アニメ『SPY×FAMILY』シルヴィア役などで知られる声優・甲斐田裕子、『S.W.A.T.』シリーズ主人公役の咲野俊介、『機動戦士Ζガンダム』エマ・シーン役の岡本麻弥が共同代表を務める有志グループ「VOICTION」が、インボイス制度を説明したアニメーションを制作・公開した。完全自主制作となる本作はなぜ制作されたのか? インボイス制度が業界に与える影響はどのようなものか?甲斐田と咲野に聞いてみた。
――このアニメを作ることになった経緯を教えてください。
【咲野】 私たちはインボイス制度の導入に反対する有志の声優が集まっているチームですので、その活動の一環として議員に会いに行ったり周りの仲間たちへの周知活動を行ってきました。その中で、やはりどうしてもこの制度が複雑で理解が難しい。どうにか一般の人たちが受け入れ易く、且つ我々の本業を活かせるような方法はないかと模索していました。
そうしていたら、偶々メンバーの1人が過去に制作したキャラクターがあり、関係者に動画を作れる方が見つかり、そして「スピンノーツ」さんという収録スタジオをお持ちの企業さんが音声の編集をやってくださるという声を掛けてくださって、「これならできるぞ」と作り始めました。
――制作される中で印象に残っていることはありますか?
【甲斐田】 大変だったのはやっぱり最初の台本作りですね。制度があまりにも難しいので、かわいいキャラクターを使ってわかりやすくしようとするんだけど、そうするとどこまでも長くなってしまって…。私たちのTwitterでも何回かに分けて流せるようにしたいと思っていたので、台本作りにはかなり時間をかけたと思います。
【咲野】 逆にいうと、台本ができれば後は我々の本業ですから。収録は思ったよりもスムーズに進んだなと思います。
【甲斐田】 楽しかったよね。普段は同業者だとまずスタジオでお芝居を見て、それから仲良くなっていくことが多いんですが、VOICTIONではみんなの芝居を知らなかったから、ちょっとドキドキしました(笑)。でもみんなイメージ通りというか、うまくハマったものを作れたと思います。
【咲野】 新しい面を見せてくれる人もいましたね。「甲斐田裕子を探せ!」というのは一つの楽しみ方だと思います(笑)。
【甲斐田】 「インボイス」というと政治の話か、と思う方もいると思いますが、生活に直結する話なので、まずはこのアニメを見て制度について知って欲しいなと思っています。私たちは制度に反対していますが、アニメは明確に反対と謳っている訳ではなく「まずは知ろう」「一緒に考えよう」というスタンスで作っているので、これまで私たちが出演したアニメやドラマ・映画を楽しんでくれた方々が、ライトに見て知って、そして広めてくれるととても嬉しいなと思っています。
【咲野】 そういう意味では、ターゲットは「これまでのVOICTIONを知らない人」です。我々の活動を応援してくれる方たちにももちろん見てもらいたいですが、そこからもう一歩外に広がっていくことを望みます。
――そもそも「インボイス制度」とは、どのような制度でどういった問題があるのでしょうか?
【甲斐田】 インボイス制度は、消費税に関する新しい制度です。簡単にいうと民間での税金の押し付け合いです。フリーランスや小規模事業者である消費税免税事業者に仕事を依頼していた企業側が、相手が課税事業者になってくれないと納める消費税額が増えてしまうんです。そのため、これまで消費税を納めなくてよかった免税事業者たちが、課税事業者になることを迫られる場面が至る所で起こってしまいます。その影響で、声優やエンタメ業界だけでなく農家さんや一人親方、デザイナー、ライター、漫画家、アシスタント、ヨガインストラクター…その他ありとあらゆる分野で廃業するかもしれない人が多数出てしまうのです。
――それだけを聞いても一般の人間にはわかりづらいですね。
【咲野】 ですので、このアニメを見ていただきたいと(笑)。本当に複雑な制度なんです。一般の方は「仕入税額控除」なんて言葉、そうそう耳にしませんよね。私もそうでした。でもそんな複雑な制度を、全国で1000万人いると言われるフリーランス事業者たちが理解して登録しないといけないという、とんでもない難易度の制度なんです。しかも登録したら、消費税課税事業者になる。つまり、毎年の確定申告で消費税も別に申告して納めないといけないんですね。この計算式がまた非常に複雑で、青年税理士会はじめ税理士や弁護士の先生たちも「実現困難だ」と強く反対されています。
――ではその制度が始まったら、具体的に声優業界はどう変化していくと思われますか?
