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さだまさし、デビュー50周年で勢い増す「どこまで走ることができるか」 グレープも復活

 今年10月にレコードデビュー50周年に突入した、さだまさし。キャリアのスタートは、1972年に結成され、73年10月25日シングル「雪の朝」でレコードデビューした、吉田政美とのユニット・グレープであった。プロとしての活動期間はわずか3年だったものの、「精霊流し」「無縁坂」「縁切寺」など、日本のミュージックシーンに今なお残る名曲を生み出した。この伝説のフォークデュオが2022年11月3日、神田共立講堂で復活コンサートを行った。50周年のスタートを飾るにふさわしい、客席が感動と笑いに包まれた「GRAPE50年坂一夜限りのグレープ復活コンサート」をレポートする。

レコードデビュー50周年に突入した さだまさし

レコードデビュー50周年に突入した さだまさし

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■46年ぶりに2人で立った神田共立講堂 一瞬にしてグレープの世界に

 神田共立講堂はグレープが76年、最後にコンサートを行った思い出の場所だ。1700席以上のキャパシティがあるが、今回は大学側の要請もあり、その半分の888席のチケットが販売された。当時、行われていたコンサートは「満席にならなかったね」と、さだ本人も語っているため、実際に彼らのパフォーマンスを観たファンの数は少なかったに違いない。そんな希少性に加え、1000枚に満たない販売数なのだから、この日のチケットを手にした観客にとって、ヒートアップする条件は十二分に揃っていたと言える。それを感じさせる静かな興奮が会場を包み込んでいた。

 開演時間は15時。コンサート開始には少々早い時間帯だが、北は北海道から南は九州まで、全国各地から集結したファンが、その日のうちに帰れるようにと考えて決定したという。

 定刻にコンサートはスタートした。さだと吉田の2人がおもむろにステージに登場する。やがて流れてきたのは「精霊流し」のイントロ。吉田のギターで奏でるメロディーは心なしか緊張に震えているように聴こえた。吉田の気配を上手に感じながら、さだが歌いだす…。さだのコンサートでも欠かせないお馴染みの曲なのだが、隣に吉田がいて、ギターを奏でるだけで、間違いなく“グレープの歌”になっていることを感じる。オリジナルメンバーの力というのは不思議なものだ。

「神田共立講堂に46年ぶりに帰って来ました。きれいになっていました。あの当時はサビたような渋茶色でした(笑)。神田共立講堂といえばフォークの聖地でね。まさか今になってここで演奏できるとは思ってもいませんでした」(さだ)

46年ぶりに神田共立講堂でコンサートを行ったグレープ

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 ステージは、1、2曲歌ってはトークを間に挟む形で進行していく。派手な動きがあるわけではないため、単調になりがちな2人だけのステージに緩急をつけるのが、このトークだ。当時は止むに止まれず、トークが多く挟み込まれるスタイルが編み出されたのだろうが、それが結果的にさだのトーク力を飛躍的にアップさせることに役立ったわけだから、何が奏功するか分からない。

 続いて歌われたのは「紫陽花の詩」、そしてデビュー曲の「雪の朝」。

「デビュー曲は日本全国で3700枚売れまして、そのうち長崎市内だけで2000枚売れました(笑)。オリコン初登場198位。翌週から永遠に(ランキングに)出てこなかった(笑)」(さだ)

 当時のエピソードで笑いを誘った後、バックバンドをステージに呼び込む。「今日は2人きりにすると心配だからとお節介なメンバーが顔を揃えています。ちょっと若い人たちなので初めての人も多いかもしれませんが…」。そう言って現れたのは、さだのコンサートでお馴染みのピアノ・倉田信雄以下のメンバーたち。客席の笑いはさらに大きくなる。十分ベテランなのだが、2人に比べると確かに少しだけ若い。

■「同窓会はつまらない、新しいことをやろう」新作披露は来年のオリジナルアルバムへの布石

 それにしても面白かったのは、当時の想い出を語る際の絶妙なやり取りだった。明瞭に日にちまで記憶しているさだに対して、曖昧でほぼ覚えていない吉田。

「グレープ時代で思い出すことって何?」(さだ)
「九州毎日放送の先のホテル高倉で「精霊流し」の打合せをやったこと。結構覚えてるだろ?」(吉田)
「それはすごい。でも1月7日だってことは覚えてないだろ? あれは昭和49年の1月7日だった…」(さだ)

 そこから一気にさだの独壇場となり、その翌日まで続く「精霊流し」誕生秘話へと話がつながっていくのだが、吉田の何気ない一言が、さだのネタを次々と引き出していく。まるでミステリーのような、何かドキドキ、ワクワクする感覚をファンに与えてくれるのだ。

会場を笑いで包みこんだ さだと吉田の軽妙なやり取り

会場を笑いで包みこんだ さだと吉田の軽妙なやり取り

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 この日歌われたグレープ時代の曲は、一般的な知名度が高くファンが喜びそうな曲を中心にセレクトされた。グレープのオリジナルアルバムは3枚。収録された楽曲数は35曲。その中から、前出の「精霊流し」をはじめ、「殺風景」「交響楽」「朝刊」「縁切寺」「無縁坂」など11曲が歌われた。繊細でみずみずしい作品達の色合いは50年経っても変わらないということを改めて感じさせてくれた。

