今夏も記録的な猛暑が続き、熱中症予防の観点から塩分補給を主とした商品が多く市場に出回っている。そうした中、SNSでは100%梅肉とシソを凍結乾燥したタブレットの『梅干し純』(アサヒグループ食品)に、173.5万件の反響が寄せられた。1976年から愛され続ける同商品の位置づけは、嗜好品としての“お菓子”。他方、自衛隊でも配布される「凍結乾燥梅肉粒」の民生品でもある本商品について、製造販売元のアサヒグループ食品・森野祐希さんに聞いた。
◆前年比3割増の売上急伸 1970年代終盤より自衛隊行軍時の塩分補給食として必携品
今夏も記録的な猛暑が続く中、Xでの「夏場の登山には塩飴や塩タブレットを持って行ってる方も多いと思いますが、『梅干し純』おすすめです。自衛隊で配布される『凍結乾燥梅肉粒』の民生品で100%梅肉とシソを凍結乾燥したタブレットです。1箱24粒で4粒ごとにフィルムに入ってます。軽いし嵩張らないので良いですよ」という投稿に173万件の反響が寄せられた。
『梅干し純』は1976年(昭和51年)に発売された100%梅肉とシソを凍結乾燥したタブレット。自衛隊で配布される「凍結乾燥梅肉粒」は本商品であり、行軍時に失ったナトリウムを補給するために摂取する塩分補給食として、防衛省のWEBサイトでも必携品として紹介されている。
前述のポストだけではなく、過去にも定期的にSNSでバズり拡散されている。自衛隊御用達のタブレットの民生品であり、梅干しそのままという商品のインパクトの強さが、SNSでウケているようだ。森野さんによると、今回のXでの投稿だけで売上が伸びたかは明確ではないが、やはり夏場は売上が伸びるそうだ。加えて、近年の記録的な猛暑の影響で、本商品の機能性により注目が集まっているという。
「通年コンスタントに売れてはいますが、6〜8月の3ヵ月で年間出荷の4割を占めます。この5年間では、外出を控えたコロナ禍を除いて、右肩上がりで売り上げが伸びている。特に販促も行っていませんが、今年は前年比3割増と好調です」(森野さん)
◆梅をそのまま“お菓子”にしてブームに…手間もコストもかかり、特殊な製造過程から追従する企業もない
『梅干し純』は、商品内容だけでなく、パッケージのロゴやデザインまでほぼ発売当初のまま。時代を超えて50年近く愛され続けているロングセラーだ。その開発背景を聞くと、森野さんは「コンセプトはいつでもどこでも気軽に梅干しを食べられること」と語る。
「梅干し好きのためのお菓子として開発されました。なので、梅干しそのもののおいしさと同時に、塩分補給に限らず、クエン酸などの酸も含めて疲労回復効果や夏バテ予防のイメージもあり、体に良い。梅干しそのものの健康的な商品にすることがベースにあり、夏場にとくにお勧めの商品として捉えていました。当時の社内報には、本品2粒で梅干し果肉1個分という記載が残っていますが、思想を含めて梅干しそのままのお菓子を作ろうとしていました」(森野さん)
そのこだわりが梅肉100%の凍結乾燥お菓子へとつながる。それは当時でも珍しい商品だった。特別な技術が必要であり、容易に製造し続けられるものではなかったことから、唯一無二のロングセラーとなっていく。
「梅を粉末化してタブレットを成形する際に、塩分濃度が非常に濃く、pH値も高いので、湿気を吸収しやすく打ち固めが難しい。特殊な技術を用いた上で、今でも職人の手仕事で調整をしながら生産しています」(森野さん)
発売当初、嗜好品としてブームになったが、特殊な製造過程から追従する企業も見られなかった。
「通常の食品製造機は鉄でできていますので、塩分濃度が高いと機械が錆びてしまいます。また、紀州産の梅干しを使用しているため、原価が市場に左右されます。特殊な生産技術が必要の上に、手間もコストもかかるため、他社の追従もなかったのかもしれません」
◆山登りや乗り物酔い、炎天下での作業の必需品に…競争の激しい市場で時代を超えて愛されるワケ
流行り廃りの激しいお菓子市場で50年近くに渡って愛され続けているが、その背景には、もともとの商品力の高さがあるだろう。SNSでバズることもたびたびあり、若い世代への認知度も高い。昭和世代だけでなく、平成、令和へと愛好者が途切れていないのだ。同社には、本商品が好きで入社した30代の社員もいるという。森野さんは時代を超える本商品の人気の理由を「梅干しそのものだから」と語る。
「梅干しは日本人の食生活になくてはならないもの。梅のお菓子自体はけっこうたくさんあり、根強い人気があります。そのなかでも、塩味と酸味が強く嗜好性が高い、また機能性が高い商品の特徴によって、ロングセラー商品になっています」(森野さん)