【咲野】 我々が昨年11月に行ったアンケートでは、現役声優の3割弱がこの制度をきっかけに廃業を検討していると答えました。70%以上の人が年商300万円以下であると回答していますが、仮に年商300万円の状態でインボイスが始まると、年間15万円程度の増税になるという試算もあります。(※現在日本で声優と呼ばれている人は1万人以上 VOICTION調べ)
【甲斐田】 元々声優は人気商売で、安定とは真逆にある仕事です。課税事業者、つまり1000万円以上稼げているのはほんの一部、アンケートでは5%程度しかいないと知って私も驚きました。声優歴10年目くらいのある声優に聞いたら、「先月とその前は月に30本以上仕事があったけど、今月は2本しかなかった」なんてことも起きる世界です。
誰もが耳にしたことがある声の持ち主でも、シリーズの番組が終わる節目だったり、自身のギャランティを上げたタイミングなんかでは本数が激変します。そもそもの単価がそう高くはないので、月に2本ではとても生活できません。数十本ある月と数本しかない月を交互に過ごして、年間で計算するとやっと300万円くらいになった、という人が中堅には多いのではないでしょうか。来年どころか来月の生活も見通せない中で、多大な事務負担や増税が見えてしまうと、心が折れてしまうのも仕方ないのかもしれません。
【咲野】 甲斐田も言った通り人気商売ですから。人気がなくて仕事がない、実力で淘汰されることは我々は納得済です。でも税制で選択肢を狭めるようなことは、果たして政府がやるべきことなのか、と思います。
――ですが昨今の声優ブームもあり志望者は大勢いますよね。業界の衰退という目線では、そこまで影響がないのではという声も聞こえます。
【甲斐田】 すぐに目に見えて何かが変わるということは、確かにないと思います。でも5年10年経ったときに業界の質がどうなっているか…。
【咲野】 私はバブルが弾けた直後に俳優業を始めたのですが、当時はまだバブルの残り香があって、ドラマなんかの今で言うエキストラのところも、俳優がキャスティングされていっぱしのギャラをもらってやっていたんです。ところが気が付いたらどんどん機会が減って、今では全てエキストラに入れ替わってしまっている。
エキストラが全て悪いとは思いませんが、芝居に関してはやはり訓練を受けた役者の方が厚みはでます。そういう、「画面の端っこ」からどんどんと質が薄まっていって、今はそれが画面全体になってしまっている、というのが声優業界の実態です。それでもなんとか踏みとどまっていた部分も、この制度でどんどん侵食されてしまうのではと危惧しています。
【甲斐田】 ドラマやアニメというものは、主役級が揃ったから必ず良くなると言うものでもありません。作品全体のバランスを保ったまま厚みを出すためには、有名ではなくてもちゃんと技術がある脇役、しかも多様性のある脇役が絶対に必要です。そのためには、やはり裾野は広くないと作品の、業界全体の質が下がってしまうと考えています。
【咲野】 私はそれを見る視聴者にもリクエストしたいですね。主役級のキャラクター、キャストが目立つのは当たり前だしそうあるべきですが、作品全体として誰がどういった役割を担っているのかということも見て欲しい。かつては各テレビ局が競うように違う役者で吹替版を何パターンも作っていましたが、それを視聴者も楽しんで見比べていたのです。そういう環境、土壌が役者を育てることにもつながるため、視聴者のニーズも多様性を持って欲しいと思います。
【甲斐田】 当時はいろんなパターンの同じ作品を見て勉強したし、私だったらこうしたい、と考えたりもしましたね。
【咲野】 そう。もちろん多様なニーズに応えるためには役者側はもっともっとインプットを増やして精進せねばというのはあります。ここ数十年、学校教育の影響か「一つの正解」を求める若手が多いなと感じています。芝居なんていうのは正解はないですから。ある程度の条件にはまるようにというのはもちろんありますが、もっと広がりを持って、貪欲になって欲しいと思いますね。
――改めて声優の立場からインボイス制度についての考えを教えてください。
【咲野】 この制度は民間にメリットがない制度です。最たるデメリットは、様々な業界をじわじわと破壊していくということにある。自分は関係ないと思わずにぜひこのアニメを見て、そして自分で考えて判断して欲しいと思います。働く形態が違えば知らないこともたくさんあります。隣の芝生が青く見えることもあるでしょう。でもそれを「ズルい」と思うのではなく、業種職種を越えて全体で上がっていけるようにできることを望みます。
【甲斐田】 今日本では様々なことが不可解なまま決まっていくことが増えていると感じます。日本では主権は国民にあるんです。選挙にいって自分の存在を政府に伝えることはとても大切だと思います。そしてこの制度を国民の声で動かすことで、これからの日本が良くなっていくきっかけになればと思っています。Change.orgというサイトでは署名も募集していますのでよろしくお願いします。
★YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」
――このアニメを作ることになった経緯を教えてください。
【咲野】 私たちはインボイス制度の導入に反対する有志の声優が集まっているチームですので、その活動の一環として議員に会いに行ったり周りの仲間たちへの周知活動を行ってきました。その中で、やはりどうしてもこの制度が複雑で理解が難しい。どうにか一般の人たちが受け入れ易く、且つ我々の本業を活かせるような方法はないかと模索していました。
そうしていたら、偶々メンバーの1人が過去に制作したキャラクターがあり、関係者に動画を作れる方が見つかり、そして「スピンノーツ」さんという収録スタジオをお持ちの企業さんが音声の編集をやってくださるという声を掛けてくださって、「これならできるぞ」と作り始めました。
――制作される中で印象に残っていることはありますか?