 また、ファンにとって嬉しいサプライズだったのは、新作2曲「ゲシュタルト崩壊」、「天人菊〜ガイラルディア」が初披露されたことだろう。前者は、不用意な個人の情報発信から人々が混乱していく現代社会に対する問題提起を歌にしたもの。そして後者は、この花にグレープセンセーションという種があることを知り、「この花に呼ばれているような気がする」と触発されて生まれた。メッセージ性の高いこの2曲を聴き、来年2月15日にビクターエンタテインメントより発売されるグレープのオリジナルフルアルバムが俄然、楽しみになってきた。「精霊流し」「縁切寺」「無縁坂」のセルフカバー新録音3曲に新曲が収録されるという同アルバムで、2人はどんな進化を見せてくれるのか。

「今回、吉田とグレープをやるって決めた時に、吉田が言うのよ。同窓会はつまらない、新しいことをやろうって。新曲を作るってこと? って聞いたら、そうだよって。シングル? って聞いたら、LP(笑)。LPじゃなくてアルバムだね。タイトルは昨日凄いのが閃いて、寝られなくなりました。21歳の時のアルバムが『わすれもの』だから、今回は『ものわすれ』。これしかないだろうって(笑)」(さだ)

 冗談めかしてはいたが、新曲を作り前に進んで行こうという意欲は、吉田だけでなく、さだも同じであるとみた。解散15年目“レーズン”として活動した際には、同窓会的なスタンスであったが、今回のグレープ50周年に関しては、進化したフォークデュオとして活動しようという考えなのかもしれない。

 コンサートは2時間30分に及んだ。最後の曲は「19才」。途中、予定されていなかった「ひとり占い」が追加されたのは、ファンにとってはラッキーだった。アンコールの最後に「またやるから」とさだ。来年もグレープが暴れてくれることになりそうだ。

46年ぶりに神田共立講堂でコンサートを行ったグレープ

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■さだまさしの活動がいっそう活発化 稀代のマルチプレイヤーの新たな挑戦

 ところで、さだの活動がここに来て、いっそう活発化していることにお気づきだろうか。現在、今年6月にリリースしたアルバム『孤悲』を冠したコンサートツアーの真っ最中だが、その傍ら、自分の楽曲制作やグレープでの楽曲制作も並行して行っている。活動は音楽だけに留まらない。7月クールの人気ドラマ『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』(TBS系)では、主人公の父親役を好演、NHKでは、定例となった生放送『生さだ』こと『今夜も生でさだまさし』の放送も続いており、10月からはNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』のナレーション、そしてそこに、深夜1時からの生放送『1時の鬼の魔酔い』(東海ラジオ)も加わった。深夜放送は天から「“深夜放送をやれ!”っていう声が聞こえてきた」そうだが、その他のチャリティ活動まで含めると、尋常でない過密スケジュールだ。

「我々にはまだまだ時間があるような気がしますが、現実にはあまり残されていません。この時間を大切に、どこまで走ることができるか、山で言えばどの高みまで登ることができるのか」とは、グレープコンサート終盤でのさだの言葉だ。

 そこにあるのは、ゴールテープを納得する形で切りたいという想いなのか。稀代のマルチプレイヤーの新たな挑戦が始まっているようだ。そしてそれを後押しするかのように、これまでのさだ楽曲を振り返る旧譜カタログ再発企画も始まっている。10月にはユーキャンより『帰去来』(76年)から『夢の吹く頃』(89年)までの初期のLP盤14枚の完全復刻盤が発売され、11月2日には『すろーらいふすとーりー』(03年)から『恵百福 たくさんのしあわせ』(17年)までのオリジナルアルバムが50周年再発新装版シリーズとして、ビクターエンタテイメントより発売されている。温故知新、過去作品に触れ直し、さだまさしの今後に想いをはせ応援していくのも楽しいかもしれない。

文・垂石克哉

■さだまさし レコードデビュー50周年記念 ビクター再発・新装版12タイトル
 2022年11月2日発売/各3520円(税込)

オリジナルアルバム12タイトルを50周年再発新装版シリーズとして発売

オリジナルアルバム12タイトルを50周年再発新装版シリーズとして発売

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『すろうらいふすとーりー』(VICL-65682)
『恋文』(VICL-65683)
『とこしへ』(VICL-65684)
『美しき日本の面影』(VICL-65685)
『Mist』(VICL-65686)
『美しい朝』(VICL-65687)
『予感』(VICL-65688)
『Sada City』(VICL-65689)
『もう来る頃…』(VICL-65690)
『第二楽章』(VICL-65691)
『風の軌跡』(VICL-65692)
『惠百福 たくさんのしあわせ』(VICL-65693)

オリジナルアルバム12タイトルを50周年再発新装版シリーズとして発売

オリジナルアルバム12タイトルを50周年再発新装版シリーズとして発売

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■グレープ(さだまさし&吉田政美)47年ぶりとなるオリジナルアルバム発売
『タイトル未定』/発売日2023年2月15日発売
 通常盤:VICL-65764/価格:3850円(税込)

関連写真

  • レコードデビュー50周年に突入した さだまさし
  • 46年ぶりに神田共立講堂でコンサートを行ったグレープ
  • 会場を笑いで包みこんだ さだと吉田の軽妙なやり取り
  • 46年ぶりに神田共立講堂でコンサートを行ったグレープ
  • オリジナルアルバム12タイトルを50周年再発新装版シリーズとして発売
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