一方、SNSでは「この炎天下、台車メインで配達している運送業の自分もこれです。塩飴や塩タブレットよりも、暑いなか食欲が復活してくれて、しっかりと食事ができているので、夏バテ防止になっている感じがあります」といったコメントも見られる。
加えて、「山登りの塩分補給」や「乗り物酔いの時にすっきりするから旅行に持っていく」という声もあり、さまざまなシーンの必携アイテムとしてポジショニングされる商品性が、長く愛される理由になっていることもうかがえる。
◆栄養補給的な機能は高いが、あくまで“お菓子”の位置づけ
記録的な猛暑が続く近年は、塩飴や塩タブレットといった塩分補給商品が増えており、商品ニーズが上昇するのと同時に市場競争は厳しくなっている。しかし、森野さんはマーケット動向をポジティブに捉える。
「今後も暑さは増していくでしょう。その観点から、熱中症予防の手段が増えるのは消費者にとって良いことです。どのくらいの塩分摂取が必要になるかは、時と場合や、人によっても違います。なので、多くのバリエーションの商品があり、ニーズもさまざまです。
そんな中、本商品は塩分6割以上で、1粒で0.3グラム相当の塩分を摂れます(成人1人あたり1日に必要な塩分量は5グラムほど)。休憩などの短い時間にさっと塩分を摂取したい方や、あのしょっぱい口当たりを好む方に選んでいただく機会は増えています」(森野さん)
1970年代終盤から自衛隊に「凍結乾燥梅肉粒」として納入していることも、その機能性の高さがお墨付きになっているが、森野さんは「完全にお菓子の位置づけです」という。
これまでの歴史から、鉄道系の小売店や老舗の調剤薬局などが流通のメインになる。箱入りタイプの場所が取られる包装形態のため、コンビニでの販売は一部に限られている。昨今ではECサイトでの購入が増えているが、消費者との接点になる新しいルートの開拓も検討中で、森野さんは「100年販売し続けていきたい」と意気込む。
日本人に親和性の高い梅干しを手軽に食べられる本商品の需要は、時代が変わっても決して消えることはないだろう。加えて、その味のしょっぱすぎるインパクトが、売りになっており、沼から抜け出せない人が多いことは市場が示している。塩分やアミノ酸の補給といった機能性を含めて、地球環境の変化が続くこれからの時代に、体が必要とする普遍的なお菓子として、そのニーズはより高まっていきそうだ。
(文/武井保之)
◆前年比3割増の売上急伸 1970年代終盤より自衛隊行軍時の塩分補給食として必携品
今夏も記録的な猛暑が続く中、Xでの「夏場の登山には塩飴や塩タブレットを持って行ってる方も多いと思いますが、『梅干し純』おすすめです。自衛隊で配布される『凍結乾燥梅肉粒』の民生品で100%梅肉とシソを凍結乾燥したタブレットです。1箱24粒で4粒ごとにフィルムに入ってます。軽いし嵩張らないので良いですよ」という投稿に173万件の反響が寄せられた。
『梅干し純』は1976年(昭和51年)に発売された100%梅肉とシソを凍結乾燥したタブレット。自衛隊で配布される「凍結乾燥梅肉粒」は本商品であり、行軍時に失ったナトリウムを補給するために摂取する塩分補給食として、防衛省のWEBサイトでも必携品として紹介されている。
前述のポストだけではなく、過去にも定期的にSNSでバズり拡散されている。自衛隊御用達のタブレットの民生品であり、梅干しそのままという商品のインパクトの強さが、SNSでウケているようだ。森野さんによると、今回のXでの投稿だけで売上が伸びたかは明確ではないが、やはり夏場は売上が伸びるそうだ。加えて、近年の記録的な猛暑の影響で、本商品の機能性により注目が集まっているという。
「通年コンスタントに売れてはいますが、6〜8月の3ヵ月で年間出荷の4割を占めます。この5年間では、外出を控えたコロナ禍を除いて、右肩上がりで売り上げが伸びている。特に販促も行っていませんが、今年は前年比3割増と好調です」(森野さん)
◆梅をそのまま“お菓子”にしてブームに…手間もコストもかかり、特殊な製造過程から追従する企業もない
『梅干し純』は、商品内容だけでなく、パッケージのロゴやデザインまでほぼ発売当初のまま。時代を超えて50年近く愛され続けているロングセラーだ。その開発背景を聞くと、森野さんは「コンセプトはいつでもどこでも気軽に梅干しを食べられること」と語る。
