そらる、「みんなで開拓してきた」歌い手シーンの15年 音楽も文筆活動も“人生そのもの”
 ニコニコ動画から始まった“歌ってみた”は、現在では多くの配信プラットフォームへ拡大し、ポップカルチャ―としてコアなファンのみならず一般の音楽ファンにも浸透している。その先駆者とも言える“歌い手”のひとり、そらる(34)が、自身の楽曲を題材にした連載小説『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』を一冊の本として出版する。執筆に至るまでの経緯や作詞との違い、“歌い手“を取り巻く環境の変化について迫った。

『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』を出版する、歌い手・そらる (C)ORICON NewS inc.

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■仕事は“趣味の延長” 活動の意識を変えた、ユニット・After the Rain

 00年代後半から注目を集めはじめた“歌い手”。メジャーシーンに進出し、多くの音楽ファンに認知されるようになって久しい。オリジナル曲も増え、インターネット発の音楽シーンで中心的な役割を果たしている歌い手だが、そらるは自身の活動の原点を、「歌うのが好きで、みんなに聴いてもらいたいという想い」だという。

 「インターネットが身近にあって、歌いながら遊んでいたら気がつくと仕事になっていた感じです。世界は大きく変わりましたけど、趣味の延長であり、“好きだからやっている”という根本にある気持ちは変わらないですね」。

 歌い手として活動を続ける中で転機を聞くと、まふまふとのユニット・After the Rainを発表するころだったという。「活動に対する意識が変わっていった」と振り返り、次第に「責任を持たなければいけない意識がだんだん強くなっていきました」と自身の変化を語る。

 「趣味の延長とはいえ、お金をいただいく以上、責任が伴ってきます。ただ、仕事だという意識が強くなりすぎてしまうと、“やりたくなくてもやらなきゃいけないもの”に変化してしまいそうで、そのバランスが難しかったりします。自分の中の感覚が変わってしまうと、今までと同じように音楽を楽しめなくなってしまうのではないかという不安もあって。活動を始めたときの気持ちのまま、音楽と付き合うようにしています」。

■“盟友”まふまふの紅白出演は、みんなの挑戦の結果の「大きな一歩」

『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』を出版する、歌い手・そらる (C)ORICON NewS inc.

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 歌い手・アーティストとして活動する上で“盟友”と呼べる存在を聞くと、やはり「まふまふ」と即答。続けて「活動、活躍をしている人がいなければ、“歌い手”の盛り上がりがなくなっちゃうし、僕個人としても張り合いがなくなる。そういう意味で、みんな大切な盟友です」と絆を口にする。

 “盟友”のひとりであるまふまふが、昨年末の『第72回NHK紅白歌合戦』に出演したことはまだ記憶に新しいところ。彼の出演を「友だちがテレビに出ている! 紅白だって! すごい! …そういう純粋な、ファンの方と同じような視点で見ていた」と目を輝かせた。

 「15年ほどの“歌い手”の歴史の中で、風向きが一気に変わったという瞬間はなかったように思います。歌い手として活動し、新しいことに挑戦する人がいて、新しい道を少しずつみんなで少しずつ開拓していった感覚。タイアップのお仕事をするだけで反感を買っていたような時期もあったけど、みんなが挑戦していくことで自然と受け入れられ、当たり前にやれるようになった。まふまふの紅白に関しても、急にそこに踏み出したというよりは地続きで道が少しずつできていき、みんなが挑戦していった結果のひとつとして大きな一歩を踏み出してくれたんだなと感じています」。

 認知度も高まり成長を続けていく歌い手だが、ここ数年はコロナ禍でライブ活動が制限される事態もあった。そらるは「すべてのアーティストの方がそうだと思いますけど、影響が大きいのはライブ活動。しかし、マイナスな面ばかりではなかった」と言う。「自分の活動はインターネットが軸なので、ダメージは少なくて済みました。コロナをきっかけに配信が盛り上がり、活動の幅や、交友関係を広げることができました」。

 そんななか、自身初となる小説『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』を上梓するに至るが、「コロナ禍でなければ多分やっていなかった」と言う。「子どもの頃からファンタジー小説が家に転がっていてよく読んでいました。今の創作の原点にあるような感じがする」。自身の同名楽曲をモチーフにした小説で、雑誌『ダ・ヴィンチ』からのオファーで小説家デビューが実現した。

 「当初は『ゆきどけ』など候補曲がほかにもありました。物語調になっている自分の曲の中から『嘘つき魔女と灰色の虹』が一番小説化に向いていると感じ、連載をさせてもらうことになったのがきっかけです」。

 ストーリーは、「すべてが見えている魔女と、見える世界が限定されている人間がいて、魔法使いは正しいことを言っているんだけど嘘つき呼ばわりされている。“見えているものが正しいわけではない”という楽曲のテーマから広がっていった物語です」と説明する。

■歌い手活動は“人生”そのもの「続けていく上で、自然とそうなっていった」

『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』を出版する、歌い手・そらる (C)ORICON NewS inc.

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 小説を執筆する過程では、「違うと感じることの方が多かったかもしれない」と作詞と小説のアプローチ方法の違いを実感した。

 「歌詞はすべてを説明できるわけではないので、あえて書かない、あえて想像力に委ねる部分が強い。僕は作詞のとき、断片的な少ない情報で多くを想像させる書き方をするんですが、小説は一から説明しないと成り立たない部分が強く、苦労した部分ですね」。

 曲作りや作詞は、「一気に書き上げることが多く、長い時間をかけて一曲を作ることはあまりしない」タイプだというそらるは、「世界観を考える作業も大変でしたが、物語が広がっていくほど辻褄合わせていくのが難しかった。後半に差し掛かるほどどんどん難しくなりました。ただ1年以上かけて“ものづくり”をしたのが初めてのことだったので、得るものがすごくありました」と充実感した表情を浮かべる。

『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』(KADOKAWA)

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 小説を書き上げた際の心境を、「やっと終わったというのが強くありました。慣れない作業で正直、書いている途中もう終わらないんじゃないかと思ったこともあったので、ほっとしました(笑)」と明かす。作詞と小説の執筆のどちらが自身に向いているか聞くと、「経験値の面でやっぱり歌詞を書く方が楽」と返ってきた。「ただ、歌詞も好きに文字にすればいいわけではなく、耳触りの良さや音として言葉を聞いた時の気持ち良さを考えながら書く必要があり、求められるスキルが違いますね」。

 そんなそらるにとって音楽や執筆も含めた発信活動がどういう存在か質問すると、少し考えた後、「人生」という言葉を口にする。「ありきたりな言葉になりますが、来年で活動15年になるので、本当に半生を共にしてきたもの。続けていく上で、“人生”になっていったなという感じです。

 最後に、今後のチャレンジについて聞いてみた。

 「趣味の延長が仕事になったという経緯なので、野望はあまりないんです。でも、“歌ってみた”はじめインターネット界隈で、自分は運良く育つことができたと思っているので、“恩返し”ができたらな、という想いはあります。あまり柄ではないのですが、界隈の発展に貢献できるような活動ができたら良いなと思っています」。


取材・文/遠藤政樹
撮影/Mitsuru Yamazaki

YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」

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