先日、エステ店でHIFU(ハイフ)施術を受けた女性がやけどを負い、運営企業を提訴したニュースが話題に。ハイフとは、たるみ改善や痩身効果を得るための施術であり、美容に興味のある人にとってはわりと身近なもの。ただ、気軽に施術を受けてしまったことで、このような事態になるとは…。何が問題だったのか? また、ユーザーが気を付けるべき点は?クリニックフォア監修医兼ナチュラルスキンクリニック院長の皮膚科専門医・圓山尚先生に話を聞いた。
■違法にも関わらず一種の無法地帯に、「いつか問題になるだろうと思っていた」
HIFU(ハイフ)とはリフトアップの施術のひとつで、高密度の超音波エネルギーを使った施術。たるみのもとになる肌、皮下組織のゆるみに対して、肌の土台となる筋膜であるSMAS層からアプローチできる治療方法で、20代後半から30代の女性に人気がある。
ただ、エステサロンなどでの施術により、トラブルが増加。先日報道された女性も、エステ店でHIFUの施術を受け、ふとももに第2〜第3度のやけどを負ったとのこと。女性は、医療免許を持たないエステティシャンの施術が原因だとし、運営企業に対して損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴。HIFU施術は今年6月、厚生労働省が医師免許を持たない者が行えば医師法(第17条)に違反すると通知したばかりだった。
――この問題について、皮膚科専門医としてはどのように受け取りましたか?
「いつかどこかで問題になるだろうと思っていました。HIFUは超音波を一点に集中させ、60度から70度くらいの熱を加えることにより、たるみを解消する施術。ちょうど『生肉が焼けると縮む』という状態と同様で、超音波を当てていけばその向きに沿って肉が縮むというメカニズムになっています」
――生肉が…なるほど、わかりやすいです。
「もともとはドクターのみが行う高価な施術だったのですが、機器の進化により、エステ業界でも比較的安価に施術可能となりました。ただその結果、やけどなどの苦情が消費生活センターに続々と入る事態になって、この6月に規制されたという流れです。つまり、エステサロンによるHIFU施術は現在は違法にも関わらず、エステ業界に広まりすぎて一種の無法地帯になっていたと言えると思います」
――先生は以前も「皮膚の知識が少ない美容皮膚科に注意」とおっしゃっていましたが、機器が発達しても危険はあると。
「そうですね。HIFUは筋膜組織や皮下脂肪の層を狙い、超音波を一点に集中させて照射しますが、浅すぎると熱で皮下組織が縮んでしこりにようになることもあります。こうなると戻すのは困難ですし、肌が乾燥しているとやけどになりやすい。こうしたトラブルも起こり得る施術なので、専門医が携わった方が安心と言えます」
――患者それぞれ体質や肌質も影響するんですね。
「皮膚の薄さは目の周りと頬でも全然違います。どの部位も同じ深さで超音波を照射していくと、場合によってはやけどが起きることもあります。ニキビや色素沈着、シミがある場所は避けるなど、肌の状態によっても使い分けなければなりません。さらに、リフトアップしようと頬に施術したところ、頬の下が痩せこけたようになってしまった…というトラブルも。そもそも、患者さんに皮膚疾患などがある場合に『施術をやめる』という判断も、知識がなければできません」
――先述のニュースでは、この女性は真皮に第2度、その内側に第3度のやけどを負ったとのこと。これは皮膚科で治療しても、痕は残ってしまうレベルですよね。