「梅干し好きのためのお菓子として開発されました。なので、梅干しそのもののおいしさと同時に、塩分補給に限らず、クエン酸などの酸も含めて疲労回復効果や夏バテ予防のイメージもあり、体に良い。梅干しそのものの健康的な商品にすることがベースにあり、夏場にとくにお勧めの商品として捉えていました。当時の社内報には、本品2粒で梅干し果肉1個分という記載が残っていますが、思想を含めて梅干しそのままのお菓子を作ろうとしていました」(森野さん)
そのこだわりが梅肉100%の凍結乾燥お菓子へとつながる。それは当時でも珍しい商品だった。特別な技術が必要であり、容易に製造し続けられるものではなかったことから、唯一無二のロングセラーとなっていく。
「梅を粉末化してタブレットを成形する際に、塩分濃度が非常に濃く、pH値も高いので、湿気を吸収しやすく打ち固めが難しい。特殊な技術を用いた上で、今でも職人の手仕事で調整をしながら生産しています」(森野さん)
発売当初、嗜好品としてブームになったが、特殊な製造過程から追従する企業も見られなかった。
「通常の食品製造機は鉄でできていますので、塩分濃度が高いと機械が錆びてしまいます。また、紀州産の梅干しを使用しているため、原価が市場に左右されます。特殊な生産技術が必要の上に、手間もコストもかかるため、他社の追従もなかったのかもしれません」
◆山登りや乗り物酔い、炎天下での作業の必需品に…競争の激しい市場で時代を超えて愛されるワケ
流行り廃りの激しいお菓子市場で50年近くに渡って愛され続けているが、その背景には、もともとの商品力の高さがあるだろう。SNSでバズることもたびたびあり、若い世代への認知度も高い。昭和世代だけでなく、平成、令和へと愛好者が途切れていないのだ。同社には、本商品が好きで入社した30代の社員もいるという。森野さんは時代を超える本商品の人気の理由を「梅干しそのものだから」と語る。
「梅干しは日本人の食生活になくてはならないもの。梅のお菓子自体はけっこうたくさんあり、根強い人気があります。そのなかでも、塩味と酸味が強く嗜好性が高い、また機能性が高い商品の特徴によって、ロングセラー商品になっています」(森野さん)
一方、SNSでは「この炎天下、台車メインで配達している運送業の自分もこれです。塩飴や塩タブレットよりも、暑いなか食欲が復活してくれて、しっかりと食事ができているので、夏バテ防止になっている感じがあります」といったコメントも見られる。
加えて、「山登りの塩分補給」や「乗り物酔いの時にすっきりするから旅行に持っていく」という声もあり、さまざまなシーンの必携アイテムとしてポジショニングされる商品性が、長く愛される理由になっていることもうかがえる。
◆栄養補給的な機能は高いが、あくまで“お菓子”の位置づけ
記録的な猛暑が続く近年は、塩飴や塩タブレットといった塩分補給商品が増えており、商品ニーズが上昇するのと同時に市場競争は厳しくなっている。しかし、森野さんはマーケット動向をポジティブに捉える。
「今後も暑さは増していくでしょう。その観点から、熱中症予防の手段が増えるのは消費者にとって良いことです。どのくらいの塩分摂取が必要になるかは、時と場合や、人によっても違います。なので、多くのバリエーションの商品があり、ニーズもさまざまです。
そんな中、本商品は塩分6割以上で、1粒で0.3グラム相当の塩分を摂れます(成人1人あたり1日に必要な塩分量は5グラムほど)。休憩などの短い時間にさっと塩分を摂取したい方や、あのしょっぱい口当たりを好む方に選んでいただく機会は増えています」(森野さん)
1970年代終盤から自衛隊に「凍結乾燥梅肉粒」として納入していることも、その機能性の高さがお墨付きになっているが、森野さんは「完全にお菓子の位置づけです」という。
これまでの歴史から、鉄道系の小売店や老舗の調剤薬局などが流通のメインになる。箱入りタイプの場所が取られる包装形態のため、コンビニでの販売は一部に限られている。昨今ではECサイトでの購入が増えているが、消費者との接点になる新しいルートの開拓も検討中で、森野さんは「100年販売し続けていきたい」と意気込む。
日本人に親和性の高い梅干しを手軽に食べられる本商品の需要は、時代が変わっても決して消えることはないだろう。加えて、その味のしょっぱすぎるインパクトが、売りになっており、沼から抜け出せない人が多いことは市場が示している。塩分やアミノ酸の補給といった機能性を含めて、地球環境の変化が続くこれからの時代に、体が必要とする普遍的なお菓子として、そのニーズはより高まっていきそうだ。
(文/武井保之)
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2024/08/10