今年、X上で話題となった「風呂キャンセル界隈」という新たなネットスラング。その言葉通り、「お風呂に入るのが面倒」などの理由で入浴をキャンセル=入らないという意味だが、うつ病などの精神疾患が要因ではなく、ごく一般的な若者までもが自らそう称することが増え、小さな社会問題ともなっている。芸能界ですら、女性タレントが「お風呂に入らない」ことを公言するほどだ。ただでさえ暑く汗だくになる夏、衛生面の不安は当然だが、肌や頭皮に影響はないのだろうか。クリニックフォア監修医で、皮膚科専門医の圓山尚先生に聞いた。
■「風呂キャンセル」で皮膚炎やアカツキ病に、「がんかと思ったら…」という事例も
――最近では「風呂キャンセル界隈」という言葉が生まれるなど、「お風呂に入らない」若者も増えたと言います。これは皮膚にどんな影響を及ぼしますか?
「まずシンプルに言えることは、不潔ですね。特にこれからの季節は湿気も多く発汗も多くなります。汗はかいた直後はそこまで匂いませんが、数時間放っておくと酸化することで匂いの原因にもなります。その汗を洗い流さずそのままにしていると、雑菌の餌となってしまいます。特に皮脂の分泌が多い部位では、マラセチアというカビの菌が増殖し、脂漏性皮膚炎になる恐れがあります」
――脂漏性皮膚炎とは?
「マラセチアは皮脂を分解して酸に変えるのですが、その酸が皮膚を刺激し、赤みや湿疹が出たり、ふけが出たりします」
――お風呂に入らないことが、病気の原因になるのですね。
「なります。また、特に脇や股間など蒸れやすい場所も要注意。実際、営業マンの方が股間にかゆみを覚え、『性病でしょうか』と診察に来ることがあるんですが、脂漏性の湿疹だったりします。水虫もそうですが、蒸れると雑菌が湧きやすく、その上にお風呂やシャワーを浴びないというのはあまりいいこととは言えません」
――「風呂キャンセル」を長年続けていくと、どうなるのでしょうか。
「歳を取れば取るほど皮膚が薄くなり、かぶれやすくなります。若いうちはいいかもしれませんが、加齢後の肌に劣化が起こる可能性があります。また極端な話になりますが、アカツキ病という皮膚疾患にかかる可能性もなくはありません。これは垢が黒いウロコのように溜まって感染症を引き起こすもの。患者さんの中には、『がんかと思ったら単純にお風呂入っていないだけだった』という例もあります」
――「風呂キャンセル界隈」の人々の間ではボディシートで済ませる方もいるようです。
「使わないよりは使ったほうがいいですが、不完全です。また、スーッと爽快感があるものはアルコールやエタノールが入っていて、皮脂を取りすぎて乾燥してしまうことも。敏感肌の方はとくに刺激が強すぎてかぶれたり、湿疹が出たりもします」
――顔はいかがですか? 拭き取りシートなどもありますが。
「こちらもシートなどでは不完全ですし、乾燥してお肌が突っ張り、乾燥ジワの原因にもなりますね。顔は皮膚が薄く、とくに目の周りや口の周りはすぐに影響が出ます。赤いニキビのようなものがぽつぽつと出たり、目の周りがかぶれで黒ずんだり。若い女性で診察に来られる方が特に多いです」
――メイクをされる方が多いでしょうしね。
「男女問わず、メイクをするなら洗顔をしないと毛穴が詰り、にきびの原因になります。メイクは皮膚に異物を塗るということですから、それが汗や皮脂と一緒になって刺激物になることもあります」
■水を使わないシャンプーや湯シャン、「タモリ式入浴法」の是非は?
――女性は特に長い髪を乾かすのが面倒で「風呂キャンセル界隈」になる方もいるようですが、水を使わないシャンプーは効果がありますか?
「頭皮の皮脂に関してのみ言えば、頭皮を指の腹でもみこむようにマッサージするなど正しい洗い方をしっかりしていれば問題はないでしょう」
――シャンプーといえば、「湯シャン」(シャンプーを使わずお湯のみで髪を洗うこと)がいいということもよく聞かれるのですが。
「シャンプーには界面活性剤が入っており、食器洗い洗剤と同じように洗浄力は優れているのですが、乾燥肌や敏感肌の方は皮脂が取れすぎてかぶれやすくなることはあります。つまり、皮脂の分泌が多い方ならばシャンプーを使ったほうがいいですし、乾燥肌や敏感肌かつ整髪料もつけない方であれば湯シャンでも大丈夫。ケースバイケースです。ただ、人間は50〜60代まで皮脂が増え続けることは覚えておいてください」
――また、「タモリ式入浴法」というものもあり。湯船に20分以上つかれば汚れは大概落ちるので、あとは脇や股間を洗うだけ。あまりゴシゴシすると皮脂が落ちすぎる…という話があるのですが、医学的にはどうですか?
「これもまた、“人による”が答えだと思います。確かに洗いすぎは良くなくて、かぶれにつながることもあります。ヘチマなどを使ってゴシゴシ洗いすぎた結果、皮膚がただれた方も診たことがあります。乾布摩擦にしても、とにかく乱暴すぎるのは良くない。やりすぎず、でも弱すぎずを、ご自身の体質に合わせて実践していただくのが一番です。皮脂が多い方はやはり全身洗った方がいいですし、最もいい入浴法は個人個人、自分なりに見つけていくことをおすすめします」
【監修】
圓山 尚(えんやまたかし)
クリニックフォア監修医。金沢医科大学医学部卒業後、日本医科大学附属病院皮膚科に入局し皮膚科・皮膚外科・レーザーを中心とした診療を行う。その後、湘南美容クリニックでの勤務を経て、2019年にクリニックフォア新橋院を開院。
(文:衣輪晋一)
■「風呂キャンセル」で皮膚炎やアカツキ病に、「がんかと思ったら…」という事例も
――最近では「風呂キャンセル界隈」という言葉が生まれるなど、「お風呂に入らない」若者も増えたと言います。これは皮膚にどんな影響を及ぼしますか?
