや雑貨をそろえようか考えているときが一番楽しいです。この間、ソファの角度を変えたのですが、家で過ごすのがますます楽しくなってきて。今日はどんなものを料理しようかなとか、日常や生活に近いことを考えるのがワクワクします」
今後の活動については、「音楽活動も、お芝居も続けていきたい」と意気込み、さらに「商品開発をしてみたい」と新たな表現方法にも思いをはせる。
「生活に関わるグッズを考えたり、自分が好きな食べ物、飲み物を開発してみたりしたい。ただ今はいただけている機会に飛び込んだりチャレンジしたりという段階なので、とにかくお芝居と歌を着実に前に進めていけるようにがんばりたいです」
取材・文:遠藤政樹
撮影:山崎美津留
★YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」
2024/10/26