「はい。やけどは1度から3度まであり、2度になると水ぶくれが起きます。2度でも細分化されており、深いものになるとえぐれたり引き攣れたように見えることも。そうなると、一生痕が残ってしまいます。3度までいくと、別のどこかの皮膚を植皮するレベルなので、相当深刻な状況です」
■ハイフ施術、どう選べば? 患者側も「同じ金額なら強い照射を!」はNG
――やはり、皮膚の知識のある専門医やクリニックのほうが安心ですね。
「とはいえ、医療機関だからといって絶対にやけどが起きない…というわけではなく、トラブルや合併症を起こすこともあり得ます。なので、事前の説明や術後のフォローがしっかりしていて、患者さんに真摯に向き合ってくれる医療機関にかかるのが一番いいです」
――この女性は施術中に「熱い」と言ったのに、エステティシャンは「いつも通りだから」と施術を続けたそうです。
「言語道断ですね。患者さんに注意を促すとしたら、デフォルトの強さで施術して問題が起きなかったからといって、高い効果を得るためにさらに強い出力を…というのは危険です。確かに強いほうが効果は高いですが、やりすぎは禁物。拘縮して痩せこけたイメージになることもあるので、攻めすぎず、適切な出力で施術するのが正解です」
――患者によっては、「同じ金額なら強い照射で高い効果を!」と思ってしまうこともありそうです。
「それはやめましょう。例えば1回目は弱めにして、それでトラブルが起きなければ2回目はもう少し出力を上げて…という方法が一般的。最初から強い出力で行うことを了承する施術者がいるなら、注意が必要です。人によって、合併症を起こしやすかったり、皮膚がうすくかぶれやすいなどもあるので、安全第一で考えるのが良いです」
――施術される側も、あまり無理はしないほうがいいのですね。
「そうですね。また、医療機関で施術を受けるにしても、一般皮膚科に従事しているところのほうが良いでしょう。すでに規制によりエステでは施術はできませんが、なるべくしっかりとした皮膚の知識があり、その後のフォローにも真摯に向き合ってくれる医師を頼ることがトラブル回避につながると私は考えます」
【監修】
圓山 尚(えんやまたかし)
ナチュラルスキンクリニック院長兼クリニックフォア監修医。金沢医科大学医学部卒業後、日本医科大学附属病院皮膚科に入局し皮膚科・皮膚外科・レーザーを中心とした診療を行う。その後、湘南美容クリニックでの勤務を経て、2019年にクリニックフォア新橋院を開院。現在はクリニックフォア監修医と永福スキンクリニック(現ナチュラルスキンクリニック)の院長を務め、”美のかかりつけ医”として活動している。
(文:衣輪晋一)
■違法にも関わらず一種の無法地帯に、「いつか問題になるだろうと思っていた」
HIFU(ハイフ)とはリフトアップの施術のひとつで、高密度の超音波エネルギーを使った施術。たるみのもとになる肌、皮下組織のゆるみに対して、肌の土台となる筋膜であるSMAS層からアプローチできる治療方法で、20代後半から30代の女性に人気がある。
ただ、エステサロンなどでの施術により、トラブルが増加。先日報道された女性も、エステ店でHIFUの施術を受け、ふとももに第2〜第3度のやけどを負ったとのこと。女性は、医療免許を持たないエステティシャンの施術が原因だとし、運営企業に対して損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴。HIFU施術は今年6月、厚生労働省が医師免許を持たない者が行えば医師法(第17条)に違反すると通知したばかりだった。
――この問題について、皮膚科専門医としてはどのように受け取りましたか?
