日々話題を集めるエンタメニュースも、経済目線で知ればもっと面白くなる。そこで『ORICON NEWS』は、エンタメをこよなく愛する経営コンサルタント・坂口孝則氏に、エンタメにまつわるニュースを経済視点で解説してもらう企画『オリコンエンタメビズ』を連載中。今回は、4週連続で興収1位(8日時点)を記録しているホラー映画『変な家』のプロモーション手法について解説してもらった。一部ネタバレあり。
■映画『変な家』とは『家の変』である。
鑑賞後に、こんな言葉遊びを述べたくなりました。「変」とは「おかしい」という意味だけではなく、「本能寺の変」のように異常な事件も指します。つまり“変な”家の間取りという舞台を使った面白い設定だけで、大ヒットを飛ばしてしまった“事件”のようにも感じるのです。
映画『変な家』は作家・雨穴(うけつ)さんのYouTube動画をもとにしたホラー映画です。映画では、オカルト関連の動画クリエイターが主人公で、たまたま中古住宅物件の間取りを目にしたシーンから物語がはじまります。建築士の仲間とともに、その奇妙で変な間取りの真実を探すうちに、ある地方にある名家と過去の哀しい事件や習俗に巻き込まれていく…というストーリーです。
原稿の執筆時点では興行収入が34億5900万円と大ヒットを記録しています。ここから、映画『変な家』を題材に現在のプロモーションを考えていきます。
(1)若年層の事前周知コンテンツの作品化
同作品は公開が決まったときから、私の小学生の息子(小学6年生と2年生)が連れて行ってほしいと懇願していました。さらに長男は友達とも観に行きましたからね。何より長男はYouTubeで何度も見ており、さらに書籍も全作を読破していました。
また、このところのコンテンツはYouTubeやTikTokを通じて若年層に膾炙(かいしゃ)しているケースが多々あります。これは見方を変えれば、確率論の母数を増やす試みといえます。これまでマンガ誌で無数のマンガが発表されては、そのたった数パーセントのみがヒットしていきました。
正直、どれがヒットするかは出してみないとわからない。ただ多数の作品のなかで一定の確率でヒットする。かつてはそれがアニメ化や映画化されていました。その母数がSNSに広がってきたと見ることができます。
つまり、これからSNSで物語やストーリーを公開し、無数の人に広がったら、それが映画等の元ネタになる選択肢が広がっているのです。数年で、Google「Vids」、OpenAI「Sora」など動画生成AIが一般化すると、この流れは加速していくでしょう。
(2)ファミリーマーケティング
映画『変な家』では主人公が原作の、雨穴さんとはやや違ったフォルムのマスクを着しています。米映画『スクリーム』的マスクです。このマスクを見た時点で、映画『変な家』ではこの後に殺人事件が起きるのだな、と示唆されています。
また、スクリームはムンクの叫びに影響を受けていることは知られており、あの絵は恐怖に耐えられずに耳をふさいでいるのも有名です。映画『変な家』では音を使った演出が恐怖を煽ります(なお、このわかりやすさも若年層にウケている理由でしょう)が、耳をふさぐ前フリだったわけです。
さらにわかりやすいのは、角川映画の『犬神家の一族』『八つ墓村』のオマージュが満載です。さすがに石坂浩二さんが登場したときは笑いました。
またネタバレになるのですが、映画『変な家』では左手の切断が重要な意味をもちます。ブルーハーツの名曲「僕の右手」は、右手首を欠損した伝説のアーティストMASAMIさんをモチーフにしたのは有名で、右手とは「創造性」「創作」を暗喩します。それに対して、左手とは習俗的には凶事の意味さえあります。そこで左手をスプラッタ映画のように切断するとは…。
などともっと語れるでしょうが、私はそれらを説明したいのではありません。述べたいのは、親世代(もしくは春休みなので祖父母世代)が子どもを連れて映画館に行った際に、浅いウンチクを語れるギミックにあふれている点です。タイミング的に、小中高生が友達同士でも行けるし、もしくは家族連れで行くこともできます。
友達同士ならばYouTubeや小説との差異を語れるかもしれません。家族連れの場合は、世代によって想起した元ネタを語ることができます。
なお正直に申しておけば、私はこの映画『変な家』を評価しているかというと微妙です。しかしヒットしている現実はあります。プロモーションとすれば、SNS等での事前周知、そしてファミリー層、若年層への訴求がうまくいく仕掛けに溢れている点は大いに示唆的です。
まあ、私のように評価が微妙、という人にも語らせているんですから、SNSで批判している方々も、もはや『変な家』の『家の変』に巻き込まれているのでしょう。
■プロフィール
■映画『変な家』とは『家の変』である。
鑑賞後に、こんな言葉遊びを述べたくなりました。「変」とは「おかしい」という意味だけではなく、「本能寺の変」のように異常な事件も指します。つまり“変な”家の間取りという舞台を使った面白い設定だけで、大ヒットを飛ばしてしまった“事件”のようにも感じるのです。