【甲斐田】 大変だったのはやっぱり最初の台本作りですね。制度があまりにも難しいので、かわいいキャラクターを使ってわかりやすくしようとするんだけど、そうするとどこまでも長くなってしまって…。私たちのTwitterでも何回かに分けて流せるようにしたいと思っていたので、台本作りにはかなり時間をかけたと思います。
【咲野】 逆にいうと、台本ができれば後は我々の本業ですから。収録は思ったよりもスムーズに進んだなと思います。
【甲斐田】 楽しかったよね。普段は同業者だとまずスタジオでお芝居を見て、それから仲良くなっていくことが多いんですが、VOICTIONではみんなの芝居を知らなかったから、ちょっとドキドキしました(笑)。でもみんなイメージ通りというか、うまくハマったものを作れたと思います。
【咲野】 新しい面を見せてくれる人もいましたね。「甲斐田裕子を探せ!」というのは一つの楽しみ方だと思います(笑)。
【甲斐田】 「インボイス」というと政治の話か、と思う方もいると思いますが、生活に直結する話なので、まずはこのアニメを見て制度について知って欲しいなと思っています。私たちは制度に反対していますが、アニメは明確に反対と謳っている訳ではなく「まずは知ろう」「一緒に考えよう」というスタンスで作っているので、これまで私たちが出演したアニメやドラマ・映画を楽しんでくれた方々が、ライトに見て知って、そして広めてくれるととても嬉しいなと思っています。
【咲野】 そういう意味では、ターゲットは「これまでのVOICTIONを知らない人」です。我々の活動を応援してくれる方たちにももちろん見てもらいたいですが、そこからもう一歩外に広がっていくことを望みます。
――そもそも「インボイス制度」とは、どのような制度でどういった問題があるのでしょうか?
【甲斐田】 インボイス制度は、消費税に関する新しい制度です。簡単にいうと民間での税金の押し付け合いです。フリーランスや小規模事業者である消費税免税事業者に仕事を依頼していた企業側が、相手が課税事業者になってくれないと納める消費税額が増えてしまうんです。そのため、これまで消費税を納めなくてよかった免税事業者たちが、課税事業者になることを迫られる場面が至る所で起こってしまいます。その影響で、声優やエンタメ業界だけでなく農家さんや一人親方、デザイナー、ライター、漫画家、アシスタント、ヨガインストラクター…その他ありとあらゆる分野で廃業するかもしれない人が多数出てしまうのです。
――それだけを聞いても一般の人間にはわかりづらいですね。
【咲野】 ですので、このアニメを見ていただきたいと(笑)。本当に複雑な制度なんです。一般の方は「仕入税額控除」なんて言葉、そうそう耳にしませんよね。私もそうでした。でもそんな複雑な制度を、全国で1000万人いると言われるフリーランス事業者たちが理解して登録しないといけないという、とんでもない難易度の制度なんです。しかも登録したら、消費税課税事業者になる。つまり、毎年の確定申告で消費税も別に申告して納めないといけないんですね。この計算式がまた非常に複雑で、青年税理士会はじめ税理士や弁護士の先生たちも「実現困難だ」と強く反対されています。
――ではその制度が始まったら、具体的に声優業界はどう変化していくと思われますか?