「いつかどこかで問題になるだろうと思っていました。HIFUは超音波を一点に集中させ、60度から70度くらいの熱を加えることにより、たるみを解消する施術。ちょうど『生肉が焼けると縮む』という状態と同様で、超音波を当てていけばその向きに沿って肉が縮むというメカニズムになっています」
――生肉が…なるほど、わかりやすいです。
「もともとはドクターのみが行う高価な施術だったのですが、機器の進化により、エステ業界でも比較的安価に施術可能となりました。ただその結果、やけどなどの苦情が消費生活センターに続々と入る事態になって、この6月に規制されたという流れです。つまり、エステサロンによるHIFU施術は現在は違法にも関わらず、エステ業界に広まりすぎて一種の無法地帯になっていたと言えると思います」
――先生は以前も「皮膚の知識が少ない美容皮膚科に注意」とおっしゃっていましたが、機器が発達しても危険はあると。
「そうですね。HIFUは筋膜組織や皮下脂肪の層を狙い、超音波を一点に集中させて照射しますが、浅すぎると熱で皮下組織が縮んでしこりにようになることもあります。こうなると戻すのは困難ですし、肌が乾燥しているとやけどになりやすい。こうしたトラブルも起こり得る施術なので、専門医が携わった方が安心と言えます」
――患者それぞれ体質や肌質も影響するんですね。
「皮膚の薄さは目の周りと頬でも全然違います。どの部位も同じ深さで超音波を照射していくと、場合によってはやけどが起きることもあります。ニキビや色素沈着、シミがある場所は避けるなど、肌の状態によっても使い分けなければなりません。さらに、リフトアップしようと頬に施術したところ、頬の下が痩せこけたようになってしまった…というトラブルも。そもそも、患者さんに皮膚疾患などがある場合に『施術をやめる』という判断も、知識がなければできません」
――先述のニュースでは、この女性は真皮に第2度、その内側に第3度のやけどを負ったとのこと。これは皮膚科で治療しても、痕は残ってしまうレベルですよね。
「はい。やけどは1度から3度まであり、2度になると水ぶくれが起きます。2度でも細分化されており、深いものになるとえぐれたり引き攣れたように見えることも。そうなると、一生痕が残ってしまいます。3度までいくと、別のどこかの皮膚を植皮するレベルなので、相当深刻な状況です」
■ハイフ施術、どう選べば? 患者側も「同じ金額なら強い照射を!」はNG
――やはり、皮膚の知識のある専門医やクリニックのほうが安心ですね。
「とはいえ、医療機関だからといって絶対にやけどが起きない…というわけではなく、トラブルや合併症を起こすこともあり得ます。なので、事前の説明や術後のフォローがしっかりしていて、患者さんに真摯に向き合ってくれる医療機関にかかるのが一番いいです」
――この女性は施術中に「熱い」と言ったのに、エステティシャンは「いつも通りだから」と施術を続けたそうです。
「言語道断ですね。患者さんに注意を促すとしたら、デフォルトの強さで施術して問題が起きなかったからといって、高い効果を得るためにさらに強い出力を…というのは危険です。確かに強いほうが効果は高いですが、やりすぎは禁物。拘縮して痩せこけたイメージになることもあるので、攻めすぎず、適切な出力で施術するのが正解です」
――患者によっては、「同じ金額なら強い照射で高い効果を!」と思ってしまうこともありそうです。
「それはやめましょう。例えば1回目は弱めにして、それでトラブルが起きなければ2回目はもう少し出力を上げて…という方法が一般的。最初から強い出力で行うことを了承する施術者がいるなら、注意が必要です。人によって、合併症を起こしやすかったり、皮膚がうすくかぶれやすいなどもあるので、安全第一で考えるのが良いです」
――施術される側も、あまり無理はしないほうがいいのですね。
「そうですね。また、医療機関で施術を受けるにしても、一般皮膚科に従事しているところのほうが良いでしょう。すでに規制によりエステでは施術はできませんが、なるべくしっかりとした皮膚の知識があり、その後のフォローにも真摯に向き合ってくれる医師を頼ることがトラブル回避につながると私は考えます」
【監修】
圓山 尚(えんやまたかし)
ナチュラルスキンクリニック院長兼クリニックフォア監修医。金沢医科大学医学部卒業後、日本医科大学附属病院皮膚科に入局し皮膚科・皮膚外科・レーザーを中心とした診療を行う。その後、湘南美容クリニックでの勤務を経て、2019年にクリニックフォア新橋院を開院。現在はクリニックフォア監修医と永福スキンクリニック(現ナチュラルスキンクリニック)の院長を務め、”美のかかりつけ医”として活動している。
(文:衣輪晋一)
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2024/09/19