映画『変な家』は作家・雨穴(うけつ)さんのYouTube動画をもとにしたホラー映画です。映画では、オカルト関連の動画クリエイターが主人公で、たまたま中古住宅物件の間取りを目にしたシーンから物語がはじまります。建築士の仲間とともに、その奇妙で変な間取りの真実を探すうちに、ある地方にある名家と過去の哀しい事件や習俗に巻き込まれていく…というストーリーです。
原稿の執筆時点では興行収入が34億5900万円と大ヒットを記録しています。ここから、映画『変な家』を題材に現在のプロモーションを考えていきます。
(1)若年層の事前周知コンテンツの作品化
同作品は公開が決まったときから、私の小学生の息子(小学6年生と2年生)が連れて行ってほしいと懇願していました。さらに長男は友達とも観に行きましたからね。何より長男はYouTubeで何度も見ており、さらに書籍も全作を読破していました。
また、このところのコンテンツはYouTubeやTikTokを通じて若年層に膾炙(かいしゃ)しているケースが多々あります。これは見方を変えれば、確率論の母数を増やす試みといえます。これまでマンガ誌で無数のマンガが発表されては、そのたった数パーセントのみがヒットしていきました。
正直、どれがヒットするかは出してみないとわからない。ただ多数の作品のなかで一定の確率でヒットする。かつてはそれがアニメ化や映画化されていました。その母数がSNSに広がってきたと見ることができます。
つまり、これからSNSで物語やストーリーを公開し、無数の人に広がったら、それが映画等の元ネタになる選択肢が広がっているのです。数年で、Google「Vids」、OpenAI「Sora」など動画生成AIが一般化すると、この流れは加速していくでしょう。
(2)ファミリーマーケティング
映画『変な家』では主人公が原作の、雨穴さんとはやや違ったフォルムのマスクを着しています。米映画『スクリーム』的マスクです。このマスクを見た時点で、映画『変な家』ではこの後に殺人事件が起きるのだな、と示唆されています。
また、スクリームはムンクの叫びに影響を受けていることは知られており、あの絵は恐怖に耐えられずに耳をふさいでいるのも有名です。映画『変な家』では音を使った演出が恐怖を煽ります(なお、このわかりやすさも若年層にウケている理由でしょう)が、耳をふさぐ前フリだったわけです。
さらにわかりやすいのは、角川映画の『犬神家の一族』『八つ墓村』のオマージュが満載です。さすがに石坂浩二さんが登場したときは笑いました。
またネタバレになるのですが、映画『変な家』では左手の切断が重要な意味をもちます。ブルーハーツの名曲「僕の右手」は、右手首を欠損した伝説のアーティストMASAMIさんをモチーフにしたのは有名で、右手とは「創造性」「創作」を暗喩します。それに対して、左手とは習俗的には凶事の意味さえあります。そこで左手をスプラッタ映画のように切断するとは…。
などともっと語れるでしょうが、私はそれらを説明したいのではありません。述べたいのは、親世代(もしくは春休みなので祖父母世代)が子どもを連れて映画館に行った際に、浅いウンチクを語れるギミックにあふれている点です。タイミング的に、小中高生が友達同士でも行けるし、もしくは家族連れで行くこともできます。
友達同士ならばYouTubeや小説との差異を語れるかもしれません。家族連れの場合は、世代によって想起した元ネタを語ることができます。
なお正直に申しておけば、私はこの映画『変な家』を評価しているかというと微妙です。しかしヒットしている現実はあります。プロモーションとすれば、SNS等での事前周知、そしてファミリー層、若年層への訴求がうまくいく仕掛けに溢れている点は大いに示唆的です。
まあ、私のように評価が微妙、という人にも語らせているんですから、SNSで批判している方々も、もはや『変な家』の『家の変』に巻き込まれているのでしょう。
■プロフィール
坂口孝則(さかぐち・たかのり)
1978年生まれ。福岡放送『めんたいワイド』(隔週)、TBSラジオ『日本リアライズpresents 篠田麻里子のGOOD LIFE LAB!』など出演。日本テレビ系『スッキリ』木曜コメンテーターも担当していた。趣味はメタルのライブに行くことで、音楽をこよなく愛する調達・購買コンサルタント、講演家。未来調達研究所株式会社所属。大阪大学経済学部卒業後、電気メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買に従業。現在は、製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書は『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『未来の稼ぎ方』『製造業の現場バイヤーが教える 調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買の教科書』など。直近で『買い負ける日本』(幻冬舎刊)を発売した。■エンタメニュースを“経済視点”で解説【オリコンエンタメビズ】
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2024/04/16