「まずシンプルに言えることは、不潔ですね。特にこれからの季節は湿気も多く発汗も多くなります。汗はかいた直後はそこまで匂いませんが、数時間放っておくと酸化することで匂いの原因にもなります。その汗を洗い流さずそのままにしていると、雑菌の餌となってしまいます。特に皮脂の分泌が多い部位では、マラセチアというカビの菌が増殖し、脂漏性皮膚炎になる恐れがあります」
――脂漏性皮膚炎とは?
「マラセチアは皮脂を分解して酸に変えるのですが、その酸が皮膚を刺激し、赤みや湿疹が出たり、ふけが出たりします」
――お風呂に入らないことが、病気の原因になるのですね。
「なります。また、特に脇や股間など蒸れやすい場所も要注意。実際、営業マンの方が股間にかゆみを覚え、『性病でしょうか』と診察に来ることがあるんですが、脂漏性の湿疹だったりします。水虫もそうですが、蒸れると雑菌が湧きやすく、その上にお風呂やシャワーを浴びないというのはあまりいいこととは言えません」
――「風呂キャンセル」を長年続けていくと、どうなるのでしょうか。
「歳を取れば取るほど皮膚が薄くなり、かぶれやすくなります。若いうちはいいかもしれませんが、加齢後の肌に劣化が起こる可能性があります。また極端な話になりますが、アカツキ病という皮膚疾患にかかる可能性もなくはありません。これは垢が黒いウロコのように溜まって感染症を引き起こすもの。患者さんの中には、『がんかと思ったら単純にお風呂入っていないだけだった』という例もあります」
――「風呂キャンセル界隈」の人々の間ではボディシートで済ませる方もいるようです。
「使わないよりは使ったほうがいいですが、不完全です。また、スーッと爽快感があるものはアルコールやエタノールが入っていて、皮脂を取りすぎて乾燥してしまうことも。敏感肌の方はとくに刺激が強すぎてかぶれたり、湿疹が出たりもします」
――顔はいかがですか? 拭き取りシートなどもありますが。
「こちらもシートなどでは不完全ですし、乾燥してお肌が突っ張り、乾燥ジワの原因にもなりますね。顔は皮膚が薄く、とくに目の周りや口の周りはすぐに影響が出ます。赤いニキビのようなものがぽつぽつと出たり、目の周りがかぶれで黒ずんだり。若い女性で診察に来られる方が特に多いです」
――メイクをされる方が多いでしょうしね。
「男女問わず、メイクをするなら洗顔をしないと毛穴が詰り、にきびの原因になります。メイクは皮膚に異物を塗るということですから、それが汗や皮脂と一緒になって刺激物になることもあります」
■水を使わないシャンプーや湯シャン、「タモリ式入浴法」の是非は?
――女性は特に長い髪を乾かすのが面倒で「風呂キャンセル界隈」になる方もいるようですが、水を使わないシャンプーは効果がありますか?
「頭皮の皮脂に関してのみ言えば、頭皮を指の腹でもみこむようにマッサージするなど正しい洗い方をしっかりしていれば問題はないでしょう」
――シャンプーといえば、「湯シャン」(シャンプーを使わずお湯のみで髪を洗うこと)がいいということもよく聞かれるのですが。
「シャンプーには界面活性剤が入っており、食器洗い洗剤と同じように洗浄力は優れているのですが、乾燥肌や敏感肌の方は皮脂が取れすぎてかぶれやすくなることはあります。つまり、皮脂の分泌が多い方ならばシャンプーを使ったほうがいいですし、乾燥肌や敏感肌かつ整髪料もつけない方であれば湯シャンでも大丈夫。ケースバイケースです。ただ、人間は50〜60代まで皮脂が増え続けることは覚えておいてください」
――また、「タモリ式入浴法」というものもあり。湯船に20分以上つかれば汚れは大概落ちるので、あとは脇や股間を洗うだけ。あまりゴシゴシすると皮脂が落ちすぎる…という話があるのですが、医学的にはどうですか?
「これもまた、“人による”が答えだと思います。確かに洗いすぎは良くなくて、かぶれにつながることもあります。ヘチマなどを使ってゴシゴシ洗いすぎた結果、皮膚がただれた方も診たことがあります。乾布摩擦にしても、とにかく乱暴すぎるのは良くない。やりすぎず、でも弱すぎずを、ご自身の体質に合わせて実践していただくのが一番です。皮脂が多い方はやはり全身洗った方がいいですし、最もいい入浴法は個人個人、自分なりに見つけていくことをおすすめします」
【監修】
圓山 尚(えんやまたかし)
クリニックフォア監修医。金沢医科大学医学部卒業後、日本医科大学附属病院皮膚科に入局し皮膚科・皮膚外科・レーザーを中心とした診療を行う。その後、湘南美容クリニックでの勤務を経て、2019年にクリニックフォア新橋院を開院。
(文:衣輪晋一)
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2024/07/25