【咲野】 我々が昨年11月に行ったアンケートでは、現役声優の3割弱がこの制度をきっかけに廃業を検討していると答えました。70%以上の人が年商300万円以下であると回答していますが、仮に年商300万円の状態でインボイスが始まると、年間15万円程度の増税になるという試算もあります。(※現在日本で声優と呼ばれている人は1万人以上 VOICTION調べ)
【甲斐田】 元々声優は人気商売で、安定とは真逆にある仕事です。課税事業者、つまり1000万円以上稼げているのはほんの一部、アンケートでは5%程度しかいないと知って私も驚きました。声優歴10年目くらいのある声優に聞いたら、「先月とその前は月に30本以上仕事があったけど、今月は2本しかなかった」なんてことも起きる世界です。
誰もが耳にしたことがある声の持ち主でも、シリーズの番組が終わる節目だったり、自身のギャランティを上げたタイミングなんかでは本数が激変します。そもそもの単価がそう高くはないので、月に2本ではとても生活できません。数十本ある月と数本しかない月を交互に過ごして、年間で計算するとやっと300万円くらいになった、という人が中堅には多いのではないでしょうか。来年どころか来月の生活も見通せない中で、多大な事務負担や増税が見えてしまうと、心が折れてしまうのも仕方ないのかもしれません。
【咲野】 甲斐田も言った通り人気商売ですから。人気がなくて仕事がない、実力で淘汰されることは我々は納得済です。でも税制で選択肢を狭めるようなことは、果たして政府がやるべきことなのか、と思います。
――ですが昨今の声優ブームもあり志望者は大勢いますよね。業界の衰退という目線では、そこまで影響がないのではという声も聞こえます。
【甲斐田】 すぐに目に見えて何かが変わるということは、確かにないと思います。でも5年10年経ったときに業界の質がどうなっているか…。
【咲野】 私はバブルが弾けた直後に俳優業を始めたのですが、当時はまだバブルの残り香があって、ドラマなんかの今で言うエキストラのところも、俳優がキャスティングされていっぱしのギャラをもらってやっていたんです。ところが気が付いたらどんどん機会が減って、今では全てエキストラに入れ替わってしまっている。
エキストラが全て悪いとは思いませんが、芝居に関してはやはり訓練を受けた役者の方が厚みはでます。そういう、「画面の端っこ」からどんどんと質が薄まっていって、今はそれが画面全体になってしまっている、というのが声優業界の実態です。それでもなんとか踏みとどまっていた部分も、この制度でどんどん侵食されてしまうのではと危惧しています。
【甲斐田】 ドラマやアニメというものは、主役級が揃ったから必ず良くなると言うものでもありません。作品全体のバランスを保ったまま厚みを出すためには、有名ではなくてもちゃんと技術がある脇役、しかも多様性のある脇役が絶対に必要です。そのためには、やはり裾野は広くないと作品の、業界全体の質が下がってしまうと考えています。
【咲野】 私はそれを見る視聴者にもリクエストしたいですね。主役級のキャラクター、キャストが目立つのは当たり前だしそうあるべきですが、作品全体として誰がどういった役割を担っているのかということも見て欲しい。かつては各テレビ局が競うように違う役者で吹替版を何パターンも作っていましたが、それを視聴者も楽しんで見比べていたのです。そういう環境、土壌が役者を育てることにもつながるため、視聴者のニーズも多様性を持って欲しいと思います。
【甲斐田】 当時はいろんなパターンの同じ作品を見て勉強したし、私だったらこうしたい、と考えたりもしましたね。
【咲野】 そう。もちろん多様なニーズに応えるためには役者側はもっともっとインプットを増やして精進せねばというのはあります。ここ数十年、学校教育の影響か「一つの正解」を求める若手が多いなと感じています。芝居なんていうのは正解はないですから。ある程度の条件にはまるようにというのはもちろんありますが、もっと広がりを持って、貪欲になって欲しいと思いますね。
――改めて声優の立場からインボイス制度についての考えを教えてください。
【咲野】 この制度は民間にメリットがない制度です。最たるデメリットは、様々な業界をじわじわと破壊していくということにある。自分は関係ないと思わずにぜひこのアニメを見て、そして自分で考えて判断して欲しいと思います。働く形態が違えば知らないこともたくさんあります。隣の芝生が青く見えることもあるでしょう。でもそれを「ズルい」と思うのではなく、業種職種を越えて全体で上がっていけるようにできることを望みます。
【甲斐田】 今日本では様々なことが不可解なまま決まっていくことが増えていると感じます。日本では主権は国民にあるんです。選挙にいって自分の存在を政府に伝えることはとても大切だと思います。そしてこの制度を国民の声で動かすことで、これからの日本が良くなっていくきっかけになればと思っています。Change.orgというサイトでは署名も募集していますのでよろしくお願いします。
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2023/02/25